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逆鱗のハルト  作者:
逆鱗のハルトⅠ

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53/846

文化も人も違うので。①

湖畔の街アデルドからバルティックまでは、馬車でも10日くらいかかる。


草原は、やがて少しずつ草の数を減らして、土と石が増え、果ては岩場になっていく。


「なんか、雰囲気変わってきたね」

ボーザックが流れていく景色を窓から見ている。

「ノクティア南東部からハイルデンは岩場が多いよ。ハイルデンは鉱山も多いし」

「へぇー、山が多いの?」

「そうだね。確か領土の殆どは山だって。山岳の国ハイルデンって言われてるくらい」

ディティアが受け答えしているところに、質問を重ねる。

「そうすると鍛冶とかで栄えてるのか?」

「いいえ、鍛冶よりも製鉄に長けていたはずよ」

ファルーアが答えてくれた。

「鉄かあ」

「鉄だけじゃなく、宝石類の類でも相当な量を産出してるわ」

あーなるほど。

「なんかお金持ちそうだな」

「…それは、どうだろ」

ディティアがちょっと困った顔をする。

「ハイルデンには山岳地帯で暮らす民族がたくさんいるの。けど、奴隷制度がある国でね。だから格差があるみたい」

「へぇ…奴隷制度」

まだそんな国あるんだな。


ラナンクロストじゃ考えられない。


「とりあえず、ハイルデンに着く前にバルティックで詳しく調べよう」


ちょっと不安になってきたな…。


******


途中で何度かフェンが狩りをしてきたので、馬車に一緒に乗っていた人達に振る舞いながら、バルティックに辿り着いた。


簡単に表すなら…何これ、要塞?


高い壁が左右に広がっている。


「何だこりゃ」

「昔はハイルデンと争って睨みを利かせていた街だったのね」

「なるほどなぁ」

外壁から中に入るのにも、御者がチェックを受けていた。

それだけでなく、ノクティアへの入国申請と、ハイルデンへの入国申請もここで受け付けているそうだ。

そういえばタパにもあったなぁ……。


「まずはギルドで申請しちまうか」

馬車から降りた俺達はグランの提案に頷く。


街中は賑わっていた。


ずらりと並ぶ露店は、タパと通じるものがある。

豊富なのであろう石材で造られた建物が立ち並び、道は馬車がすれ違える程に広い。


街自体もかなりの規模だ。


「さあさ、冒険者の皆さん!ハイルデンに行くなら山岳ブーツだよ!」

「高所は寒いからね!防寒具も忘れないで!」

そして、すごく声をかけられる。

多くの冒険者が足を止めて商品を物色していて……あれ?


「なあディティア。あれって…?」


屋根が付け外し出来るタイプの馬車がゆっくり移動していく、その荷台。

今は屋根を外してあるものの、そこには良い生地の服を纏って、ぎらぎらした宝石類を身に着けている女がいた。


そして、その荷台の後ろ…首を繋がれ、歩く男が。


「あぁ……うん、あれが奴隷だね」

「……他国にまで出張ってくるんだ」

「うん…」


かと言ってさ。

俺達はそこに口を挟める立場じゃないし。

ただ見ているしかなかった。


ハイルデンの印象、どんどん悪くなるな。


そんなこんなで、ギルドに到着。

丁度街の中央あたりに位置していた。


入ると…お?


「何よ!文句あんの!?」

「大ありだ!ギルドに奴隷制度は無い!」

な、何か揉めてる…。


入ってすぐの広間。


小柄の赤髪少女と、ギルドの制服のムキムキ男が怒鳴り合っていた。

少女は髪色とよく似た暗めの赤いドレスで、細身の剣を提げている。

その傍にはやはり小柄の軽装備の少年がおろおろしている。


その首には、首輪が見えた。


「だから、冒険者に国は関係ないでしょ!?奴隷登録してって言ってるだけよ!?」

「ふざけるなくそガキ!冒険者は皆冒険者!養成学校を出てるならそいつも奴隷なんかじゃねぇ!立派な冒険者なんだ!」

「ふん、コイツにそんな価値無いわ!戦ってるのはいつもあたしなんだから!」


……うーん、とりあえず内容からだいたいのことはわかるんだけど……。


他の冒険者達も遠巻きに見ているものの、皆いい顔はしていない。

それなのにこの勢い、ある意味あの少女はやばい。


「……関わるにはちと骨が折れる話題だな」

グランが眉をひそめる。


しかし。

「!、ねぇそこのあんた達!ちょっと、その犬は登録してあんの!?」


うわあ……。


目聡くフェンを見つけた少女が、ずいずいとこっちにやって来る。


「ねえ、聞いてんの!?」

先頭にいたグランの前で腕を組み、見上げて睨む少女。

…ある意味その勇気はすごいぞ。

「……グルル」

それを見ていたフェンが低く唸った。

「っ、何よ生意気な犬ね…べ、別に噛み付いたりしないわよ!?ねえ、登録してんのよね!?」

矛先はディティアに向いた。

彼女はしどろもどろに頷く。

「えっ?え、えぇ、そうだけど…」

すると少女はしてやったりって顔で、ギルド員を振り返った。

「ほら!魔物は所有物として登録なんでしょ!?なんであたしの奴隷は駄目なのか説明しなさいよ!」


………。

俺は、ちょっとイラッとした。


「……フェンは俺達の仲間だけど?物としてってのは形式上で必要だっただけだ。……というか、そっちこそ国の事情持ち込むなよ。ギルドでは関係ないでしょ」


思わず言葉が出る。

「はあ、ハルト…あんたやってくれるわねぇ。ま、お子様にはお灸が必要なのは賛成するわ」

後ろでファルーアがため息をつきながら、賛同してくれる。


少女は大きな赤い眼を見開いて、みるみる赤くなった。

「ふ、ふざけないでよ!何!?あたしが子供だからって舐めてるの!?」

「ふふ、舐めてるんじゃないわ?ルール違反は怒られるって教わってないのかしら?お子様には早かったわね。大人になりなさいなお嬢ちゃん」

ファルーアは優しい声で、そっと告げた。

その声音でも、背筋がぞっとする。


こわ…。


少女はぶるぶると震え、歯を食いしばった。

「ふんっ、もういいわ!行くわよ!!」

その声に控えていた少年がはっとして、少女の後ろに続く。


そして、すれ違いざま、俺達に小さく頭を下げた。

「…すみません」


……ちょっといたたまれない気がするけど、それを引き止める程の権利は俺達にも無かった。


******


「悪かったなああんたら」

ムキムキのギルド員が、何故か俺達を小さな部屋に招いてくれた。

訳が分からない内にお茶が出されて、お礼を言われたもんで、逆に困った。

「いや、俺達は自分の仲間のことで反論しただけで…」

思わず言うと、ギルド員はがははっ、と笑う。

「その意気込み気に入った!最近の冒険者達は骨がねぇからな!何か探してる依頼とかないか?斡旋してやる」

「斡旋してやるって……あんた、ギルド長なのか?」

グランが聞く。

「おお!悪かったなあ、名乗ってねぇや!バルティックギルド長、ガーデンだ!」


がははっ!

笑うギルド長に、俺達は顔を見合わせた。


……このギルド長、さっきまで青筋立てて怒鳴ってたのになぁ。


「そんじゃあハイルデンについて教えてくれねぇか?俺達はハイルデン王に用がある」

グランは迷い無く、首に提げた名誉勲章を差し出した。


「……!」

ギルド長ガーデンは、その瞬間にすっと真剣な顔になる。


「はあん、あんたらがあのタイラントを討伐した白薔薇か。……わかった、待ってろ」

部屋を出て行くムキムキな男を見送り、俺はため息をついた。


あー、ほんとにハイルデンに行くの憂鬱になってきたなぁ。


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