太陽が恋しいので。④
雨はしばらく降っていた。
けど、段々と湖の上空が明るくなっていく。
ずぶ濡れになり、何て言うか主に気持ちがすり減った前衛と俺、そして文字通り疲労困憊のメイジ部隊、やることが殆ど無かった弓使い達は、全員でギルドに戻った。
とりあえず、討伐完了の手続きが終わる。
ちなみに、食べても大丈夫らしいアマヨビは、その身さえも殻同様堅すぎてさ。
良い匂いなんだけどなぁ…噛み切れないんだよなぁ…。
後の素材の確認は、ギルド員に任せることにした。
報酬が確定するのはその後である。
俺達は1度宿に戻り、濡れた装備や服を洗うことにした。
他の冒険者達も、思い思いに散らばっていく。
報酬を受け付けるのは夕方以降ってことになった。
******
討伐依頼の完了手続き自体は終わったので、個別で報酬を受け取れる。
俺達はいくら貰えるか想像しながら、再度ギルドに赴いた。
フェンは宿で寝そべってたんで、来るか聞いたらそっぽを向かれたんだ。
ほんと失礼な奴だなぁ。
報酬額を決定すべく、ギルド員達は湖畔に放置されたアマヨビの素材調査を行ったわけだけど。
何と。
出てきたんだよ。
アマヨビから、太陽が!!
伝承には太陽を掬うべし、とあった。
救う、じゃなくて、掬う。
変な気はしてたんだけどさ。
出てきたのは、黄金の真珠?だったんだ。
しかも、ひと抱えくらいあるやつ!
本当に太陽みたいで、俺達は変な歓声を上げた。
「あ、アマヨビは、過去にも真珠をもたらし、あ、アデルドを豊かにしていた、そうです」
ギルド長の説明に、へぇーと頷く。
「これ、どうすんの?」
思わず聞いたら、とんでもない答えが返ってきた。
「昔から、王家がかなりの金額で買われているようです。こ、これもアナスタ王に買ってもらって、冒険者の皆さんへの報酬と、街の復興支援に、使います。し、白薔薇の皆さんは…今回の討伐に関わってくださったことは報告として上げさせてもらいます」
「えっ、報告??何で??」
「お、王家の印をお持ちなので…上げないと大変なことに」
「うわーお」
ボーザックが苦笑する。
「そんな面倒なことするのか?」
グランは頭を抱えた。
「これ、そういう印なのかしら?いちいち報告されるのは面倒だわ」
雷が遠ざかり、すっかり顔色が良くなったファルーアがスリットの入ったローブで足を組む。
「あ、後で王から、褒賞が出るのではないかと」
「ギルドで先払いできねぇのか?」
「ぎ、ギルドは国からは独立してますから」
まあ、そうだよなー。
「でも割引とかあるって言ってませんでしたっけ」
ディティアが聞くと、ギルド長は汗をひたすら拭った。
「た、確かに、何らかのサービスはしないといけません。ぎ、ギルドはそれを対価の一部とすることで、ノクティアに設置させてもらっているので…」
「え、そうなんですか?」
「は、はい。4国間で設立された際に、その取り決めもあったようですよ」
「へぇー、勉強になるなあ」
「まあ、今回はハルトが知らなくても仕方ない内容ね」
「ファルーア、どういう意味だよっ」
とりあえずそんなこんなで、俺達は宿の割引を受けられることになる。
ギルドからの口添えでってことで決着となった。
******
次の日。
俺達は宿から出て驚いた。
どこにこんないたんだ?ってくらい、人がいたのである。
「すごいわね」
「ファルーアも殆ど閉じこもってたけどねー」
「消し炭になりたいの?ボーザック」
「うぇ、え、遠慮します」
「お、見ろよ」
グランに言われて見上げれば、さんさんと輝く太陽。
足元に水たまりは残っていたものの、街全体が明るく輝いている。
これが湖畔の街アデルドの本来の姿なのかもな。
歩く人達のどことなく嬉しそうな顔。
すれ違う昨日一緒に戦った冒険者達からも、きさくな挨拶が飛んでくる。
湖畔に向かうと…おお!
それはそれは綺麗な水をたたえた、美しい湖がそこにあった。
日の光を反射してきらきら光る水面。
空が映る湖面には、時折魚が跳ねる。
離れたところには小さな船。
そして、アマヨビがいた小島。
「こりゃあ、想像以上だな」
「はい、綺麗ですねえ」
空気が美味しい。
少し離れた場所には、牛みたいなやつが放牧されている。
…そういえば。
「ステーキだねぇ」
「だなぁ」
ボーザックと眺める。
「釣りもするぞ」
「本当好きなのねぇ」
グランとファルーアも湖面を眺めていた。
ひとり、ディティアだけが空を見ている。
「どうした?」
「えっ?ああ……太陽、恋しかったなぁって!」
頭上に輝く黄金。
俺も頷いて、隣に立った。
「ほんと、しばらく雨も雲も見たくないな」
「雷もね!」
******
それから5日間、のんびりと過ごした。
俺は属性耐性バフの修得に向けて練習をしつつ、グランとボーザックは釣りをしつつ、ディティアとファルーアはフェンと散歩しつつ。
肉も魚も堪能した。
討伐依頼も受けて、身体を鍛えるのは怠らない。
あとは、街に来た商人達に菓子白薔薇の宣伝。
うん、中々こなしたな!
街の活気もずいぶん出てきてさ、本当に良かったと思う。
アデルドに着いてから1週間後、俺達は次の街、バルティックに向けて出発。
バルティックは次の国、ハイルデンに近い。
ハイルデンの文化も入ってきてるみたいだし、まずは少し情報収集からだ。
「次の街はどんな美味しいものがあるかなー」
「全くもう、遊びに行くんじゃないのよボーザック」
「がう」
俺達は、乗合馬車で揺られながら、街道を南下するのだった。
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