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逆鱗のハルト  作者:
逆鱗のハルトⅠ
5/843

逆鱗とやらに触れたので。①

「有名になりませんか」


その言葉のなんと甘美なことか。


予想外の台詞だったのもあって、完全に俺達パーティーの動きは止まっていた。

その沈黙の間に、ギルド員が居心地悪そうにもじもじする。

「あ、あのー?…あれですか。皆さんは名声とかあんまり要らない派ですか…もしかして疾風のディティアさんも実は有名なのが嫌いですか」

「…っは、いや、とんでもない。丁度名前を売りたかったとこではあるからな」

我に返ったグランが、拳を突き出す。

安心した様子のギルド員だったけど、グランはそのいかつい顔をずいっと近付けた。

「しかし、ひとつ訂正してくれるか」

「うわっ、え、な、何ですか!?」

「協力してもらいたいのが疾風のディティアだけってのは、如何なもんだ?」

可哀想に、ギルド員は眼を白黒させていたが、事情をすぐに察したようだ。

中々どうして、優秀なギルド員である。

俺ならグランのいかつさに耐えられない。

「失礼しましたっ、私達ギルドとして、白薔薇に協力してもらいたいのですが、いかがでしょうか?討伐の暁には、名誉勲章が発行されるでしょう」

グランはにやりと笑って胸を張った。

「おう、俺達白薔薇、この依頼を受けるぞ」


******


とは言え。

大規模討伐依頼なので複数のパーティーが集まるまでは細かい調整も出来ない。

ギルドは3日で15組集めると言い切り、早速用紙を貼り出して呼びかけを始めた。

とりあえず時間が空いたので、俺は皆に提案する。

「武器の調整と、防具の新調をした方がいいと思うんだけど、どう?」

「あ、賛成。鎧の強度が少し心許ないんだよー」

ボーザックは鈍色の鎧をコツンと叩いて見せた。

度重なる冒険で、鎧は傷だらけ。

あちこちがたがきているとのこと。

「まあ金はそれなりにあるしな。討伐出来ればそれ以上に報酬もありそうだ」

「じゃあ決まり。終わったら宿に集合でいい?」

「ああ。ほら、これで足りなかったら相談しろよ」

グランが資金をそれぞれに渡して、俺達は解散した。

ちなみに、パーティーのお金は小遣い制。

グランがそれ以外をまとめてくれている。

程よく節約したりしてくれるので、ありがたい話だった。


「ハルト君、ハルト君」

「ん、ああディティア」

「同じような装備だし、一緒に見てもいいかな?」

「おう、もちろん。そんじゃまず鍛冶屋に行こう」

「うん!そしたら、行きたい鍛冶屋さんがあるんだけどいいかな?」

「お勧めがあるのか?それなら疾風のディティアにお任せしようかな」

俺は自分の双剣を撫でた。

こいつは4年前に買って、磨いたり研いだりしながら使ってきたものだ。

さすがに強度も怪しいし、鍛冶屋で整備してもらいたかった。

「そういえばディティア、その双剣っていつ買ったの?」

「ああ、これ?これは2年前にね、貰ったの」

「貰った?」

「うん。大規模討伐依頼を成功させた時に、パーティーメンバーが皆でプレゼントしてくれたんだ」

腰にクロスして装備した双剣に、彼女は愛おしそうに手を添えた。

鞘にも綺麗な装飾があって、美しい剣だ。

「そうだったんだ。綺麗な剣だよな」

「…そうね。手にもすごく馴染んでるの」

「大切にされてたんだな、ディティア」

「……うん、皆優しかった」

俺は無言で彼女の頭を撫でた。

彼女はいつものように恥ずかしそうだったけど、何かを堪えるように、されるがままだった。


******


「おや、疾風の」

鍛冶屋に行くと、どっかの騎士みたいな優男に出くわした。

上下とも殆ど白い服で統一され、艶消しの金色の鎧をまとい、マントに至っては濃い青だ。

そして腰には細身のロングソード。

襟足が少し長い髪は銀色、切れ長の瞳は青。


おお…すごい貴族感出てる…。


きらきらした背景が似合う優男は、その場で深々と頭を下げた。

「こんなところでお会いするとは、何やら運命だね」

「いや、そんな大それたものではないと思います」

ディティアが苦虫をかみつぶしたような顔をするので、俺は小さくふぅん、と唸った。

彼女はどうも、この優男が苦手らしい。


鍛冶屋はそんなに広くなく、壁伝いにあらゆる武器がずらりと並べられていたので、10人も入れば一杯になりそうだった。

工房はカウンターの奥にあって、ガラス張りで仕切られて煌々と火を燃やす鍛冶場を見渡すことが出来た。


「相変わらずだね疾風の。君も武器の調整かい?」

さらりと髪をすく優男。

おお……そういう動作ですら外見にぴったりだ。

「ええ。シュヴァリエ」

名前まで貴族感だった。

どっかで聞いたことある気がするし、本当に貴族なのかも。

「ははっ、閃光の、って付けてくれてもいいよ疾風の」

ぶはっ。

ぼんやり考えていた俺は、思わず吹き出した。

今、こいつ、何て言った…?

閃光の?

閃光のシュヴァリエ??

「ところで、君のお連れは?名前は何て言うんだい?」

そして成るべくして、矛先が俺に向いた。

こいつ、疾風の、とか呼んでるところから見ても2つ名大好きな奴なんだろうな…。

ディティアが何かを言おうとするのを制して、俺は前に出た。

「あんたに名乗る程の名前は持ってなくてな。もう少し有名になったら名乗らせてもらうよ」

笑ってみせると、シュヴァリエの片方の眉がくいっと上がった。

「そうか。それではその時まで名前を聞くのを待っておくよ」

嫌味なほどさわやかに言い放って、閃光のシュヴァリエは颯爽と鍛冶屋を後にする。

「そうそう、大規模討伐依頼、私達グロリアスも受けるのでね。よろしく頼むよ、疾風の」

…そう言い残して。


「ごめんねハルト君…まさかあんなのに出くわすなんて」

「ははっ、珍しく辛辣なんだな?…あれが閃光のシュヴァリエ?」

「うん…2つ名持ちばっかりを集めたパーティー、グロリアスのトップなんだけど…どうしても好きになれなくて」

ディティアはぐったりした様子で、近くにあった双剣を手に取った。

「前の時も、私のパーティーメンバーを馬鹿にするようなことばかり言うから…」

「まあ本人は至って良かれと思ってやってる感じしたけどな」

「うう、そうなんだよね。悪い人ではないんだけどね」

「ふうん……まあ、見返す機会はあるか」

「え?」

「今回の大規模討伐依頼のこと、口にしてたろ?俺達が発見してるって知ってるってことだ」

「あ……うん、そっか!…名誉勲章…!」

「そう。見返してやろうじゃないか」

言ってウインクを投げると、ディティアはぱあっと頬を紅潮させた。

「…よし、そうと決まったら、ハルト君。まずはその武器、強度もあって手に馴染む奴に変えるよ!」

「え、これ?」

「ずーっと気になってたんだよ!それ、ハルト君の手に合う双剣じゃないんだもん。もっとね、こういう曲線のが合ってる。そもそも双剣は……!!」

俺は言葉を挟む間もなく、ディティアの双剣語りに付き合わされることになった。

双剣にこれほどこだわりがあるとは…驚いたなぁ…。


「いい剣があって良かった、あの鍛冶屋さんね、すごく評判なのよ!」

ほくほく顔でディティアが俺の剣を見ている。

ディティアの選んでくれた一点物の双剣は、確かに握るとしっくりきた。

柄の部分の曲線と、刀身の長さがうんぬんと説明があったが、あまり覚えてない。

気に入ったのは、刀身に模様が刻まれていることと、鞘にも同じ模様が型押しされていることだった。

職人曰く、ドラゴンを模した模様らしい。

しかしながら相当な金額を叩いたので防具購入に不安があって、俺は渋い思いをしていた。

俺はバッファーだから、攻撃力よりも防御力な気がするんだけどなあ。

「次は防具だね。ハルト君、剣は自分で出してくれたから、防具は私が出すからね」

見透かされたのか、彼女がこっちを覗き込む。

「あー、いや、いいよ」

「私の装備は、まだがたも来てないから。それに、グランさんには許可もらってるよ」

「え?」

「ハルト君の装備を固めるように使っていいって」

…ぐ、グランの奴!!

ディティアは最初からそのつもりで付いてきたらしい。

「い、言えよな、初めから…」

なんだか恥ずかしくなって、俺は歩くスピードを上げる。

小さく笑うディティアの声が、耳をくすぐった。


******


「閃光のシュヴァリエに会った?おおーどうだった?」

宿にはボーザックが帰っていた。

グランとファルーアはまだみたいだ。

ディティアはお茶を買いに行くと出て行ったので、その間に俺はありのままを説明して、ボーザックを笑わせた。

「はははっ、閃光のシュヴァリエって本当に強いみたいだけど、それだけ聞くと変人なんだなあ。でも討伐依頼に参加してくれるなら、飛龍タイラントにも楽勝な気がしてきた」

「そうだなあ、グロリアスは全員2つ名持ちのパーティーらしいし」

「でも、バッファーは居なかった気がする。ハルトがバフかけることになるんじゃない?」

「え、そうなのか?…あいつにバフかあ…」

わいわいと盛り上がっていると、グランとファルーアが帰ってきた。

「あ、おかえりー。って、どうしたの2人とも、変な顔して」

「あ?あぁ、いや、下でな…」

「ええ、なんだかディティアがきらきらした人と話してたから、どうしたものかと、ね」

「!?」

がたんと立ち上がった俺に、2人の表情はにやにやとした笑みに変わった。

「あら、どうしたのハルト?」

「お前ら、性格悪いなあ!」

笑い転げるボーザックの声を背に、俺は階下に向かって全力疾走した。


「ディティア」

「あっ、ハルト君」

「やあ、名無し殿」

案の定、ディティアの傍にいたのは閃光のシュヴァリエだった。

「これはこれはシュヴァリエ殿。どうかしました?」

「ははは、閃光の、と付けてくれてもいいよ」

なんだこいつ…。

俺は脱力しつつ、お茶を持ったままの彼女の隣に立った。

「今、疾風を我がパーティーに誘っていたんだ」

「はあ!?」

ちょ、ちょっと待て。

パーティーメンバーの前で、それ、どうなんだよ?

思わずディティアを見ると、ものすごく困った顔をしていた。

「彼女に相応しいのは我がパーティーではないかと思うのでね。どうだろう?名無し殿からもお願いしてもらえないか?」

「だからシュヴァリエ。前の時もそうだったけど、私は私が居たい場所にいるの。仲間を馬鹿にするのはやめて」

「馬鹿になんてとんでもない。同じ2つ名の境遇を分かち合える仲間が、君には必要だろう?…一月半前の討伐を忘れたのかい?」

「…っっ」

ディティアの口が、ぐっと引き結ばれる。

こいつ、ディティアの仲間が亡くなった大規模討伐依頼のことをこんな風に…。

ふつふつと怒りが湧いてきた。

「わ、私は…!」

「グロリアスのメンバーはあの討伐で誰も死ななかった」

「…!」

ディティアの肩が震える。

ここで見てるだけなんて、男が廃るってもんだよな?

俺はディティアの前に歩み出た。

「おい、シュヴァリエ」

「なんだい、名無し殿」

「残念だよ、崇高な閃光のシュヴァリエがこんなくそみたいな奴だったとは。俺はハルト。彼女の仲間だ。悪いけど、彼女に話しかけないでもらえる?」

「これはこれは…手厳しいな。飛龍タイラントの前に君の逆鱗に触れたようだね。それじゃあ期待しているよ、君達が我々グロリアスより素晴らしい勇姿を見せてくれると」

どうやら宿が一緒らしいシュヴァリエは、じゃあね疾風の、と言葉を残して階段を上がっていった。

気が付けば、結構な大声で話してしまったので、周りの視線が痛い。

「ハルト君…」

俺達はその視線から逃げるように、部屋に戻った。


******


「それでグロリアスに喧嘩を売ったと」

グランに言われて、俺は反論した。

「違うって!あいつが悪いんだからな」

「まあまあハルト。グランも、今のハルトをからかうのはちょっと可哀想よ」

俺が行くようにけしかけたことが後ろめたいのか、ファルーアが庇ってくる。

それにもイライラして、俺はグランに詰め寄った。

「あんな言い方する奴に黙ってる必要あるの?」

「落ち着けハルト」

「これが、落ち着いてられるかよ。何なんだよあいつ」

「だからこそ、落ち着け」

グランに低い声で言われて、俺は盛大な不満のため息を付いてとりあえず椅子に座った。

「…グロリアスに喧嘩を売ったからには、勝つ」

「は、え?」

グランは堂々と宣言すると、言葉を重ねた。

「しかしこれは大規模討伐依頼で、他のパーティーとの連携が必要になるのはわかってるな、ハルト?」

「……わ、わかってるよ…!…関係悪くしたのは謝るよ…」

「それでいい。だから、こうしよう」

ちょいちょいと手招きされ、全員が頭を寄せる。

俺もしぶしぶ近寄った。

すると、グランは意地の悪い笑みを浮かべて、言い切った。


「トドメを俺達、白薔薇がもらう」


******


「ハルト君」

「おーディティア。眠れないの?」

その夜、バルコニーに出た俺の後からディティアがやってきた。

街の灯りの向こうに真っ暗な海が広がっていて、うっすらと雲がかかった夜。

彼女はううんと首を振って、隣に立つ。

「お礼を言いに来ました」

「お礼?」

「うん。シュヴァリエに喧嘩売ってくれて嬉しかったので」

「はは、グランにはちょっと怒られたけどな」

「あはは…でも、私は救われたよ。…ありがとう、ハルト君」

「あんまり真っ直ぐ言われるとさすがに照れるんだけどなあ」

俺が少し笑うと、彼女は微笑んだ。

「ハルト君なら、シュヴァリエも絶対に欲しくなるよ」

「……ん、んん?何だよそれ」

「ハルト君や白薔薇の皆はきっと有名になる。2つ名も…格好いいのつけよう。だから、シュヴァリエは欲しくなるよってこと」

「うわあ、嬉しくない褒め言葉って初めてだ」

ディティアはそこで初めて声をあげて笑った。

やっと、自然に笑えるようになってきた彼女を、あんな奴らの傍に置くとか考えられない。

「文句言わせないくらいには、やっぱならないとダメなんだよな」

「え、何?」

「いーや、何でもない。よし、ディティア。飛龍タイラントにトドメを刺すのに、どんなバフが有効かちょっと相談乗ってくれよ」

「おー、それなら俺達も交ぜろ」

「って、グラン!?何だよいたのかよ!」

「うんー、俺達もちゃんといるよー」

「うわー、お前ら最低ー」

俺はディティアに頷くと、部屋に戻った。


題名が登場します。


続きは順次投稿します。

今のところ、1日1話を目標。


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