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逆鱗のハルト  作者:
逆鱗のハルトⅠ

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49/847

太陽が恋しいので。①

次の日になっても、雨は止まなかった。 

服は乾いたものの、また濡れるのも癪だしなあ。


外の様子を見ると、それはそれは厚い雲がずーっと広がっている。

しばらく止みそうにない。


「グラーン」

部屋に引っ込んで、頭上でバツを作ると、グランは髭を擦りながら頷いた。

「とりあえず午前中は様子を見よう」


俺もそれがいい気がした。


ところが。


待てど暮らせど雨脚は弱まらない。

雷もごろごろ言いっ放しで、ファルーアは外に出たがらない。


食糧は余裕があるからいいとして…武器や防具も磨き終えてしまった。


こんな時はバフの練習をしてるけど、俺以外の皆はやることが無いわけで。


「暇だねぇ」

ぼーっとしながら、ボーザックが呟く。

「ほんとだねぇ」

ディティアは、綺麗に磨いた双剣に、磨き残しがないかチェックしていた。


俺、知ってる。

そのチェック、もう5回目くらいだ。


相当暇なんだろうな。


俺は手の上でバフを広げながら、外を窺った。


すると。


「あれ?誰かこっち来るぞ」

雨のカーテンの向こうから、人らしき影が2つ駆けてくる。


皆顔を上げた。


「やあ、先客とは珍しいですな」

「お邪魔させてください」


やってきたのは、ポンチョをすっぽり被り、足元も防水ブーツの商人らしき2人組。

フードをとると、髭もじゃの男性と、娘か奥さんか…って感じの女性だった。


背中が膨らんで見えるのは、商品かなんかを背負ってるんだろう。


「ああ、散らかしててすまねぇな」

グランが鎧をまとめて寄せる。

ディティアとファルーアはポンチョをたたんだ。


「それじゃあ失礼して……おっ、よっ、入れませんな」

「師匠、1度荷物を降ろして順番に入れましょう」

「おっ、そうしますかな」


師匠…って事は家族じゃないのかな。


俺達は彼等が入るのを手伝った。


******


「私達はハイルデンから来た商人でしてな。王都まで行く予定なのです」

「ここには何回も来たことあるのか?」

さっき先客は珍しいって言ってたし。

聞いてみると、彼等は頷いた。

「はい、年に2回くらいは来ますのでな。皆さんはどちらへ?」

「俺達は逆だよー、王都からハイルデンに向かうんだ」

ボーザックが2人のために火を起こす。

正確には薪を積んだだけで、ファルーアが火を付けたんだけどな。

「ただ雨がすごくてなぁ」

グランがこぼすと、商人達は驚いた。

「ああ、まだ王都まで情報は行ってないのですな」

「何の話?」

聞き返すと、髭もじゃの商人がポットを取り出しながら笑う。

「とりあえず、お茶でもお淹れしましょうな」



湖畔の街、アデルド。

そこは、今、まさに水没の危機なんだとか。


お茶を有難くいただきながら、商人の話を聞いてみる。

何事かって、もうびっくり。


雷雲を生み出す魔物が湖に棲み着いてしまったらしい。

つまり、今もって降り続くこの雨が、その魔物の仕業なんだってさ。


そんな魔物、聞いたこと無いけど…。


「私達もアデルドに立ち寄りましたが、アデルド周辺とその北側はずーっとこんな雷雲ですな。ですから、雨宿りしていても困るだけでしょう。……そら、わんちゃん、おやつをあげよう」

隅っこで丸まっていたフェンに、髭もじゃの商人が乾し肉を投げる。

フェンは臭いを嗅ぐと、ぱくりと咥えて背中を向けた。

「フェン、御礼くらいできるだろ」

思わず言うと、フェンはふんと鼻を鳴らした後に、商人に向かってくるりと回ってみせる。

「おっ、お利口なわんちゃんですな」

「師匠…あれは狼だと思います」

「おっ、そうかそうか」

フェンはその言葉にがっかりしたのか、すねて完全に背中を向けてしまった。


はは、誇り高きフェンリルも形無しだな。


「私達はどんな魔物か知りませんが、街の人達は心当たりがあるそうですな」


そんなわけで大規模討伐依頼が出るらしいことを、商人達が教えてくれた。

俺達は参加するべく、早々に出発することにする。


何のことは無い、このままだと美味しいお肉に有り付けそうにないからだ。


グランとボーザックは釣りもしたいらしいから、話はすぐにまとまった。

…ファルーアだけは今回使い物にならなそうだなぁ。


ただ、その前に。

「これ、よかったら王都で売ってるからさ、ハイルデンにも広めてよ」

俺は預かっていた菓子白薔薇の箱を開けた。


「おっ、これは何ですかな?」

「ナンデスカットの新作お菓子ですな」

おっと、口調が移った…。


彼等は1枚の花びらを口にして、眼を丸くする。

「師匠…これは売れます」

「そうですな!仕入れて帰りますかな。日持ちはするのですか」

「確か1年くらいだって」

伝えると、2人は嬉しそうに笑った。


******


雨の中を2日歩き続け、途中で馬車とすれ違った。


御者に聞いてみると、湖からもくもくと雲が湧き上がっているらしい。


「段々水位も上がってるらしいんで、商人はさっさと引き上げてるんです。このままだとアデルドは孤立しちゃいますよ」


覗いてみると、馬車の中は大きな荷物を背負った商人らしき人がぎゅうぎゅうだ。

俺達は顔を見合わせて、アデルドまでを急ぐ。


何て言うか…きっと街の人達は困ってるんだろうなって思ったら、助けたいと思ったし。


皆もそんな気持ちだと思う。


出来るだけ休憩を省き、坦々と。


******


やがて、雲なのか霧なのか、靄がかかる視界に、草原じゃない景色が広がってきた。

絶えず雷鳴が轟き、空が青白く、時にはほのかに赤みを帯びた色で点滅する。

眼をこらすと、降り注ぐ雨に脈打つ水面が確認出来た。

「湖だ!」

思わず声を上げる。


広さは視界が悪くてわからない。

ただ、アデルドがもうすぐだってことはわかった。


湖畔の草が、雨水に沈んでいるのを横目に、足早に街道を進む。

これ、水面が上昇したからなのか?


急がないと。



やがて、ちらほらと家の影が見えてきた。

活気は無く、じめじめした空気が満ちている。


湖畔の街アデルド。


想像とはかけ離れた、暗い街がそこにあった…。


******


広場にも、路地にも、人がいない。

歩いているのは冒険者らしき人影が数人だけ。 足元は水たまりだらけで、濃い雨のにおいしか、しなかった。


そんな中を進み、それなりに大きなギルドの扉を開ける。


中には、意外にも結構な数の冒険者達が思い思いに過ごしていた。

まだフードを被ったままで、俺達はとりあえず受付に進む。

とりあえず宿は確保しないとだしな…。 


「あっ、いらっしゃい!皆さんは認証カードお持ちですか!?」

ばたばたしているのか、ギルド員が受付のカウンター内を忙しなく行き来している。


認証カードの有無を聞かれるってことは、大規模討伐依頼の開始がすぐ迫ってるのかも。


フードをとると、冒険者達の数人が「あ」と洩らしたのが聞こえた。

俺達を知ってるのか、ディティアを知ってるのか…まだまだ微妙なんだよなあ。


「ほらよ」

グランが、名誉勲章と王家の印が入った小さな紅い石を差し出す。

ギルド員は息を呑んだ。


「名誉勲章…?嘘、王家の印まで……は、拝見しますね」

さらさらと眼を通して、ギルド員は零れそうなくらいに眼を見開いた。


「わ、わあぁ、わあああ……ぎ、ギルド長ーーー!!」


何だ何だと冒険者達がざわつく中、とりあえず手続きを急ごうと決めていた俺達はフードを被り直す。


まずはアデルドで何が起きているのか。

俺達は知る必要があった。


うん、はんぶんくらいは、自分達のためにだけどさ。


本日分の投稿です!

まずは評価やブックマークありがとうございます!


どんどん増やせるようにがんばります。


毎日更新してます。

平日は21時を目安にしています。


明日は少し遅くなる予感です。

出来れば早めに書き上げて投稿しちゃいたいと思います。


よろしくお願いします。

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