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逆鱗のハルト  作者:
逆鱗のハルトⅠ
48/844

旅しませんか。⑤

ディティアの話が終わると、昼を少し回ったくらいで。

俺達は街道沿いの木陰で昼ご飯を食べることにした。


ちょっとだけ疾風の話の余韻があって、何となく自分の今までやこれからに思いを馳せたくなって。

「……」

ぼんやりと旅の軌跡を思いながら、宿で準備しておいてもらったおにぎりを頬張る。

塩気が丁度良く馴染んでいて、もちもちした食感にほっとした気持ちになった。


見渡す限り、草原。


数日前はフェンがいて、草むらから獲物を咥えて飛び出してたっけなあ。


やっぱりというか、出会いや別れも思い返してしまう。

まだ、半日経ってないのも大きい。


「フェン、大丈夫かな?」

隣に、ディティアが腰を下ろす。


俺は噛み砕いたおにぎりを飲み込んで、頷いた。

「大丈夫…だといいけどなー」

「両親と一緒なのは心強いよね」

「俺は親離れも大事だと思うけどー」

「ふふ、そうだね」


ウルもルフも、王都で大人気になるだろう。

そうすると、フェンも、有名になる。


「誘拐とかされないといいけど」

思わずこぼすと、ディティアが微笑んだ。

濃茶の髪がさらりと揺れる。

「フェン達は強いけど、やっぱり心配しちゃうね」


俺はぼんやりとおにぎりを頬張ろうとした。


かっ


「ん…!?」

歯が、何も噛めずに合わさる。

何かが俺の鼻先を掠めたのはわかったけど……って!

着地したそれを眼で追って、俺は叫んだ。


「フェン!?」


銀色の美しい毛並みに、知的な眼。

それでも幼さの残る1メートルくらいの体格。


フェンリルが、俺のおにぎりを咥えて尻尾を振っていた。


うん、一瞬、本気で幻覚かと思ったよ…。


******


「何だよ、来るなら言えよな」

おにぎりと水を堪能した満足そうな銀狼。

フェンは差し出した俺の手を尻尾で叩いたけど、その後、1度だけそっと頭を擦り寄せてくれた。


うわー、何これ感動。


すぐに離れて他の皆に甘えだしたけどな!


葛藤した後に、きっと俺達を追い掛けてきてくれたんだろう。

ただ、息は全く切れていない。

もしかして、付いてきてたけど出てくるのが照れくさかったのかもな。


「おー、来たかちび助。待ってたぞ」

グランにも撫でさせてるフェンを見てちょっと腑に落ちない。


「フェンリル~会いたかったよー」

まあボーザックは許す。


ディティアとファルーアが嬉しそうにフェンをもふもふする。

ウルとルフの方がもふもふ度は高いが、フェンの毛並みはシルクのような肌触りで気持ちいい。


俺は滅多に触れないけどな。


「フェン、一緒に旅するか?」

聞くと、フェンはふすーっと息を吐いた。


あたりまえでしょ?とでも言いたげだ。


俺達の旅に、新しい同行者。

その日、銀色の魔物は、本当の意味で共に歩む仲間となった。


******


実は、俺達はフェンが来てもいいように、食糧も多めに確保してたんだよな。

主に乾し肉を増やしてあるから、フェンが狩り出来ない日も安心だ。


俺の前をちょろちょろするフェンの、揺れる尾を眼で追いながら俺達は街道を歩き続けた。


1週間は特に魔物に襲われることもなくて、天候も乱れなかったんでかなり距離を稼げたんだけど。


十日目あたりから、どうも雲行きが怪しい。


「こりゃあ降るな」

グランが空を見上げてこぼす。


真っ黒な雲が、まだ昼間なのにどんよりと影を落としていた。

肌に触れる空気も湿気をはらんで、草の匂いが濃くなったような気がする。


「雨は嫌になるわ」

ファルーアがため息をこぼすと、待ってましたとばかりに鼻先に雫が落ちた。


「おっとっと…」

慌ててポンチョを取り出して皆に渡す。

あ、フェンのが無いな…。


「フェン、俺のポンチョもぐる?」

フェンに聞いたら、フンって言われた。

「そんな露骨に嫌がらなくてもさあ」

「あははっ、相変わらずだね」

ディティアにも言われて、ちょっとふて腐れてみせる。


とはいえ、毎回濡れるのも可哀想な気はするな。


「街でフェンのポンチョも探してやるか」

そんなものがあるかはわからないけども。



雨脚は一気に強くなった。

雷まで鳴り始めて、アデルド方面に稲妻が奔る。

足元はどんどん悪くなって、整備された街道と言えど水たまりだらけ……むしろ水没してるぞ。


ブーツの中までびっしょびしょだ…。


ここまで濡れることって、冒険者になってから数えるほどだと思う。


あと3日くらいでアデルドの予定だっただけに悔やまれるな。


ガラガラガラッ……ゴゴオオオーーーン


まだ雷雲は遠いのに、物凄い音が響き渡った。


「ひゃ」

首を竦めたファルーア。

そういえば雷苦手だったっけな。


「ファルーア、雷駄目なんだね!」

ディティアが笑う。

ファルーアはポンチョをすっぽり被って、縮こまっていた。

「ええ、あの大きな音と光が……」


ズドォーーーン


「きゃあー!」

「おおッ!?」

飛び付かれたグランがつんのめる。

「おまっ、ファルーア!危ねぇだろ」

「そっ、そそそっ、そんなこと言われても!」

噛み噛みのファルーアも珍しいから放っておこう。


結局、ディティアにしがみつくようにして歩くことを決めたファルーアだった。


そうして、しばらく歩いていると。


「ねぇハルトー」

「ん?何だボーザック」

「五感アップのバフで耳が痛いんだけどー」

「!!」

俺は驚いて、すぐにボーザックとディティアのバフを解く。

「ちょ、言えよな!鼓膜破れても知らないぞ!?」

「ええっ、ハルト君忘れてただけなんだ……」

ディティアが肩を落とすので、その頭をポンチョの上からぽんぽんする。

「人間、忘れることはあるよ」

「えっ、何で私が慰められてるのかな!?」

ディティアは左側にファルーアをくっつけたまま、ぷうっと頬を膨らませた。


「とりあえず、どっかでやり過ごすぞ」

グランの一声で、俺達は歩みを早めた。


******


しばらく……いや、かなり歩いた。

恐らく太陽も沈んだ頃だろう。

それでも雨は強くなるばかりで、もう滝みたいだ。


そこで漸く、街道沿いで巨大な岩が突出している場所を見つけた。

入口は狭そうだったけど、入ってみるとかなり広い。


少しだけ登りになっていて、水が入ってこないようになっている。


焚き火の跡もあって、どうやら道行く人が同じように使ってるみたいだ。

ラッキーだったな!


明らかに人工的な横穴があるから、焚き火も出来るように工夫されたんだろう。

しかも、きっと前に来た人が集めてくれたんだろう枯れ枝が端っこに積み上がっている。


ここら辺の低木を薪代わりにしてるんだ…晴れたら少しだけでも足しといてあげないと。


「ふうー、助かった」

グラン、ボーザック、俺はポンチョと鎧を脱いで、鎧は壁際に寄せる。

ポンチョは水気を隅ではらって、立てた。

そう、このポンチョ、立たせる事が出来る。

乾かすのが楽なすげー優秀アイテムなんだ!


鍛治士の街ニブルカブルで動きやすいポンチョを探していたときに見付けた、恐らく仕立屋の自信作だと思う。


「さて、着替えたいんだけどどうかな女性陣?」

俺が声をかけると、ポンチョを脱いだ女性陣が口々に答えた。

「どうぞー」

「いいわよ」

「がう」

「ええ……俺達は恥じらいがあるんですけど……っていうかフェン、お前も恥じらってくれてもいいんだぞ?」



今日はそのまま泊まることにして、焚き火を焚いた。

ちなみにファルーアがいるから火種に困ったことは無い。

さすがメイジ。

魔法様々だ。


ちなみに俺が最近確認したバフは、寒いときに温かく感じたり、暑いときに涼しく感じるというもの。

この大陸はそこまで温度変化が無いから今のところは役に立たないんだけどなー。

ってことで、覚えるのは後回し。


山越えの時とはまた違う、旅してるーって感じに、俺達は久しぶりに夜中まで語り合ったのだった。


本日分の投稿です!

毎日更新してます。


平日は21時を目安に更新中。


次の話では久しぶりにバッファーを活躍させる予定です。


評価もブックマークも嬉しいです!

ありがとうございます。

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