災厄の宴には。⑤
******
大規模討伐依頼。
ここ、トールシャのトレージャーハンター協会でもその呼び名なのかは知らないけど、参加するのはかなり久しぶりな気がした。
最後は災厄の黒龍アドラノードだったはずだから、半年以上前になる。
「……各地の協会支部から手配をします。トレイユ方面には百を目標とした部隊を手配し、砂漠方面には二百を」
「に、二百? そんなに?」
説明をしてくれるマルレイユに、ボーザックが目を丸くする。
確かに、飛龍タイラントの時ですら八十人だしな。
アドラノードの時はもっといたのかもしれないけど、部隊をいくつにも分けて行動したからあまり実感はない。
「ええ、あくまで目標ですけれど。また、この討伐はカサンドラ首都の中央治安部隊長……実質、自由国家カサンドラの頂点の男性と、アルヴィア帝国皇帝、ソードラ王国の国王からの依頼として行う許可を取ります。……いえ、『取れます』ね? ユーグルのウル」
慈愛に満ちた優しい笑みが、ロディウルに向けられる。
ロディウルは思い切り首を竦めると、苦虫を噛み潰したような顔をして、両手を上げた。
「……まあ、取れるやろな。俺らユーグルが動くのんやから。なんなら、さらに北のドーン王国からも取れるで」
「そういえばシエリア王子がドーン王国の王族だったわね。ドーン樹の原産国でしょう?」
ファルーアは金の髪を指ですきながらこぼす。
……ドーン樹って、聞いたことあるような気がするな。
俺は少し考えて、白髭のメイジを思い出した。
「あー、確か、龍眼の結晶の杖……それを作るときに、柄の部分の素材として名前が上がってたな」
「あら、ハルトよく覚えてたわね。そうよ、爆炎のガルフが教えてくれたわ。まあ、角が足りたからいいのだけど」
彼女は言いながら、白い杖の柄を指先でなぞる。
「その通りや。せやからかもしれんけど、あの国は魔法を使える奴らが集まってるで」
「へえ……」
感心しながら頷いて、そういえばシエリアと一緒にいるラミュースもヒーラーだったなと思い当たった。
うふふ、と笑いながらシュレイスをからかう姿が、脳裏の隅に浮かんで消えていく。
少し前に別れたばっかりだけど、早速力を借りることになるかもしれないな……。
「では、とにかく動き出します。災厄の討伐、そして、なにかを知っていると思われる『アルバス』という男の捕縛が目的です。……白薔薇の皆様にはここ、カサンドラ首都で『演説』を――」
「――待て待て待て。『演説』? なんだそりゃ」
マルレイユが流れるように紡いだ言葉に、グランの突っ込みが入ったのはそのときだ。
俺は顔を上げて、グランとマルレイユを交互に見た。
「勿論、災厄の黒龍アドラノードを倒した冒険者としての演説ですよ」
さも当然、と言いたげなマルレイユは、それはそれは慈愛に満ちた笑顔で柔らかく言い募る。
グランは仏頂面で、顔を歪ませた。
「それ必要か?」
「ええ、とても」
「それで人が集まるのか?」
「ここは自由国家カサンドラですからね、豪傑のグラン。国民は皆、夢を追いかけているのです」
「いやいやいや、演説に関係ねぇだろ」
「ですから、夢のような物語を実現した者の話に、士気は高まるでしょう」
「聞けよ……」
肩を落としたグランは、ため息をつく。
隣で、ボーザックが苦笑しながら言った。
「マルレイユ会長って、結構強引だよね」
******
ユーグルの偵察部隊はすぐに動き出し、同時に爆風も出発するそうだ。
偵察結果はわかり次第、伝達龍によってすぐに各国へと伝達されることになっている。
俺たちは明日カサンドラで演説、そのあとは輸送龍を操るカンナと一緒に、先行してトレイユの近く……輸送龍を飼う村まで移動することになった。
その途中でソードラ王国王都を回り、そこでも部隊参加を呼び掛けなければならない。
……アルヴィア帝国には、まだ会ったことすらない皇帝と、研究都市ヤルヴィのトレージャーハンター協会支部長ストーがいるため、そこに部隊編成を依頼。
ついでに言えば、研究都市ヤルヴィに駐屯していた帝国兵の隊長アーマンや、俺たちと剣を交えた黒鎧の大男ガルニア、バフが使えるヒーラーのリューンもいる。
こちらはなんとかなるだろう。
内容をしっかり聞いた俺たちは、準備のために一度解散。
部隊の必需品はマルレイユが手配をするそうだ。
馬車もかなりの数必要になるだろう。
「商人さんが戻ってきてるから、買い物はできそうだね」
ディティアがそう言いながら、買い足すものを口にした。
館の外に出てきた俺たちは、傾いた陽をいっぱいに浴びながら、商人たちが簡易的な露店を開く場所へと向かう。
人はそれなりに多くて、瓦礫を運ぶトレージャーハンターたちや、おそらくは一般人もいるようだ。
「夜はロディウルともう少し話がしたいなー」
「爆風のガイルディアとも、ね。ハルトと違ってフェンが気を許してるようだし?」
呟いた俺に、ファルーアが笑い、フェンはふす、と鼻を鳴らした。
いつもならすぐ突っ込むんだけど……。
五人とフェンでこうして歩けることが感慨深い俺は、思わず笑ってしまうのだった。