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逆鱗のハルト  作者:
逆鱗のハルトⅠ
42/843

気に入りませんか。①

商業の国、ノクティア。

女王と呼ばれるのは気に入らないという、王様ペレスディアナスタは商業の才能を認められて王になった。


長い名前すぎて覚えられないなあ…。

見透かされたのか、彼女は笑った。


「アナスタでいい、どいつもこいつも覚えん。むしろ覚えてきた奴は余を恐がっているか下心があるかの二択しかない」


どういうわけか俺達……というか主にグランが気に入られたみたいで、失礼なことをしたお詫びにと食事に招待されたんだけど。

いやいや、口調とかからは多少したしみやすくてもさ、この人王様なんだよな…?


ちょっと畏れ多い気もする。


けど、グランがすんなり承諾しちゃったんで、仕方ない。


丁度もうすぐ昼食時ってことで、準備が始まる。

俺達は1度応接間に戻されて、思い思いに座った。


「グラーーーン!俺、息止まりそうだったよー」

「あぁ?結果オーライだろ」

「もう、打ち首にでもされるか、よくて冒険者続けられなくなるか…って思ったわ」

ファルーアも珍しくぐったり。

グランはふん、と鼻を鳴らすと背もたれに身体を預けた。

「んなこと言っても、最初から情報売れとか何様だと思うじゃねぇか」

「まあ王様だけどね」


ついこぼしたら殴られた。


******


豪華だけど豪華すぎない昼食会が始まった。

お酒も並んで、アナスタ王の横には謁見の間にいた男2人が、やっぱりぴくりともせず控えている。


侍女の代わりなのかなあ……?


「さて、白薔薇のグランに乾杯」

「アナスタ王に」

グランは呆れたように応えると杯を掲げる。

俺達も同じようにしてから、王が座るのを待って席につく。

アナスタ王は楽しそうだ。


「ふふ、それにしてもお前達、中々やるじゃないか?あのタイラントをね……さぞかし儲かっただろ?」

「おうよ、それなりにはな」

「へぇ、認めるのかい」

「当たり前だ、俺達にとっては有名になるための第一歩だからな」

「有名にねえ。……まあ、フェンリルを手懐ける辺りからしても只もんじゃないだろう。しかし、お前と、そこのファルーア。2つ名の予定は無いのか?」


あれ?

フェンはナンデスカットで留守番させてるのに、そんな噂になるもんか?

それに、2つ名って…。


「おかまいなく、私は予定があるわ」

ファルーアはさらりとかわしてお酒を口に含んだ。


アナスタ王はそうかと頷くと、グランを見る。

「グランはどうだ」

「……調べたのか?」

「当たり前だ。素性もわからずに交渉も出来ないだろ?」

グランは肉を頬張りながら、ふぅんと頷いた。

「そんなすぐ情報が入るもんか?」

「ギルドと王家は繋がりが必要だからね」

「つまり情報は買えるってことか」

「そう!……ってことで交渉といこう」

「聞くだけ聞いて断ってもいいのか?」

「ん、連れないこと言うねお前……」

「試されるようなことは嫌いなんでな」

ここで初めて、アナスタ王がしかめっ面になった。

「だから、悪かったって言ってるだろ?」


グランに会話を任せている俺達は、はらはらしながらも今のうちにと料理を堪能しておく。

食べられる時に食べないとな!


ため息をつきながら、彼女はひと言付け加える。

「もう、小っちゃい男になるなよグラン」


「見た目は大きいけどね」


ボーザックがぽつりと言うと、グランの眉がぐぐっと寄った。

さっと眼を逸らすボーザック。

アナスタ王はお気に召したようで、からからと笑った。

「いいね不屈!」

「でしょう?」

ボーザックも王のペースに慣れてきたらしい。


アナスタ王は肉をがぶりと噛みちぎると、話を続けた。


「お前達とギルドの意見に余が同意するために、取引がしたい。これは当たり前の話だと思わないかい?」


「別に同意しなくても、俺達は書状を届けるだけが仕事だ」

グランは敢えて、どうでもいい態度をとる。


本当は、同意してもらうべきなんだってのは、ちゃんとわかってるはずだ。


「腹の探り合いは交渉の初歩。ここで、じゃあ同意しないと言うつもりは勿論無いけど…お前可愛くないねグラン」

「グランが可愛いとか言われたら、ちょっと自信無くすわ」

ファルーアがため息をつく。


「お前達は仲間か?敵か?」

グランが呆れると、ディティアが笑い出した。

「あははっ、グランさんに任せておけば大丈夫ですから、どんどん突っ込めるんですよー、グランさんは寛大な気持ちで許してください!」

「まさか疾風に言われるとはな…ハルト、ちゃんと面倒見ておけよ?」

「あー……」


…これ、酔ってるなあ。


はらはらする心臓に悪い状況に、彼女はお酒ばかり口にしていたようだ。

いやこれ、グランのせいだろ。


笑いながら手を叩く彼女に、ファルーアが水を渡している。


「ふ、変な仲間ばっかりだなグラン」

「お褒めの言葉どうもだよ」


そんなわけで本題。


……海の向こうの国では、魔力結晶の研究が進んでいるらしい。

結晶に込めた魔法を、特殊な器具で引き出して使うことが出来ることは遺跡の出土品からわかってるらしいけど、その仕組みが解明されつつあるんだってさ。


遺跡も、俺達の居る大陸よりもかなりの数が存在し、調査はどんどん進められているんだとか。


そうするとどうなるかっていうと、それを使った道具や武器が発明されて、魔力結晶が高騰するはず、らしい。


掘り出したのか造り出したのか、俺達以外にはまだわからない結晶だ。

遺跡以外では見つからない、有限の原料ってことだな。


買い占めが起こるのはわかる。


けど。


そこで魔力結晶の造り方を知る者がいたらどうなるか?


間違いなく狙われる。

もしくは、買収されるだろうな。


それを防ぐため、まずは強くなること。

これは俺達が勝手にやればいい。


そして、後ろ盾を手に入れること。

バックに着く権力、これがアナスタ王の交渉材料の1つだそうだ。


「つまりね、バックに付いてやるから、うちの国を富ませろって寸法さ」

「さっぱりわからん、そもそもあんたの国を富ませる方法なんて知らん」

「ふふん、これさ」


彼女は優雅に菓子白薔薇の花びらを1枚つまむ。


「うちの国の菓子。これにはお前達の名前が付いている。もっと有名になれ。そして輸出の宣伝をしろ」


黙って聞いていたファルーアが、ここで会話に入った。


「後ろ盾になるって、具体的にお菓子を宣伝させるだけじゃないでしょう?……私達に付くメリットを感じないわ」


……確かに。

俺達が有名になっても、お菓子が売れるかはまた別。

どうせなら国の伝手で広める方が早そうだ。


アナスタ王は頷いた。


「ああ、勿論それだけなわけないだろ。……お前達は、魔力結晶を買い占めな。金は出す」

「それ輸出に使う商品を集めろってことかしら?」

「……いや違うな。魔力結晶はお前達が使え。その代わり、菓子を売れ。ナンデスカットから一定の額を献上させることで国は潤う」

「はあ?……献上させるって…」

「案ずるな、あの店はこの国に必要だからな、潰すほどせしめたりはしない。…余が期待するのは、その先だ」

「先?」


アナスタ王は不適に笑った。


絶対に、どこぞの誰かが兵器を作る。

それを阻止することは難しいが、原料を集めてしまえばこっちのものだ、と。

そして、ギルド設立の立役者である4国間では、この情報を芯として同盟関係を結ぶ構造があると書簡にあった、とも言った。

「余は、4国間全てでお前達の後ろ盾を引き受けるつもりで話してるんだ」


「それ、あんたが決めていいものか?」

グランが呆れたように告げる。


確かに、そんな国同士の書簡の内容まで持ち出してくるのは如何なもんかと思ったりも。


すると、アナスタ王はからからと笑った。


「いいか?乗れそうな波を感じた時、色々な計算、打算諸々を鑑みて、行けると思ったら乗るのが商人なんだよ!」


打算があるのかよ……当然と言えば当然だけどさあ。


「余の国は商業の国。ならば交渉材料を富ませ勝利を勝ち取ってみせよう」


彼女の中では、既に戦争に向かう時代が確立されているのだと、その時、気付いた。



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[気になる点] そりゃ、王女っていうのは王の娘を指す言葉なんだから、そんな間違った言葉で呼ばれたら気に入らんのは当たり前でしょう。
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