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逆鱗のハルト  作者:
逆鱗のハルトⅠ
41/843

お菓子になったので。④

王様への謁見が三日後に決まったという連絡は、菓子白薔薇を食べた日の午後だった。

礼服は謁見の前日に仕上がるらしく、それまでは自由。

そこで俺達は簡単な討伐依頼をして過ごすことにする。


ウルとルフはナンデスカットが気に入ったらしく、入口に立って人懐っこそうに尻尾を振り、大量の客を呼び込んでいた。


看板犬…ならぬ看板魔物。


子供には体勢を低くして恐くないよアピール。

こいつらあざといなあ…。


そんなわけで、一緒に来るというフェンだけ連れて、俺達は草原に出てきた。

「さて…対象の魔物はどこかなーあ」

ボーザックがきょろきょろする。

草原は優しい風が吹き抜けて、草の匂いを運んでくる。


少し雲が多い日で、たまに日が陰った。


「がう」

フェンがひと声。

獲物を見付けたらしく、その場でくるりと回った後、草むらに飛び込んで行った。


俺達は臨戦態勢になる。

鈍らないように、今日は全員バフ無しだ。


数秒後、草ががさがさと揺れてフェンが。

それを追うように、魔物が飛び出してくる。


「わーお、対象のやつってトカゲみたいな奴じゃなかったー?」

ボーザックが笑う。

「魔物の区別を教えるのは難しいかー?」

グランも、笑いながら盾を構えた。


出てきたのは頭が二つある蛇のような魔物。

確か、偽龍だったっけ。

龍じゃないけど、龍のふりしてるみたいな。

1メートルくらいの小さい奴だ。


「がう」

「あれ、また見付けたのか?」

フェンは俺達の反応に何か違うと気付いたのか、すぐに次の魔物を連れてきた。

最初の奴はグランとボーザックに任せて待ち構える。


…また偽龍だった。


「がう」

「あっ、次も見付けたの?じゃあ私が」


さらに偽龍。


そして。


「おい、ハルトー」

「ええ、俺?」


結局、7匹の偽龍を叩き伏せて、グランが文句を言う。

フェンはどうだと言わんばかりに尻尾を振ってるから、怒るのも可哀想な気もするしなあ…。


そこで俺は、依頼書を引っ張り出して、そこに描かれた簡単なイラストを見せた。


「フェン、こいつ探してるんだけど、見付けられる?」

フェンはそれをじっと見た後、くるりと回って草むらに飛び込んでいった。


…待つこと3分。


少しばかり心配になってたところに、フェンが飛び出してくる。

「がう!」

「おおフェン、どうだっ……た!?」


おおおお!?


出てきたのは確かに対象の魔物だった。

だったけど!


「5匹は多いわねぇ……」


討伐依頼は1匹。

それに対して5匹!


多すぎる!!


トカゲみたいな魔物は1匹が2メートルくらいあった。

あれだ、タイラント討伐の前に戦った、ガイアシャークをもっとトカゲっぽくした感じ!

グランが注意深く盾を構えながら、号令をかける。

「おい、ひとり1匹だ!ビリは夕飯奢れよ!」

「ええーっ!?」

俺は双剣を構え、文句を言った。

「それ、俺の確率高すぎる気がするけど!?」



……もちろん。

俺が奢る羽目になったけどな!!

納得いかない!!


******


「あははっ、ハルト格好いーい!」

ボーザックがげらげら笑う。

俺は鼻を鳴らした。

「お前も同じ服だかんな!?」

「ふふ、でも2人とも似合ってるよー」

「おっ、ティアほんと?俺格好いいかなあ!」

「うんうん」

ディティアも、俺達と同じようにきっちりとした礼服を身に纏って微笑む。

俺は思わずじーっと見てしまった。

ほわんとした小動物さながらの雰囲気だけど、中々似合ってる。

黒を基調としたドレスは胸の下あたりで切り換えされて、綺麗なラインを描いていた。

「うん、ディティアも似合うな」

「うん!ティア良い感じー」

「えっ、そ、そうかな??」

はにかむところもまた可愛い。

リスかうさぎかと悩みながらきゃっきゃしているところに、グランとファルーアが戻ってくる。


彼等は入城の手続きをしてくれていた。

「……グランはいかついねぇ」

「悪そうですね」

ボーザックとディティアが思わずこぼす。


「ああ?」


『ごめんなさい』


俺とファルーアが笑って、グランは鼻を鳴らした。


これから、謁見である。


ナンデストから預かった、龍をモチーフにした型押しがされた美しい白い箱には、菓子白薔薇が入っているはずだ。

俺だったらこれは嬉しい。


王様は忙しいそうだけど、週の半分はこうして謁見の時間を数時間だけ取るという。

常に外の情報を取り入れ、目新しい商法や商品には投資もするんだってさ。



やがて、俺達の名前が呼ばれ、謁見の間に通された。


あ、今更緊張してきたかも……。



内装は、ひと言で表すなら落ち着いていた。


ワインレッドの艶めく絨毯の先に、金の縁取りで細工の施された同じ色の椅子。

柱の立ち並ぶ、神殿のような空間。

窓が無い代わりに、天井がすべて曇りガラスで覆われていた。


そして、その中で一際目立つのは椅子にゆったり腰掛けて足を組む、蛇のようなきつい眼光の女性。

褐色の肌に長い黒髪、その額にはティアラが輝いている。

まだ若い、と思う。

何となく神秘的な雰囲気だ。

その傍には控える2人の男。


つまりは…。

王様は女性だったらしい。


完全に意識を持ってかれた俺達(うん、主にグランとボーザックと俺)は、我に返って王様の数メートル前まで進んだ。

確か、タバサさんに叩き込まれた作法では、こう。


胸元に手を当て、礼をしたまましばし待つ!

どうだ!


「顔あげな」


…ん?


俺は若干戸惑いながら、ゆっくりと顔を上げた。

なんか今、すごく王様らしくない言葉遣いじゃなかったか?


「作法は学んできたようだね、しかしここではいらん。とりあえず名乗りな」


うわあー恐えー。


頬が引き攣りそうになる。


グランが、パーティー名と全員の名を告げると、王様は肘掛けに肘をついて頭をもたせ、じろじろと俺達を見た。


「白薔薇…確か飛龍タイラント討伐のパーティーがそんな名だったねぇ。お前達なのか?」

「おう…っ、はい」

ファルーアが後ろからグランのモモ裏を抓ったのが見える。


痛いやつだ、あれ。


「へえー、見た目によらないもんだね。それで?要件は?」

グランはファルーアから書状を受け取ると、少し近付いて跪き、掲げた。

「ラナンクロスト国より預かった書状を持ってきた」

あっ、微妙に敬語になってないぞ。

ファルーアの顔が恐い。


すると王様は控えていた男に書状を取らせて、その場で目を通す。


きらりと眼が光ったように見えた。


「へーぇ。お前達、高い情報を持ってるようじゃないか」

「…」

レイスと魔力結晶のことだな。

グランは立ち上がって、その場で王様と対峙。

この国では、俺達は使者でもなんでもないわけで、ずっと跪くのは逆におかしいんだとか。


王様はグランを見ようともせず、ふんと鼻を鳴らした。


「いくらで売る?」

「売らん」

「…おや」


意外そうな表情になった王様が、腕組みして立つグランを見つめる。


俺達からは背中しか見えないけど、むしろ隣のファルーアが、ファルーアが…恐いぞ。


「何か別の物をご所望か?」

「いらん」

「…」


ぐ、グラーーーン!?

俺達は、はらはらと行方を見守る。


何かがグランの逆鱗に触れたらしい。

俺が言うと冗談みたいだけど、本当にキレてる気がする。

これ、大丈夫なのか??


「俺達は使者でもなんでもねぇし、この国の人間でもねぇしなあ。この情報を売ってやる義理も、持て囃してもらう義理もねぇよな」

「へぇ」

「そもそも王様がこんな高圧的な商談してくるんじゃ話にならねぇ。あんたらには永遠にこの情報を渡すべきじゃ無いと進言くらいはしてやるよ。やめてほしけりゃナンデスカットに泣き付くんだな!せっかくの菓子だがあんたみたいな奴に喰って貰いたくはねぇだろうよ」

そこまで言い放って、グランが踵を返そうとしたら。


「ぶふっ、ぶはっ、あははっ、へーえ!お前いいな!気に入った!」


突然、王様が膝をばしばししながら笑い始めた。

グランが何だこいつとばかりに目を見開くと、王様はちょいちょいと手招きをする。


「悪かった!最近の商人はご機嫌取りしかいなくてな!ナンデスカットの新作なんぞ、どんな手法で手に入れてきたかって腹が立ったんだ!」

ひー!と高い声を上げながら、彼女は笑い転げる。

床にまでへたり込んで笑うから、むしろ俺達が引いたんだけど。


しかし、控えている男2人はぴくりともしなかった。


俺達をモチーフにしたお菓子だと説明してやると、彼女は上機嫌で頷いてくれる。

お菓子になったせいで、むしろ余計な詮索を招いたってことはわかった。


…さすが、絶望的な疫病神。

やってくれるなあ、ナンデスト…。


本日分の投稿です。

平日は21時を目安に更新中です!


毎日更新していますので、

よかったらまたどうぞ!


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