お菓子になったので。③
ナンデスカさんのご厚意に甘えることにして、俺達は王様への謁見の手続きを丸投げさせてもらうことに。
そのため、ナンデスカットに滞在することになって、部屋を2つ貸して貰えた。
職人達が修行するのに滞在する共同施設らしく、短期で見学に来る留学生みたいなのも結構いるってことで、部屋数には余裕が有るそうだ。
さすが商業の街。
留学生なんて、ラナンクロストではあんまり聞かなかったなー。
知らないだけかもしれないけど。
まだ日は高いものの、ギルド長が来るっていうしと部屋で待たせてもらう。
そうこうしてる間に、ナンデストが呼びに来た。
「ギルド長が来たみたいですよ」
その姿に、俺達はぽかんと口を開ける。
「なんだ、お前その格好」
白い4つボタンの職人の服に、真っ赤なネクタイ。
頭には背の高い白いコック帽。
しっかり撫でつけた髪。
「すっげー!ナンデスト、職人みたいだねー!」
ボーザックがにこにこすると、ナンデストは眼を見開いた。
「はい?職人みたいって何です?職人ですよ!?」
「そういやそうだったか」
「グランさんまで!?」
ナンデストは憤慨して、とりあえず行きますよ!と肩を怒らせて行ってしまった。
「お菓子はまだかなー」
ボーザックがふんふんと鼻歌を歌いながら、付いていく。
俺達も後に続いた。
ちなみに、フェン達はディティアとファルーアの部屋だ。
******
「やあやあ皆さん!」
「……何でここにいるんですかねカコ」
通された客室にいて立ち上がったのは、ナンデストの幼なじみというギルド員。
カコと言うらしい快活な少女はふふんと笑うと腕組みをした。
「ナンデストと幼なじみだから、伝言を任されたのよ!」
「任された……?無理言ったんでしょう?」
「そうとも言うわ!」
ナンデストは俺達を振り返り、もう駄目だとばかりに哀しそうに首を振った。
えぇー。
俺達は苦笑するしかない。
「新しいレシピの試食はまだ?」
カコはそんなことも気にせずに座り直す。
俺達も腰を下ろした。
「まだですよ。っていうか、カコのはありませんけど」
「えーっ!?何で、値段つけてあげるわよ!?」
「だからいいんですってば…。今回は王様への献上も行うので短時間で2個だけ作るんです」
「じゃあ1個頂戴よ」
「駄目に決まってるでしょう!?白薔薇の皆さんがモチーフなんですから」
「ええ?この人達がモチーフ?……まあ話題も考慮すればいい値段のパーティーな気がするけど」
カコは中々失礼なことを言いながら、書類を取り出した。
「まあいいわ、その話は後でね」
「後でも変わりませんからね」
「白薔薇の皆様、代役が失礼なことを申し上げているかとは思いますが、きつく言い付けますので……ええ、ギルド長のお小言長いんだけどなあー」
「……とりあえず最後まで読んでくれ」
グランが呆れた声で付け足す。
「あー、はいはい。……えっと、まずは王への謁見申し込み…ナンデスカさんから提案が届いておりますのでお任せすることにしました。……王様への謁見?どういうこと?」
「説明は後回しですカコ。さっさと読んでください」
「何よけち。……えー、ノクティアは商業の街ですので、名のあるお店の新作には気を配るため2~3日で謁見出来るでしょう。…後は国境の街トラディスのギルド長タバサから鳩が来ています。作法は教えてあるとのことで、こちらでは礼服を用意しましょう。採寸に来てください……んー?どういうこと??」
「カコ?」
「う、わかってるってば。ええと最後に、それではノクティア王都をお楽しみください。だって!」
俺達は頷いて、ギルドに行くために席を立つ。
慌てたカコがいきなりドアの前で通せんぼをした。
「うわわ、たんまたんまー!あたし何にも教えてもらってないってば!それに……ナンデスト!ちょっとくらいお菓子食べさせてよ!」
その必死さに、女子2人が同情。
というか、一緒にお菓子を食べたかったみたいだな。
結局、少しの間、カコと話をすることになったのだった。
******
そうして、その日は採寸で終わった。
俺達はフェン達を伴って、ノクティア王都の酒場に立ち寄ることにする。
最初は断ろうとしていたマスターに、ファルーアが何やら交渉すると、マスターは急に愛想良く俺達を真ん中の席に通した。
こんな目立つ場所でいいのかな?
先客達も、俺達を物珍しそうに見てくるのである。
「おい、ファルーア…何て話したんだ?」
グランがどっかりと椅子に座る。
「名誉勲章見せて、宣伝に使ってもいいわよって話したわ」
ファルーアはさらりと言って、メニューに目を通す。
「俺達で宣伝になるの?」
ボーザックが感心したように聞くと、彼女は肩にかかった長い金髪を優雅にはらった。
「当たり前でしょう?噂話は大袈裟に伝わるものだしね」
「そんなもん?ティア」
「えっ、私??ど、どうかなあ」
「疾風は巨大な魔物を一撃死させるほどの強さ、とか?」
俺が言うと、彼女は真っ赤になった。
確か、2年前くらいにすげー噂になってた気がするけど。
「なっ、は、ハルト君それどこで……!?」
「ああ、そういや速すぎて分身して見えるらしいな、ディティアは」
グランも髭を擦った。
今日も綺麗に切り揃えられている。
「ぐ、グランさんまでっ!」
ファルーアはそういうことよ、と妖艶に笑い、ディティアはふて腐れた。
「グランさんハルト君に似てきましたね」
「おお?そりゃあ良くねぇな」
え、何だよそれ?
不本意にも程があるぞ…?
そうして、久しぶりにパーティーだけでの食事。
フェン達にも骨付き肉の塊を振る舞って、ゆっくりと料理を味わった。
出来上がってきた頃には、周りの冒険者にも話し掛けられて、酒場は大いに盛り上がった、はずだ。
マスターもこれなら満足だろ。
******
次の日。
ゆっくりたっぷり寝て、昼前に活動を始めた。
謁見の日程が出るまでは暇だから、依頼でもこなそうか?って話になっていた時。
「皆さん!お待たせしました!」
部屋に、ナンデストが駆け込んできた。
「あら、もしかして?」
ファルーアが言うと大きく頷いて、ハイテンションのナンデストは親指を立てた。
「はいっ、出来ました!」
そんなわけで、お披露目会が客間で行われた。
銀皿に半球の蓋が被せられている。
「さあ、いきますよ!」
蓋が、焦らすようにゆっくりと持ち上げられ、俺達は目を見張った。
「うわあ、すごい!」
そこに在ったのは、薔薇。
白い薔薇の、お菓子だ。
1番外側だけ、色とりどりの大きな5枚の花びらで包まれているそれは、両手で包み込むくらいの大きさ。
花びらは、赤、青、緑、黄色、ピンクのパステルカラーだ。
「この5枚は、皆さんのイメージです。さあ、1枚ずつどうぞ」
このお菓子は、花びらが1枚ずつとれるようになっていた。
そして、口に入れるとふわりと溶けていき、上品な甘さが広がっていく。
この感じは、タパで食べたあのお菓子に似ているけど、それよりも甘すぎず、口溶けはより儚くてしつこさが無い。
「うめぇな」
「うわー、これいくらでも食べられるー」
「ほんと…美味しいですナンデストさん」
グラン、ボーザックとディティアが言うと、ナンデストは得意気にふへへと笑った。
「喜んでもらえましたか、ディティアさん」
「はい!皆と一緒にお菓子になれるなんて幸せです」
「皆と、ね」
ファルーアがふふっと笑う。
「ディティアもハルト並みに鈍感よね」
「うん?どういうこと?」
「そういうことよ」
さっぱりわからなかったけど、お菓子が美味かったから流すことにする。
うん、これなら買いたい気もする。
俺達の名前がついたお菓子が広がっていくのも、悪くないかもな!
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