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逆鱗のハルト  作者:
逆鱗のハルトⅠ
39/843

お菓子になったので。②

フェンリル達の名前が決まった。


フェンリルのフェン。

雌だった。

ちょっと悪かったと思ってる。


父親がウル、母親がルフ。

雌の方が大きくなるらしく、ルフの方がひとまわり大きい。


三頭は仲良く転げ回ったり、寄り添って寝たりしながら一緒に旅を続けてくれた。

1日の移動が終わると狩りに出掛けたりもして、またもや魔物を持ち帰ってくれたりな。


ちなみに、でっかい蛇を引き摺ってきた時は、商隊の皆がドン引きしていたけど。


あとは、ウルとルフはナンデストと仲が良かった。

意外に気が合うのか、たまに3人?で話し込んでいることもある。

ナンデストの意見に、ぐふ、とか、がふ、とか相槌を打ってるだけなんだけど、ナンデストは大満足らしい。


途中で何度も魔物に襲われたけど、フェン達もいるし何の問題も無い。

っていうか、遭遇率が高すぎたことで商隊達が驚いてたのを見ると、やっぱりナンデストのせいな気がするけど。


道中で、白薔薇は順番にナンデストとタイラント討伐の話をしたりもした。

お菓子に盛り込むって言ってたけど…どうするつもりなんだろうな。


俺はその間に、カナタさんが教えてくれたバフの修得に成功したのだった。

無いことを祈るけど、この前のボーザックの時みたいに酷い怪我を負った時、俺が助けになれるように。


******


ノクティア。

王都は、ベージュ色の四角い建物が立ち並ぶ大都市で、商業が発展している。

大きな運河を引いていて、商船が遙々と出入りしているのだ。


ここの王様は商人から成り上がった一族で、国を盛り上げるための商流を整備して、隣国からの輸入や輸出も力を入れていた。

そんなわけで、こうやって俺達みたいな冒険者を護衛とした商隊達が日々出入りしているってわけ。


だから、王都で成功することが夢な商人は星の数ほどいるんですよって、一緒にここまで来た老夫婦が微笑んでいた。

ちなみに、彼等は優しい素材の衣服でそこそこの成功を修めているそうだ。


……そう思うと、ナンデストのいるナンデスカットは、ノクティアでは一目置かれるほどの存在ってことか?


「なあナンデスト」

「何ですか」

「ナンデストがその返事するの面白いよね」

ボーザックが茶々を入れてきた。

ナンデストはふへへ、と笑って…あれ?

「少し余裕出てきたのか?」

思わず聞くと、ナンデストは力強く頷いた。

「わかります?…レシピが出来たんですよ!皆さんにお披露目するのは店に帰ってからですが」

「本当!?」

ディティアがエメラルドグリーンの眼をきらきらさせて話に加わる。

「はいっ、楽しみにしてくださいね」

そっか、俺達お菓子になるのか-。

感慨深い……ような、ぴんとこないような。


どんなお菓子になるのか、楽しみではある。


そうして、まずはノクティアのギルドへ、商隊と一緒に依頼の完了報告へ赴くこととなった。


******


「いらっしゃい!完了報告はこちら!」

元気のいい女の子が受付。

紅い髪と眼はグランやカルアさんを彷彿させる。

大きなざっくり三つ編みにされた髪には艶があった。

ちゃきちゃき仕切る姿は、さすが商人の国って感じ。

背はディティアくらいだったけど、胸が大きい。


いや、比べるわけじゃないんだけど。


彼女は俺達が連れたフェン達を見ると、小さく何かつぶやいた。

「10万……いえ、20万」

……。

「3匹まとめて100万は……」

「いや、値段付けないでもらえるかな」

思わず言うと、はっとして手を振る。

「おおう、ごめんね!癖なの!……あなた達パーティーは見たところお手軽そう…んん?ちょっと待ってね、その武器や防具は……待って、とってもいい素材じゃないかしら?」

「……」

俺達と、後ろに着いてきた商人達は顔を見合わせた。

こういう奴等ばっかり?と眼で聞くと、親子連れの父親が首を振る。

ナンデストは、何故か後ろの方でこっちを見ない。

「値段がつけられないわ!どこでそんな業物見つけてきたの?」

黙って名誉勲章を差し出すと、彼女は眼を見開いた。

「うっわあ!初めて見た!名誉勲章!……これも1枚が普通のカードの10倍はするのよ?」

「ああ、そうなんだ……」

後ろにいた商隊達には、俺達が白薔薇だってタパのギルド長ササクから説明があったんだってさ。

だから驚かなかったけど、周りの冒険者がざわついた。

「そっかあ、貴方達がタイラント討伐の立役者ね!あたしの眼はまだまだか…危うく安く見積もるところだったわ」

「全然嬉しくねぇ言葉をどうもだよ、むしろお手軽って聞こえてたぞ」

グランがため息をつく。

「まあまあ!……あれ、後ろにいるの、ナンデスト?」

「あー、はい、ナンデストです」

「なあんだ!言ってよ!そうね……今日は20ジール!」

「辞めてくださいよ…」

何故か隠れるようにしていたナンデストが、観念して出てくる。

「あたしとナンデストは幼なじみなの!あたしが見積もるに、ナンデストは新しいレシピ作ったのね?だからいつもの2割増しの値段をつけたわ!」

「すごいな、見ただけでわかるの?」

ボーザックが変な関心を示す。

彼女は大きな胸を張った。

「もちろんよ」

「いや、その無駄なスキルいりませんから……」

ナンデストは肩を落として、ディティアに近寄った。

「あの人は気にしないでくださいね……とりあえずナンデスカットにご案内したいのですけどいいですか?あっ、それから、今日はナンデスカットに泊まってください。お礼もありますから!!」

「えっ?うん?……ありがとう?」

訳も分からず返事したディティアに、ナンデストはふへへと笑った。

見ていたファルーアが、肘で突いてくる。

「ハルト、うかうかしてらんないわよ」

「……ん?何で?」

「……はぁー」

それを見ていたギルド員も、腕組みして鼻を鳴らした。

「ねえ貴女が疾風?」

「あ、はい?」

「……あれは辞めといたほうがいいわ、貴女の値段、見た目に反して高いもの」

「???」


そんなこんなで。

俺達は商隊護衛の報酬を受け取り、ギルド長が後で訪ねてくるらしいことまでを聞いて、ナンデスカットに向かった。


******


「す、すっげー!!」


ボーザックはそびえる建物を見上げた。

王都いちのお菓子屋、ナンデスカット。

そこは、予想を遙かに越えた巨大なお菓子屋だった。


漂う甘い香り。

ショーケースが所々に独立して置かれ、種類ごとに並べられた色とりどりのお菓子達。


見てるだけでも楽しめそうな店内は、そりゃもうたくさんの人でびっしりだった。


ナンデストは俺達を奥へ案内してくれて、すぐに個室に通してくれる。

もちろん、フェン達も一緒だった。


通されてすぐに、真っ白な服の職人が、がらがらと台車に載せたお菓子達を運んでくる。

「開発長から、御礼の品でございます」

「開発長?」

聞き返すと、彼は優雅に紅茶を並べながら頷いた。

「ナンデストさんのことですよ」

「な、何ですと?」

さらに聞き返すと、彼はにこりともしない。

「さすがに聞き慣れてしまいまして」

先回りして返答をくれたので、俺達が笑った。

「大変だなあ」


しばらく食べながら待っていると、ナンデストと爺さんが入ってきた。

それはそれはいかつい爺さんで、他の人より長い帽子である。


「ナンデスカです。この度はうちのを連れてきてくれたそうで、感謝します」

眼がギラギラしてるから、御礼を言われてるのか威嚇されてるのか判断しにくいぞ…。

それと、その名前…ナンデスカットの創業者だったよな。

その後ろに控えたナンデストは、黙って頭を下げた。

「こちらこそ、こんな上手い菓子、初めてだ」

グランが頭を下げるのに合わせて、俺達も頭を下げる。

「こやつがレシピを書き上げてきたので、是非召し上がってもらいたい。王都にはどれ程滞在するのだろうか?」

「実は、俺達はノクティア王に謁見するよう依頼を受けてるんでな。いつまでかかるのかはまださっぱりだ」

「ええっ!?王様ですか!?何やらかしたんです……っとと」

思わず叫んでしまったのか、ナンデストが自分の口をふさぐ。

ナンデスカは頷くと、少し考える様子を見せた。

「であれば……ナンデスト、その新作を2つ作れ。王に献上しよう」

「はいっ」

ナンデストは返事をすると、こっちに向かってふへへと笑った。

「ナンデスカットのお菓子は、王様も召し上がってくれるんです。献上となれば、待つ日数もそれ程ないと思いますよ!」

俺達はその申し出に、顔を見合わせた。


ありがたそうな話だった。


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