お菓子になったので。①
タパを出るまで、ナンデストは2日間とも厨房に出掛けていった。
そして、帰りにはお菓子を買い込んで、ディティアとファルーアに渡す。
……お菓子が好きなのか、女性が好きなのか、両方なのか。
そういえば試作とやらは、1度も持って帰ってこなかった。
「ナンデスト、何で試作品は無いんだ?」
聞いてみたら、ふへへと笑う。
「完成品のお披露目で、感動が倍増するからですよ」
「おおー、なるほど」
確かにそれはあるかも。
「楽しみにしてるよ」
素直に告げたら、きょとんとされた。
「なんだよ?」
「意外ですね、そんな素直キャラには見えません」
「……お前失礼だよな」
ちなみに、俺達はフェンリル達に龍革の首輪を着けて、一緒に散歩したりして過ごした。
ファインウルフには腕輪を2つ繋げて使い、フェンリルには1つで足りたから丁度よかったんだよな。
露店にも行ってみたけどめぼしい物は無くて、反対にフェンリル達を触りたがる人が寄ってくる始末。
とりあえず、それなりに、堪能した。
******
出発の日にギルド長のササクから聞いたけど、ここは街を出る時に入国手続きを行う仕組みなんだって。
確かに、雑多な街はぐるりと壁に囲まれていて、門は山脈側とその反対にしか無い。
一般の人や冒険者は、街を出るときにごたごたしないよう、先に申請所かギルドで審査を済ませてしまうらしい。
もちろん、そんなこと知らないから何もしてなかったんだけど、俺達とその連れであるナンデストは、ササクが手続きを済ませてくれていた。
もちろん、名誉勲章の力である。
名誉勲章様々だよ、ほんと。
次は一応気を付けないとな-。
そんなわけで、俺達は王都に向かう商隊と一緒に街道を進んでいる。
5台ある馬車のふたつに別れて乗せてもらって、ファインウルフが先導してくれている不思議な状況だ。
端から見たら魔物を追い掛けてるように見えるんじゃないか?
フェンリルはディティアの膝に乗り(はみ出てるけど)、寝こけていた。
商隊は、家族連れで40歳くらいの夫婦と10歳くらいの娘さんの3人と、60歳くらいの年配夫婦、30代の男性2人組に、年齢がさっぱりわからない女性がひとりの合計8人。
ノクティア王都に向かう際は少しでも危険を減らすために隊を組むんだってさ。
そんで護衛は俺達だけ。
フェンリル達もいるし、戦力に問題は無さそうだけど、商隊の人達は不安じゃないのかなあーとか思う。
まあ、特に不満の声は出てないんだけどさ。
街道は左右ずーっと見渡す限りの草原が広がる。
たまに大きな岩も転がっていて、その上に魔物か動物の姿を見ることもあった。
雲がゆったりと流れる空と、たまーに飛んでく渡り鳥。
心地よい車輪の……
ガコッ、ゴゴッ!!
「お、とっ!?」
俺は突然の揺れに飛び起きた。
既にその時にはボーザックとディティア、フェンリルが馬車の外に飛び出すところで、俺も転げるようにして着いていく。
後ろの馬車からグランとファルーアも出てきた。
「どうしたんだぁー?」
男性2人組が声を上げる。
「車輪が外れた!」
馬車を動かしていた、親子の父親が応える。
俺達が乗せてもらっていた馬車だ。
奥さんと娘さんも困ったようにうろうろしてるところを見ると、よくあるアクシデントじゃないみたいだな。
見ると、確かに車輪の片方が変な風に曲がっていた。
「うーむ、こいつはちょっと骨が折れそうだな」
グランがぐるぐると肩を回す。
「俺がやるから、他の奴等は休んでていいぞ。おい、親父さん!あと後ろの男2人!手伝ってくれ」
「修理できるかい?助かるよ!」
「俺たちも-?仕方ねぇなぁー」
グランは周りを警戒するように言って、馬車の修理を始める。
……あれ、そういえば。
「ナンデストは?」
俺がファルーアに聞くと、肩を竦められた。
「ずーっと何か書いてるわ」
「へえ?」
一応護衛対象だし、グランとファルーアが乗っていた、年配夫婦の馬車を覗く。
そこには見たこと無いほどの真剣な顔で、何かを書きなぐるナンデストの姿が。
「おい、ナンデスト」
「……」
「ナンデスト…!」
「うるさいですねぇ、今仕事中です!王都に帰るまでにこのレシピを……」
「おい、俺達はお前を守るって仕事中なんだから言うこと聞けよな!」
「だから!……って、んん?ハルトさん、何やってるんですか」
「何ですと………」
俺は肩を落として、とりあえず告げた。
「しばらく馬車が動かないみたいなんだ。どこか行く時とか、声掛けろよ?…お爺さんお婆さんも何かあったら呼んでくれよー?」
老夫婦は柔らかく笑うと、頷いた。
…そういえばこれって、絶望的な疫病神のせいなんじゃないの?
******
結局、その日は殆ど進めなかった。
目標の村にも到達出来ずに、野宿になる。
俺はバフの練習をしながら、辺りを警戒していた。
草原のど真ん中で見晴らしはいい。
それでも、腰ほどの高さにまでなっている草むらには、何がいるかわからないからな。
一緒に番をするのはディティア。
他の人はもう寝ているみたいで、ずいぶん静かだった。
フェンリル達は一緒にいてくれて、すぐ傍で寝そべっている。
「そういえば、名前つけてやらないとな」
フェンリルの艶のある銀毛を撫でようとしたら、尻尾で叩かれた。
なんだよ、ディティアやボーザックには撫でさせるのに。
「名前!そうだねー、皆で意見とか出そうか」
「そうだなあ、でもさ、こいつら気に入ったら返事してくれると思うよ」
「あ、確かにね」
それじゃあー、と、ディティアが悩む。
「フェンリル…だから、フェンかリルとかどうかなぁ。ファインウルフだから、ルフ…とウル?」
「ははっ、ウルとルフじゃファインウルフじゃなくてもよさそうだけどな」
ディティアはうっ、と声を上げた。
俺はよしよしと頭を撫でてやる。
「ちょ、ちょっとハルト君!」
そしたら、フェンリルがディティアに飛び付いた。
「うわあ!あははっ、どうしたのー」
あれ、もしかしてこいつ雄か?
俺がまじまじ見ようとしたら犬パンチを喰らった。
「やっぱりフェンかなあ、どう?フェン!」
ディティアが言うと、フェンリルは「わんっ」と鳴く。
こいつ、本当は犬じゃないのかなぁ。
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