銀狼は美しいので。④
ギルド員がいなくなって、数分間待たされた。
小さなギルドだし、フェンリル達が目立つのもあって、あんまり長居したくない。
ディティアの状態も気になったし…。
ファインウルフとフェンリルは、そんな気持ちをよそに大人しく座って、俺達を待ってくれていた。
「お待たせしました、ここのギルドには個室は無いので……申し訳ないんですけど、宿をとったのでそちらでギルド長とお話していただけますか?」
「宿?」
「はい。地図はこちらです。魔物達も大丈夫なように手配しました」
「そりゃありがてぇな」
ギルド員の手配に感謝しつつ、グランが地図を受け取って、俺達はギルドを後にした。
そう言えば、ザラーン達はいなかったなあ。
もしかしたら、報酬の分配とかで俺達みたいにどこかの宿にいるのかもしれないな。
******
「広っ」
フェンリル達が入っても悠々と過ごせるほどの部屋が割り当てられていて、ボーザックが荷物を取り落とした。
どさっと落ちるリュックは、結構使い込まれている。
最低限の調理器具や食料を分配して持っている俺達は、それぞれが装備の他にリュックを背負っていた。
テントの類はグランが。
調理器具をボーザックが。
俺は雨の日用のポンチョや応急処置用品を。
ファルーアは寝袋を。
ディティアは食器類を。
食料と水は、万が一はぐれても大丈夫なように各々で持つ。
着替えもそうだ。
重さで言うとグランとボーザックがそれなりなので、リュックがへたったら真っ先に新調してあげたいと思う。
さて、ここは3階建ての宿の最上階、言うなればスイートルームってやつかな。
ベッドは6個あって、各々がカーテンで仕切れるようになっていた。
基本的に、俺達は部屋も男女一緒。
野宿の日だってあるんだから、今更だしなー。
さすがに着替え中は気を遣うけどさ。
ファルーアは当然のようにそうしてるけど、そういえばディティアは抵抗あったりしたのかも?
俺は彼女の様子を窺った。
ふと眼が合うと、首を傾げられる。
……もう大丈夫なのかな、そうだといいけど。
「ふうー」
気にしていると、ナンデストが盛大なため息をついて大きなリュックを降ろした。
あー、そりゃ疲れてるよなぁ。
「好きなベッド使っていいぞ、依頼主だしな」
グランが言うと、ナンデストは嬉しそうな顔をして、真ん中の右側を選んだ。
「え、そこ?」
思わず突っ込むと、ふへへ、と笑う。
「真ん中は目立ちますからね!皆さんはこれから話があるんですよね?僕は少し、街に出てきます」
ええー、よくわからない理由だなぁ…。
寝るときですら目立ちたいのか?
そもそも、そこ、目立つか??
「あら、どこに行くの?」
もやもやしている俺をスルーして、ファルーアがちゃっかり隅っこのベッドを陣取って言った。
その隣にディティアも荷物を降ろす。
「ここにいる行商人達の露店に行きますよ!異国のお菓子があったりしますんでね」
へえ、そうなんだ。
時間あったら露店も見てみたいな。
バフの本とかあるかも。
「じゃあお土産に期待するわね。気をつけて」
「わかりました!」
……ん?
意気揚々と出掛けていくナンデストに、俺は少し同情した。
あれ、ぱしられてるのに気付いてないやつだ。
フェンリル達は窓側の床にごろりと横になって、昼寝に入った。
あ、こいつら用の水筒も用意しなきゃな。
あとは……何か食べるものも。
******
「タパのギルド長、ササク、です」
おお、ちっさい……。
やってきたギルド長は、小さかった。
ディティアよりも小さくて、たぶん150センチ無いんじゃないかなあ。
そして、男性であった。
少し長めの黒髪を頭の上でひとつに束ねて、たぶん背の低さを少しでもカバーしようとしてる。
眼はアーモンド色だった。
「国からのご依頼、ご苦労さま、です」
片言っぽいのがまた子供のようで、ちょっと微笑ましい。
「あとは…フェンリルとファインウルフ、登録しました、です」
「おう、助かる」
グランと並ぶと親子みたいだ。
俺が笑うと、ササクはちょっと困った顔をした。
「なんかごめん」
「いえ、こちらこそ、です」
さて、ササクが言うには、王都に向かう商隊が丁度三日後に出発するらしい。
馬車持ちの商隊なので、歩くよりは断然速い。
で、ついでだからその護衛も受けちゃったらいいんじゃない?って。
どうせナンデストの護衛もあるし、断る理由も無い。
俺達は二つ返事で受けることにした。
その交渉が終わると、ササクはついでにって感じで話をしてくれる。
フェンリル達についてだった。
ギルドは魔物使いを受け入れているけど、よく思わない冒険者もいること。
大抵のギルドは協力関係にある宿があるから、魔物連れで泊まれるところを斡旋してくれること。
フェンリル達は美しいので、売り物にしようとする組織がいること。
ちなみにその組織は、フェンリル以外の貴重な魔物達もターゲットにしていて、貴族やコレクターから依頼を受けているそうだ。
把握しきれないくらいには大きいそうで、各国で暗躍しているだけでなく、冒険者が倒した貴重な魔物の素材を横取りすることも多いらしい。
つまり、常識外れのならず者ってこと。
フェンリルを飼っているのは例外中の例外だろうから、気を付けるほうがいいって忠告は、ありがたく受け取っておく。
「気を付けろよ」
振り返ると、フェンリルがくあーっと欠伸をして、フンッと鼻を鳴らしただけだった。
…かわいくないなあ。
そして、ササクはギルドに戻っていった。
「あ、ここの料金は、ご自分達でお願いする、です。白薔薇の皆さんなら、大丈夫、ですね」
そう、爆弾発言を残して。
******
「ありましたよありましたよ!」
ナンデストが帰ってきたのはそれからしばらくしてからだった。
両手いっぱいにお菓子を携えて。
俺達は思い思いに武器を磨いたり、昼寝したりしてたんだけど、あまりのはしゃぎっぷりに思わず見てしまった。
「これは新作、こっちは東の方で人気のお菓子です。それと。これはラナンクロスト王都で売ってるらしいですね?食べました?……で、イチオシは、じゃん、こちらです」
すげー。
クッキーにケーキ、見たこと無いクリームの塊みたいなやつ。
あらゆる種類を買ってきたらしい。
そのイチオシとやらは、花のような形をしていた。
一口大で、茶色っぽい色をしてる。
「飴でもなくてチョコレートでもない、不思議な食感なんです。でも甘い。柔らかいのに弾力もあって、最後には口の上で溶けます」
どうぞと差し出すから、ひとつずつ食べる。
とたん、口の中に濃厚な甘味が。
「美味しい!」
ディティアが驚いた顔をする。
ナンデストはその反応にはにかんで、付け足した。
「皆さんをモチーフに、このお菓子を参考にしてみたいなって」
「このお菓子を?」
「はい。構想は浮かんでいるので」
ふへへ、と笑って、彼は荷物を背負った。
「ちょっと厨房借りて試作してきますんで!出発はいつですか?」
「三日後だ」
「わかりました!あ、このお菓子達はディティアさんとファルーアさんへのお土産です!では!」
「えっ、俺達には??」
ボーザックが聞いたときには、ナンデストは風のように部屋から飛び出した後だった。
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