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逆鱗のハルト  作者:
逆鱗のハルトⅠ
34/844

銀狼は美しいので。①

行きがかりで大規模討伐依頼に参加することになった。


俺達はザラーンのパーティーのテントを訪れて、状況を確認することにする。


「ガロンウルフ達はノクティア側の岩場にいたんだが、追い立てるうちにこんなとこまで来ちまった。これ以上はラナンクロスト側の街に被害を出しちまう。次が勝負だ」


確かに、ここは国境の街トラディスに近い。

うまく討伐しないと街に被害が出てしまうことも考慮しないとならない場所だ。


俺達は地図を見ながら、群れがいると思われる岩場にどう近付くか相談した。


……とは言え、大規模討伐依頼なんて殆ど経験が無い俺にはさっぱりだ。


「こっちからだと街への方向に茂みがあるので、たぶん危ないです。出来れば岩場付近で囲めるといいんですけど。……もしくはフェンリルが本当にいたら、フェンリルを討伐してしまえばいいので、うまく罠にはめるのがいいかな」


やっぱりディティアが頼りになる。

…出来れば、こういうことも一緒に考えたいけど、全然知識も経験も足りないんだよなぁ。


ただ、意味はわかるので、地図を覗き込んだ。

つまり、どっか袋小路に追い込むか、細い道で挟み撃ちとかにしちゃえばいいんだろ?


「……ここ」

指を指す。


見ていたグランが頷いた。


「この地形なら挟めるな。ざっと見た感じこっちにも100人くらいはいるんだろ?」


「あ、本当……ここは盲点かも」

ぱっと見は広く見える地形だった。

道は左右が茂みになっているが、数メートルくらいでその先はどちらも崖。

下り側に飛び出せば奈落の底、上り側は高い壁がそびえている地形だと読み取れる。


「あとはこの道に追い込む方法だね」

「ん、それはファルーアが出来るだろ」

「えっ?」

ディティアが眼をぱちぱちして、きょとんと聞き返してくる。

…やっぱり小動物みたいだなぁ。

俺はファルーアを振り返った。

「出来るよな?」

「ええ。ただ追い立てるだけでいいんでしょう?」

ザラーンとディティアが驚いた顔をする。

「練習台に丁度良いんじゃないか?」

「そうねぇ、ちょっと強めにやっても大丈夫そうに見えるわ」

「よし」


やり方は単純。

風下から近付いて、火の玉をぶっ放す作戦だ。

ファルーアはコントロールに長けていて、狙った場所に狙ったタイミングで発動してくれる。

だから、ディティアの攻撃に合わせて魔法を炸裂させることも出来るってわけ。

普通のメイジには、中々難しい芸当なんだぞ。


「好みの方向に行かなかったら鼻先で爆発させてやるわ」


ファルーアは金の髪をくるくるしながら、妖艶な笑みをこぼした。


******


さて、作戦は決まった。

1泊して明るくなったと同時に作戦決行として、俺達は陣形を考える作業に移る。


そういえば、ナンデストの処遇をすっかり忘れてたしなあ。


そうして出来た案がこれ。


ガロンウルフを道に追い込んだ後は、隠れている仲間が前方、後方をそれぞれ封鎖。

前後ともに40人ずつくらい。


前衛には防御に徹してもらって、後方でヒーラーがそれを支える。

そこを、崖の上からメイジ部隊に叩かせる算段だ。


メイジ部隊には20人程が割り当てられ、ファルーアとその護衛のボーザックが後から合流する。

ただ、崖の上までガロンウルフが来ないとも限らない。

だから、俺達白薔薇ともう5人くらいで崖の上を陣どり、合計30人とした。


ただ、群れの数が多いらしいから、道に入ってきた時点で早急に数を減らさなければならない。


タイミング勝負だな。


そして、崖の上からの攻撃部隊に紛れ、ナンデストを配置。

たぶん、これが1番安全だ。


後は、もし封鎖部隊が突破されたらなんだけど……。


「ハルト君、その時は私にありったけの速度アップをかけてほしいの」

真剣な顔でディティアが言う。

それだけ、誰も亡くすわけにいかないって思ってるんじゃないかな。

俺だって、そうしたい。

それは、俺のためでもあって、もちろん、唇を噛み締める目の前の女の子のためでもあった。


「うん、約束する。でも、その時は一緒だ」


俺が頷くと、彼女は目を見開いた後に、後ろを向いてしまった。


「は、ハルト君がまぶしい~!」


「え?何?どういうこと?」

自分の手のひらを見てみても、何ら光は感じないけど??


ボーザックを振り返ったら、すごい可哀想なものを見る眼をしていた。

「え?何??俺まぶしい?」

「俺には錆びた鉄色に見えるよハルト…」

「ええ?」


何故かファルーアには杖で殴られて、言われた。


「その時は白薔薇の全員で応戦するわよ、本当に無神経ねあんた」


いや、龍眼の結晶をそんなことに使うよりはきっとマシだろ?

俺は後頭部をさすりながら、ちょっとだけ思うのだった。


******


空が明るくなり始め、広場はうっすらと立ち込める靄に包まれる。

三部隊に別れて、俺達は進み始めた。


他の二部隊のまとめ役に五感アップを重ね、大きな音には気を付けるように告げる。

戦闘が始まるころには解けているはずだから、痛みに転げることは無いはずだ。


自分の隊には、ボーザック、ファルーア、ディティア、グランに五感アップを。


少し進んだら、ファルーアには威力アップと持久力アップのバフをさらに重ねて、ボーザックには反応速度と肉体強化を重ねるつもり。


さて、狼狩りと行きますか!


内心は、予想以上の緊張でいっぱいだ。

でも、負ける気は一切無い。


「頑張ろう、ハルト君」

ディティアは、俺なんかよりよっぽど緊張した表情と硬い口調で、双剣を握りしめている。


……気張りすぎないといいけど。


そして、崖の上に到達。

靄が消え始め、臭いを消すために草の根や葉を擦り込んだ装備の冒険者達が隠れるのを確認してから、ファルーアとボーザックが出発した。


時間にして30分もすれば、狩りが始まる。


俺はふう、と息を吐いて、双剣を抜いた。


「こっちに敵が来ない場合、俺は下に降りるぞ」

「その時は声かけて。肉体硬化重ねるよ」

「おう」

崖は飛び降りるにはそこそこ高いんだけど、グランがやる気満々なので何も言わないでおく。

これで怪我したらちょっと恥ずかしい気がするぞ。


俺は自分に五感アップをかけて、ファルーア達の動向を探った。



ドォン…!



やがて響く、第1音。


「来るぞ!……威力アップ!持久力アップ!」


俺は、馬車で2週間練習していた範囲バフに挑戦してみる。


「わあ」


メイジ部隊の歓声が上がった、んだけど、たったの5人しかかけられなかった。

くやしいけど……カナタさんの100人はほど遠いな…。 


それを繰り返してメイジ部隊にバフをかけ終わり、ディティアとグラン、それから自分に反応速度アップと肉体強化を重ねた。


あとは、五感アップを自分だけにかけ直す。


よし。


ドォン、ドドォン、と、だんだん近くなる音を聞きながら、眼をこらした。


「………来た!」


灰色の濁流。

ガロンウルフ達の群れが、なだれ込んでくる。


「まだ、まだ……今だ!!」


濁流が罠に吸い込まれた瞬間、俺は号令をかけた。

メイジ部隊が、崖の下に向かって魔法をぶちかます。


それと同時に隠れていた封鎖部隊が飛び出して、うおおお!と叫んだ。


先頭のガロンウルフが急ブレーキで踵を返そうとしたところに、メイジ部隊の魔法が炸裂する。


前衛達は盾や剣でガロンウルフの接近を威嚇。

混乱した灰色の濁流が中央により固まった所に更に魔法を追撃させる。


俺は銀色を探した。


………いない…?

瞬間、首筋が焼けるような感覚が走った!


「…っ!!グランっ、ディティア!後ろから来る!!」



オオオォーーーーーン!!


雄叫びと、銀色の風。


飛び出したそいつを、グランの大盾が弾き返した。

ぐるぐるっと円を描きながら、それは少し先に着地。


「メイジ部隊!構わず崖下に集中!」


にわかにざわめいたメイジ部隊を一喝して、俺も銀色の魔物の前に出る。


「う、うわぁぁあ」


情けない声はナンデストのものだ。


そういや、いたんだった。


緊迫した空気を一瞬緩ませたその声に、メイジ部隊が奮い立った。

「大丈夫!ナンデストさん!私達が守るわ!!」

「勝ったらケーキをご馳走してくれる約束、忘れないでね!」


おお…恐るべしお菓子。


俺はメイジ部隊は大丈夫と判断して、ディティアと並ぶ。



…そこにいたのは、美しい銀色の狼だった。

鋭くも知性のある眼は蒼い月の色。

朝のうっすらと蒼い空気に、凛として立っている。


…こいつが、フェンリル…。


ぱっと見てわかる。

飛龍タイラントはおつむが弱く、力が強い王者だとしたら、こいつは強さよりも知恵で戦う参謀だ。


しかし。

想像と違っていたことがひとつあった。


「…こいつ、小さくないか?なんか可愛いサイズなんだけど…」


銀狼は意味が分かったのか、グルル、と唸り声をあげた。

けれど、そのサイズときたら、1メートルも無さそうだ。


俺達は美しくも可愛いその狼に、困惑を隠せなかった。


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毎日更新中です。


平日は21時を目安に更新します。


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