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逆鱗のハルト  作者:
逆鱗のハルトⅠ

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33/847

ノクティアは初めてですか。④

とりあえず、ひと段落。

また山を登り始める。


しっかし、これ…やっぱり?

ナンデストを見ていると、こっちに気付いた。

「僕のせいだと思ってますね?」

「…あ、うん。正直そう感じてる。…でもこんなんじゃ済まないんだろ?」

ナンデストはその返事に面食らった顔をして、ふへへ、と笑う。

「意外ですね、認めてくるなんて。ハルトさんの好感度アップです!正直僕もこの程度じゃ終わらないって思ってますよ」


好感度は…まあ低いよりはいいけど。

やっぱりか…。


俺は少し迷って、グランに歩み寄った。


「グラン」

「どうした?」

「ナンデストにもバフしとこうかと思って。それと、全員に五感アップかける。…ちょっと、かなり、嫌な予感しかない」

「…そうか。おい、ボーザック」

「うん、聞こえてるー。俺も賛成だよ、何か、こう、首筋がぴりぴりするんだよねー」

先頭を歩くボーザックがちらりと振り返って答える。

その手は油断なく大剣の柄を掴んでいた。

何か感じ取ってるんだと思う。

「それじゃあ1度作戦会議といくか。もうすぐ昼時だろ」

グランは頷くと、地図を見ながら開けた場所で休憩にすると言ってくれた。


俺は全員に五感アップをかけて警戒し、ナンデストにもそうする。

初めてのバフだと、ナンデストは嬉しそうにしていた。


******


「おいおいおい、こりゃあ…」

グランが呆然と辺りを見回す。


広場には冒険者達が結構な人数でたむろっていた。

どう見てもただ山越えしている人数じゃない。

ディティアが近くにうずくまっていた男性に声をかける。

「あの、これは…?」

「……あぁ、ラナンクロスト側の冒険者か…。俺達は大規模討伐依頼でノクティアからきた部隊だ」

「ノクティアから?……対象は?」

「…この山脈に群れを成したガロンウルフなんだが」

……その割にはどの冒険者達も疲弊がすごくないか?

そもそもノクティア側から来てなんでこっちにいるんだ?

そこまで聞くと、男の隣にいた別の男が顔を上げた。

彼はディティアを呆然と眺めた後、ぽつんとこぼす。

「……疾風?」

「え?…あ、はい」

「………ってことは、あんたらまさか、白薔薇!?」

おお?

勢い付いた男に、俺達は顔を見合わせて瞬き。

ただひとり、ナンデストだけが「??」って感じだった。

「おい、皆!白薔薇だ!!」


え、何だこの流れ。


集まっていた冒険者達が一気に色めき立って、ざわざわと集まってくる。

刺さる視線に、ナンデストが小さくこぼした。


「あれ…?疾風…??双剣使いの、疾風…?」


とりあえず、聞こえないふりをした。


******


俺達の前にやって来たのは、がたいのいい斧使いだった。

って言っても、187センチあって厳ついグランに比べたらかわいいもんだけど。


「俺はザラーン、この部隊を統率してる…わけでもないんだが、一応最前線張ってるんで勘弁してくれ」

少しはげかけた頭に赤いバンダナを巻いて、黒い鎧に身を包んでいて、だいぶいい歳に見えた。


「いや、こっちこそいきなりやって来た身ですまねぇんだが、何か変な状況なのか?」

グランが見回すと、期待に満ちた空気が漂ってくる。

ディティアを見ると、少し不安そうにしていた。

…見れば結構な怪我をしてる奴もいるし、何か変なんだ。

「…それがなぁ、ガロンウルフの群れとは何回も交戦してんだ。けど、仕留めきれないまま10日経っちまった」

ザラーンはそう言うと、腕組みして困った顔をする。

「数百はいるように見えるんだが、どうも統率がとれてる気がする。もしかしたらフェンリルが産まれてんじゃないかと疑い始めてたところだったんだ」


フェンリル。

銀の毛並みを持つ、ガロンウルフの上位種の魔物だ。

ガロンウルフは灰色の毛並みで1メートルから2メートルの間くらいの体格だけど、フェンリルは3メートルくらいになる。

ごくまれにガロンウルフから産まれて、育つとリーダーになるらしい。


たしか毛皮はものすごくいい値段で売れるんだよなぁ。


「…白薔薇は何かの依頼の途中か?」

「ああ。そこの、商人の護衛でノクティア王都まで行く予定なんだが」

グランがナンデストを指差すと、ナンデストは身じろいだ。

「この状況下で皆さんから見られるとさすがにそわそわしますが」

ザラーンは少し悩んだ後、声を発した。

「…このまま山脈越えは危ないってのは利害が一致するだろ。この大規模討伐依頼、手伝っちゃくれないか?」

「……んん」

グランは唸った。


ザラーンは更に付け加える。


「飛龍タイラントにトドメを刺したパーティーがいてくれればフェンリルがいても遅れは取らない。どうか、頼む」


その瞬間、ナンデストが天地がひっくり返らんばかりの声で叫んだ。

「飛龍タイラントぉーー!?えええっ、皆さんってそんな有名な人達なんですか!?ちょっ、ノクティア初めての観光気分の冒険者とかじゃ無かったんですか!!」


「……お、おお?何だ?知らなかったのかそこの商人…」

ザラーンが目を白黒させ、俺達は苦笑するしかなかった。


******


迂闊に進めなくなった。


俺達は他の冒険者に交ざり、広場の隅にテントを張る。

今日はこれ以上は無理だ。


とりあえず状況の整理をしたくて、返事は保留。


未だショックを隠せないナンデストを引っ張ってきて、相談を開始する。


「…確かにナンデストがいる状況で、このまま山脈越えをするにはリスクが高い」

「けれど、参加するってなってもナンデストにも一緒にいてもらうことになるわ」

「後方に待機させるにも、フェンリルとなると…私は、不安です…」

あ…。

ディティアが、ひどく辛そうな顔をしている。

俺はファルーアと眼を合わせて頷いた。

ファルーアも小さく頷く。

「ティア、ちょっとお茶煎れるから手伝ってくれるかしら」

「あ、うん」


席を立つ2人を見送り、向き直る。

「この状況、ディティアにはちょっと」

俺が言うと、ボーザックもため息をこぼした。

「うん、頼られてる状態だし、相手は群れだし…知識もありそうだよね」

彼女が元の仲間を亡くした状況に、似てしまっている。

かと言って、放置するには良くない状態の冒険者が多いのもわかっていた。

それに、フェンリルが感じていた嫌な感じの原因かもしれない。

「ここまでの道でたくさん魔物に出くわしたけど、フェンリルが居たんだとしたら、合点が行くよな」

「うん、フェンリルが来て逃げてきたんだね」

ボーザックが頷く。

「あー、まずい時に重なっちまったなぁ。…俺としてはこのまま山脈を越えたいとは思う。後は参加するかどうかだが、安全の確保がなぁ」

グランも髭をさすった。


そこで。

「あの、皆さん」

漸く落ち着いたのか、ナンデストが手を挙げた。

「おお、どうした」

「僕、依頼主ですよね?」

「ん?ああ、そうだが」

「……じゃあ、報酬増やすので、この討伐も受けませんか?」

「………おお??」

思わぬ提案だった。


そこに、ディティアとファルーアがお茶を持って戻る。

「あら?……どうしたの、あんた達、皆変な顔して…」

ナンデストは、ファルーアに振り返った。

俺はディティアからお茶を受け取って、肩を竦めてみせる。

「皆さんがそんな有名な冒険者なのはちょっと驚きましたけどね!…ノクティアから来た冒険者達が満身創痍に見えるこの状況下で、僕のせいでノーと言われるのはもやもやします。この依頼、受けましょう!」

すっぱり言い切るナンデストに、ファルーアもディティアも眼をぱちぱち。

「それから!タイラント戦の話も聞かせてもらいますからね!成功の暁には、皆さんをモチーフにしたお菓子が出来上がりますよ!」


ぶは。


お茶を吹き出しそうになってむせる俺。

「…何ですと!?」

ボーザックの返しに、グランがあきれ顔。


しかし、効果は抜群だ。

ファルーアとディティアは、目に見えてきらきらした表情になった。


「ぐ、グラン……私達、ナンデスカットのお菓子になるそうよ!?」

「お、おう」

「グランさん!……わ、私、頑張ります!」

「あ、あぁ…」


すげーな、ナンデスカット。


「そうと決まれば英気を養いましょう!職人ナンデスト、これから全員にお菓子を焼きます!」


こうして、冒険者達に白薔薇の参戦の報告と、あまーい焼き菓子の支給がなされた。


ナンデストは、ちゃっかりノクティア王都のナンデスカットを宣伝し、女性の冒険者に取り囲まれているのであった。


初めてのノクティアは、入国前から大荒れであった。

本日分の投稿です。

休日なので少し早めに出来ました。


毎日更新中です。

平日は21時を目安に更新しています!


よろしくお願いします。

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