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逆鱗のハルト  作者:
逆鱗のハルトⅡ

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299/847

正義とはなんです。⑦

******


それが大蛇の穴だったんだろう。

俺は、3人がそこからガリラヤを運び、素材を剥ぎ取ったことを聞きながら思った。


たぶん、ガリラヤを狩った奴等は、あの真っ赤な大蛇の魔物に喰われてしまったんだ。


……。


空気が冷えた気がして、両腕を摩る。


五感アップでは、近くに気配は感じなかった。

あのガルニアとか言う黒鎧の大男達は、あの大蛇を討伐しただろうか。


「なあ、アマルス」

グランが声を掛けると、アマルスはへらへらとして見せた。

それが様になるだけの年月、アマルスは人を『欺いて』きたんだろうな……。


「いいんだ、俺が悪かったってことはわかってるんだよ。……ただ、そう、殺される理由なんて無いって……そう信じてたンだ。間抜けなことによ」


それを聞きながら、俺は思う。

俺達の正義とは何だろう?


俺は……。


唇を噛んだ。


「あんた達のやったことは、きっと許されないけど」

気付けば、思わず口にしてしまっていた。

アマルスが、こっちを見る。


ボーザックはやっぱり前を向いていたけど、何となく笑っている気がした。


「だからって、エニルが殺されそうになったのがそのせいだって言われても、俺は……許せない。やり過ぎだろって思う。彼奴らが裏ハンターだったとしてもな」

これが偽善と言われても、反論は出来ないかもしれない。

それでも、俺は、そう思った。


「……そうか。……ありがとよ、バッファー」

アマルスはこっちを見たまま苦笑して、真っ暗な空を見上げる。

「けど俺には……あんたらは眩しいなぁ……」


少しの、沈黙。


……グランが、それを破った。


「話はわかった。安心しろアマルス、ヤヌ。ヒーラーが見付かるか、街まで行くか、どっちにしてもそれまでは面倒見てやる。……代わりに」

俺達、白薔薇のリーダーは、堂々とした声で言う。


「街まで行ったらトレージャーハンター協会で、自分達のやったことを告白しろ。今回のことがどんな処罰になるのかは知らねぇが……まさか処刑はねぇだろ?だからその時、こう言え。『裏ハンターの白薔薇ってパーティーに、説かれた』ってな」

黙って聞いていたファルーアが、くすりと笑った。

「いいわね。名前を売るには地道にいかないとならないだろうし」

「そうだねファルーア。……私も、その案に賛成ですグランさん。貴方達を信じます、アマルスさん、ヤヌさん」

ディティアも、ふふっと微笑んだ。


「貴方達は、裏ハンターだったのか……」

震える声で、ヤヌが応える。

彼は背負ったままのエニルを、肩越しに一瞥してから、ゆっくりと息を吐き出した。

「……約束、する。俺達はちゃんと……罰を受ける」


アマルスは、ぐるりと俺達を見てから、大袈裟に肩を竦めた。

「裏ハンター……か。そんな口約束、簡単に破れるってぇのに……参ったな。確かに処刑は無いだろうけどよ。……まあ、たまには約束とかいうむず痒いやつも悪かぁないか」

「たぶんこれが俺達の正義ってやつだから。そもそもアマルス達が凶悪犯だったら、俺達だって戦ってたと思うしね」

ボーザックがそれに答えて、ぐーっと伸びをする。

フェンがその足元でゆらゆらと尾を振った。


炎の球が発する温かい光の中、優しい空気が満ちる。


もちろん、これも嘘だとしたら……俺達はただのお人好しでしかない。

これで彼等がまた法を犯したとしたら、その時は……俺達が、自分達の手で、協会まで連れて行かないとならないだろう。


でも、アマルス達はきっと本当のことを話してくれたはずだ。

俺はそれを、信じることにした。


******


暫く進んだ後、ボーザックが突然立ち止まった。

何度かかけ直したバフは、まだ切れていない。


俺は警戒して辺りを探ったけど、何も感じなくて。

俺達の息遣いだけ、耳に届く。


「どうした、ボーザック」

グランも、声を抑えて囁くように問い掛ける。

すぐに盾を構えられるよう、右手が背中側に回されていた。


ボーザックはゆっくりと振り返って、にまっと笑う。


「……お腹空いた。食事だけでも何とかしない?」


……って、飯かよ!?

確かにもうだいぶ遅い時間だけど、紛らわしい。


「……あの、グランさん……賛成です」

さらに、おずおずとディティアが手を上げる。


途端に彼女のお腹がきゅー、と鳴ったのが、研ぎ澄まされた聴力に引っかかった。

「…………」

彼女は炎の球の灯りの中でも、はっきり分かるほど赤面する。

「ははっ、正直なお腹だな!」

思わず言ったら、ディティアは口を尖らせた。

「ハルト君っ、そう言うの本当~にデリカシー無い!!」

ヤヌが笑ったのが聞こえた。

「少し、張り詰めていたから……エニルの様子も見たい。少しだけ休もう」

「そうだな。んじゃあ軽く飯だ、もうここで喰うぞ」

グランも苦笑い。


俺達は暗闇の中、腰を下ろす。

エニルは相変わらず細々と呼吸しているだけで、水も栄養も摂れていないことを考えるとゆっくりは出来そうになかった。


食べるのは乾した果物、乾パン。

ヤヌが作ったという、果物を甘く煮詰めたソースを少し垂らせば、それだけでかなり凝った料理みたいだ。

甘くして煮詰めておくことで、長期保存出来るんだってさ。


「さっさと食べてもう少し進むぞ。……ハルト、この後は……」

「うん。持久力アップと速度アップ、脚力アップかな。ボーザック、悪いけどお前は五感アップも重ねるな。俺もかける」

「わかったー」

「ハルト君、私にもお願いします」

「ありがとうディティア。正直助かる」

グランに言われて話していると、アマルスが聞いてきた。


「なあ、そう言えば。重ねるーとか簡単に言ってるが、俺はバフとやらが重ねられることは知らなかったんだが……実は普通なのか?」

「うん。俺も気にはなっていて……ハルト、教えてくれないか」

ヤヌが同意する。


俺は皆と顔を見合わせて、苦笑した。

「あー……特殊だと思うよ」


うーん。

もっと驚いてくれてもいいんだけどなあ。


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