表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
逆鱗のハルト  作者:
逆鱗のハルトⅡ

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

295/847

正義とはなんです。③

順調に進むこと半日。

俺達は休憩と昼食を兼ねて、開けた場所で1度止まった。


木々の間から山頂が覗いていて、薄らと靄がかかっているのがわかる。


ふと見ると、ヤヌはエニルの様子を見て、心配そうにしている。

アマルスは何かを考えているようで、空を見上げ、難しい顔だ。


「ボーザック」

「うん?どうかしたー?」

「バフ。……五感アップ」

俺はそれを横目にボーザックに駆け寄ると、小声で五感アップを重ね直す。

脚力アップに加えて道中も何度かバフを重ねたけど、アマルス達には見せないようにしてたんだ。

「……ありがとう。今のところ近くに魔物や人はいないみたいだけど、ちょっと気になることがあるんだよね」

ボーザックは山頂の方を向いて、眼を細めた。

「まだよくわからないんだけど……何かいそう」

「何かって?」

俺もボーザックの視線を辿る。

見えるのは靄がかかる山頂だけだけど、ボーザックが言うんだから……何かいるんだろう。

「少し思ったんだよね、ガリラヤが平原に下りていったのは、山脈にいられなくなったからじゃないかなって」

ボーザックはそう言いながら、どかりと座った。


……昼は簡単に済ませることになっていて、俺達は乾パンと乾し肉を手にしている。


ボーザックはそれを口に詰め込みながら、山脈からは眼を逸らさない。


「……つまり、何かが来たから……ガリラヤは平原に下りざるをえなかった、ってことか?」

「んぐ。……うん」

俺も乾パンと乾し肉を口に放り込んで、眼を凝らす。


自分にも五感アップを重ねればいいんだろうけど、アマルス達がいるしな。

あんまり迂闊な行動に出るのはやめておこう。


――俺は後に、それを大いに後悔することになる。


******


山頂付近で日が暮れた。

ファルーアの作った炎の球が照らす中、アマルス達の案内で、俺達は山道から少し外れた岩場にある空洞へと辿り着く。


アマルス達がこっち側に来る時に利用したという、雨風を凌げる良い場所だ。

俺達全員が入ってもまだ広い。


うん、ここならひと息つけそうだ。


けれど、その中に入る前に、ボーザックが足を止めた。

後ろにいた俺は、思わず辺りを確認する。


ボーザックはその間もぴりぴりしていて、気付いたグランが声を掛けた。

「どうした、ボーザック」

「……わかんないけど……何かやっぱり変だ」

「変って……何か感じるの?」

ディティアも傍に来て、視線を巡らせる。

グランが無言で盾を前に持ってくると、ファルーアとフェンが、何かを察してアマルス達の方へ行ってくれた。


……見えるのは空洞を形作る剥き出しの岩肌と、所々に生えた苔。

背後には寄り添うように伸びた木々と、根元を覆う低木達。


すぐ先はもう真っ暗で、静まり返った空気が緊張を高める。

「ボーザック、とりあえず中に入ろう」

俺が促すと、ボーザックは必死な顔であちこちに視線を這わせて言った。

「……ハルト、ねえ、五感アップを……」


「おい、どうした、入らないのか?」


アマルスが気が付いて、こっちにやって来る。

その奥で、エニルを下ろしたヤヌが不思議そうな顔をしているのが見えた。


瞬間。


「……っハルト!」

ボーザックが大きな声を上げて、大剣を素早く構え、左手で俺を突き飛ばす。

俺はその勢いのまま、反射的に横っ跳びに転がった。


ガキイィンッ!!


「ひっ……!」

アマルスが、息を呑んだのが聞こえる。

俺は体勢を立て直し、突き立った物を見た。


上空から『落とされた』のは、大剣。

武骨な、真っ黒な塊。

鋭い刃が鈍く光っていて……禍々しい程だ。


そして。

「……外したか」

滾る殺気を含んだ、冷たい声。


「……ッ!!」

ゾワアッと。

首筋が、背中が、腕が、粟だった。


…………戦慄。


何で、どこから?……頭の回転が追い付かない。


ドッ、と。


重たい音を立て……そいつは、俺達の前に降り立つ。

空洞がある岩場の上から、俺達を跳び越えて着地したのだ。


俺達の後ろは空洞、その中に意識のないエニル、アマルス、ヤヌ……そしてファルーアとフェンがいる。

『そいつ』の向こう側へは、回り込むことが出来そうになかった。


「ボーザック!!」

ディティアの声にはっとする。

ボーザックは左腕から血を流し、それでも右手で大剣を構えていた。

俺を突き飛ばした時、負ったものだろう。

滴る血が、傷が軽くないことを物語っている。


「大丈夫」

それでも、不屈のボーザックは冷静に返す。

「下がれ、ボーザック!」

豪傑のグランがその前に出て、隣に疾風のディティアが立つ。


俺はそこに走り寄り、ボーザックに向けてバフを投げた。

「……治癒活性!」


じわじわとだけど、傷が塞がっていく。

「ありがとハルト」

「……馬鹿言うな……俺のせいだろ」


……五感アップをかけていれば、気付くことが出来ていた。

俺が、怠った結果だ……!



その、『獰猛な魔物みたいな男』は、突き立った大剣を引き抜くと、紅い眼をぎらぎらと光らせた。


「次は逃がさねぇよ」


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ