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逆鱗のハルト  作者:
逆鱗のハルトⅡ

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293/847

正義とはなんです。①

山の麓に着いた頃には真っ暗。

木も多くなり、茂みも深くなっていた。

濃い草木の匂いに満ちた街道は、ともすれば暗闇から魔物が飛び掛かってきそうだ。

ファルーアが作る炎の球が、辺りを朱く照らしている。


そんな中、街道沿いに焚き火のあとが残っていて、キャンプするならここだろうという開けた場所を見付けた。

俺達はエニルの状態を確認し、危険な夜間の山越えをどうするか話し合う。


「……本音を言うと、進みたい。エニルは俺達にとって家族同然だから」

ヤヌは毛布を敷いて横たえたエニルの隣に膝を突き、頬をそっと撫でてそう言ってから、息を吐き出した。

エニルの頬は血の気が無いまま。

呼吸も、殆ど感じないほどに弱々しい。


「だが、それは愚策だ。全員がやられたら元も子もない。明け方までは休むべきだ」


それを聞いていたアマルスも、項垂れたまま頷いた。


「その通りだと俺も思うね。エニルを早く運ぶためには、逆に効率良く休むことを考えないとな」

……口調こそ軽いけど、苦渋の決断なんだろう。

噛み締めた唇は白くなる程で。

俺は、エニルを思う2人の気持ちは本物だと感じた。


「……お前らの決意は受け取った。……ファルーア」

グランの声に、ファルーアが龍眼の結晶の杖を掲げる。

「燃えなさい」


ぼっ……


焚き火のあとが、再び燃え上がり、辺りが照らされる。

「エニルを火の傍へ。あまり冷やさない方がいいわ」

「あ……ああ」

ヤヌが、ファルーアに従ってエニルを運ぶ。


「明け方に出る。飯食って休むぞ」

グランは背負っていた荷物を下ろし、簡易テントを出し始める。


「じゃあ俺達は薪拾ってくるね。……ハルト!」

「おう」

俺はボーザックと一緒に、薪集めに行くことにした。

「灯りがいるでしょう、私も行くわ」

そこに、ファルーアが合流してくれる。


「すまねぇ……俺達は飯を作る。ヤヌ」

「わかった」

「あ……手伝います」

アマルスとヤヌも動き出してくれて、ディティアは手伝うことにしたようだ。

眼が合うと、しっかりと頷いてくれる。



俺達は少し離れて、枝を拾い集めた。


「……どう思う?ハルト、ファルーア」

「あの3人か?」

「まだわからないわね……」


俺は少し考えて、枝を拾いながら応える。


「どっちにしても、相手はやり過ぎだったろ……あんなの。……それに黒ローブの女……バフ使ってたし。俺は許せな……いてっ」

ファルーアが、俺の背中を杖で叩く。


「ハルト。……確かにエニルは幼い。でも、もし彼等が裏切り者だったとしたらどうかしら。それで命を落としたハンターが別にいたとしたら?……まだ見えないわ。だから落ち着きなさい。……あと、バフは残念だけど関係ないわよ?」

「う……」

ボーザックが、それを見て笑う。

「ファルーアは容赦無いよねぇ……俺もやり過ぎだろって思うけどさ。……判断は間違えちゃいけないって思う。一緒に考えようよハルト」

「……うん、ごめん」

わかっていないわけじゃないけどさ。

気に入らなかったんだ、本当に。


指摘してくれる仲間がいるのは本当に大事だと思うし、その通りだって俺も思うから……俺は2人に謝った。


「あんた、本当素直よね」

ファルーアが笑って、俺の背中をぽんと叩いた。

「そういうところ、気に入ってるわ」


…………

……


「美味しい……!」

ボーザックが驚きの声を上げた。

確かに旨い。


「そうだろう?ヤヌの料理は天才的だ」

アマルスがにやにやとヤヌを褒めると、ヤヌは……おお、はにかんでる。

元々優しそうな顔立ちの好青年だ、はにかめば尚のこと優しそうに見えた。

「まあ、そうおだてるな。照れる」

「でも本当に美味しいです……」

ディティアも眼をぱちぱちさせている。


食事は、鍋にたくさんの肉を入れて煮込んだものだ。

とろとろになったこの肉は、件の兎型の魔物、ガリラヤとのこと。


下処理を済ませてあるので、暫くは保つんだと言う。


「ヤヌ、これお店開けるよ!」

ボーザックが嬉しそうに言って、肉と一緒に煮込まれた小さな根菜を口に放り込んだ。


「……はは、そうだろう!ヤヌは金を貯めて店を開くのが夢なんだからな!」

「あ、アマルス!恥ずかしいからそういうことは言うなと何度も……」

「へえ、貴方料理人になりたいの?素敵ね」

2人の会話をぶった切ってファルーアが妖艶な笑みを溢せば、

「そ、そんなことは……」

「へへ、そうだろう?」

ヤヌも、アマルスも、デレデレ。


ふーん、ファルーアねぇ。


思わず見ていたら、眼が合った。

『消し炭になりたいの?』

そっと、唇だけ動かして音無く告げられた言葉に、俺は戦慄を覚える。

思わずぶんぶんと首を振ると、向かい側で生肉を頬張っていたフェンと眼が合った。


「ふすぅ」

……馬鹿にされている。


すると、グランが髭を擦りながら言った。

「アマルス、ヤヌ。お前らは家族同然って言ってたが……エニルはまだ小せぇよな。どうやって出会ったんだ?」

……その言葉に、はにかんでいたヤヌも、鼻の下を伸ばしていたアマルスも、ふっと真面目な顔に戻る。


空気が張り詰めたような気がした。


「俺からすると、旅するには若すぎるように見えてな。言いたくねぇならそれでもいいが……それともそれくらいの年齢で旅に出るのは普通なのか?」

どっしりと構えるグランの言葉は、只でさえ厳つい外見からすると脅しみたいに聞こえなくもない。

けれど、落ち着いてゆっくりと話すグランは、ごく普通の、当たり前なことを聞いているわけで。


俺達白薔薇は、黙って彼等の言葉を待った。



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