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逆鱗のハルト  作者:
逆鱗のハルトⅡ

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珍しい魔物です。⑥

傷は塞がっても、助かるかは別。

ヒーラーに比べて、バッファーは仲間を治療する術を持たない。


例えばヒールであれば、簡単に言うと『元通り』にしてくれる。

でも、俺の治癒活性は『治るのを早める』だけで、元通りではないのだ。


しかも、無理矢理治癒能力を活性化させたことで、その後暫くは同じ場所に傷を受けると重症になりやすい。


深傷であればあるほど、バッファーでは手に負えないのである。


……少年の名は、エニル。

傷は塞がったけれど、そこまでだ。

細く弱い呼吸のまま意識が戻る気配は無く、然るべき処置もここでは出来ないし、何処か大きな街へ運ばねばならない。


役に立たないなんて自分を卑下するつもりも無いけど、無力感は拭えなかった。


「ハルト君」

エニルの傍に跪いていた俺に、ディティアがそっと声を掛け、肩当てに手が触れる。

「……うん、俺は大丈夫。……どうするって?」

エニルを俺に任せ、進路をどうするのかは皆が話してくれていた。



俺達に助けを求めた男はアマルス、大盾を持った男がヤヌ。


エニルを合わせた3人はトレージャーハンターであり、今回の獲物であるガリラヤを西のカーマンに運ぶところだったと言う。

……ガリラヤは既に革になっていて、骨は装飾品用に、肉は食糧にするのだそうだ。


これだけでもかなりの収入になるそうだけど……。


今回、山脈の北の平原で狩ったガリラヤをカーマンに運ぶことに決めた理由は2つ。

ひとつは、北の平原ではそれなりの数のガリラヤが狩られており、そこからさらに北の街では毛皮の値が少し下がっていること。

ひとつは、そのままさらに西へと進路を取るつもりだったこと。


何故襲われたかについては、アマルスもヤヌも首を振るばかり。

獲物を横取りするつもりだったのでは、と言っているようだ。

……話からすると、ここで突然襲われたってことだな。


ディティアは後ろで話している皆をちらっと見ると、俺に顔を寄せ、小さく囁いた。


「グランさんは、彼等に何があったかを判断するのはまだ早いって思ってる。……考えられるのは……」

「裏ハンター、無法者、ただのトレージャーハンター」

俺は、口にする。


ディティアは小さく息を吸って、頷いた。


「撤退した人達と、アマルスさん達……彼等が、それぞれどの立場なのか。それがはっきりしない」

「……」


撤退した奴等がどれであったとしても、俺は彼奴らを許せそうにない。

もしエニル達に否があったとしても、これは明らかに命を奪う行為だ。


エニルの蒼白い顔を見て、歯を食い縛る。


「……向かう先は?」

「…………山脈を、越えるよ。カーマンにはエニルを治療出来る程の技術は無いんだって。ヒーラーも、北に向かう方が出会える可能性が高いみたい。アマルスさんがそう言ってた」

「わかった」

俺は水筒の水で持っていた布を濡らして、エニルの顔を拭き取る。

泥と血で汚れっぱなしよりはマシだろう。


「行こう、少しでも早い方がいいよな」

言うと、ディティアは少し困った顔で微笑んだ。


「……うん。こういう時、私達何も出来ないけど……ハルト君。ひとりで背負うのは駄目だからね」


******


エニルを背負うのは、ボーザックより少し背が高い大盾のヤヌ。

見た目は俺達と同じか少し若いくらいで、短めの茶髪に大きな茶の眼をしていて、優しそうな顔立ちだった。

装備はグランよりも暗めの紅い鎧。

盾は短めの棘がいくつか前に突き出した、腰程までの高さのものだ。


流石と言うべきかヤヌ達はロープも持っていて、それを器用に編み上げ、エニルを背負うために使った。


「……すごいね、それ」

ボーザックが感心した声を上げると、アマルスが苦笑する。


「何言ってるんだ?これくらい出来ないと今後大変だぞ」

……アマルスは黒髪に深い蒼の眼をしていた。

ゆるゆると波打った髪はギリギリ結べる長さで、後ろは結び紐からほんの少し、髪が飛び出している程度。

歳はこっちも俺達と同じくらいか……少し上かもしれない。

目頭のあたりに少し皺が見て取れる。


彼の装備は濃い茶の革鎧。

腹周りに大量のナイフを括り付けている。


「……とにかく、恩に着る。あんたらが来なかったら殺されてたし、一緒に山脈を越えてくれるのはありがたい……そこまででいい、どうか頼む」

アマルスはそう言うと、ヤヌと一緒に、俺達に深く頭を下げるのだった。


…………

……


「ところで、ガリラヤってそんなにたくさんいるの?俺達もそっちに向かうところだったんだけどー」

自己紹介を終え、歩きながら、ボーザックは持ち前の明るさでどんどん話し掛ける。


俺達からすると情報が欲しいからな。

グランが、ボーザックに話し掛けるよう指示をしていた。


「いや、珍しいぞ。普通は山脈からは出てこないからな」

答えたのはヤヌ。

彼はエニルを背負い、盾を右手に持ってしっかりとした足取りで歩いていた。


……とはいえ、あれじゃ疲れるよな……。


「グラン……バフかけてもいい?」

「ああ、お前のしたいようにしていいぞハルト」

「ありがとう。……ヤヌ、脚力アップ!」

グランは俺の意図をすぐに察してくれた。

俺はヤヌに脚力アップを投げる。

重ねられることは伏せておくつもりだ。


「お……おお、だいぶ楽だ!すごいな、バフだろ?これ」

「おう。……俺はバッファーだからな」

振り向いて笑うヤヌに、俺も笑みを返す。


見ていたアマルスが、俺に向かってぱたぱたと手を振った。

「ふうん……?珍しいって言われてるガリラヤよりも、バッファーって言う奴は珍しいかもしれないぞ」

「え、そこまで……?」

いやいや、珍しい魔物以下ってのは納得いかないぞ流石に。


思わず返すと、アマルスは笑った。

「おう。トレージャーハンターはトレージャーハンターだからな!」


……あれ?

トールシャというか、トレージャーハンターって……もしかしたら明確にヒーラーだとかメイジだとか区別しないのか?


俺はあははと愛想笑いをして、ファルーアの杖で背中をどつかれた。


この先アイシャ出身ってのを隠さないとならない場合もあるかもしれないから、仕方ないんだけどさ。


……痛いぞ、それ。


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