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逆鱗のハルト  作者:
逆鱗のハルトⅡ

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珍しい魔物です。⑤

旅は順調だった。

初日は魔物に遭遇することも無く。

翌日は遭遇したものの好戦的な魔物ではないらしく、遠くからこっちを眺めているだけ。


……もしかしたらだけど、魔力がたくさん籠もったこの腕輪のお陰なのかな。

俺は左手首に光る、エメラルドの填まった腕輪を眺めた。

これは、アイシャの山岳の国、ハイルデンの特産品だ。

濁ったエメラルドは装飾品としての価値は低いかもしれないけど、魔力の含有量がとても多く、メイジなんかの魔法を使う人達には重宝される物らしい。


ハイルデン王、マルベルが俺にくれた特別な腕輪である。


魔除けになるって説明はファルーアから聞いてたけど、トールシャの魔物にも効果があるんだろうか。


ふと前を見れば、ゆらゆらと尾を振り、銀色の美しい毛並みを光らせながら歩くフェンリルの姿。


……あー、フェンがいるのもあるかもしれないな。

自身より強い魔物だったら手は出さないだろうし。


平原は、相変わらず見通しが良くて、荒野から草原に近い雰囲気になってきた。

街道は整備されてはいなかったけど、人が踏み固めた道ははっきりと見て取れる。

これなら迷うことも無いだろう。


草木が茂り始めたから、俺は先頭のボーザックに五感アップを投げる。

背の高い草や木はまだ無さそうだけど、この先は見通しも悪くなってきそうだからな。



そう思いながら歩き続け、草木がかなり増えた頃。

やがて、前方にうっすらと山脈が見え始めた。


「山が見えてきたね」

「うん、今日はあの下まで行くんだよねグラン?」

眼を凝らすディティアに応えて、ボーザックが言う。

グランは顎髭を擦りながら、頷いた。

「ああ。上手いこと休めそうな場所があれば尚よしってとこだ。気張れよーお前らー」


結構遠そうに見える山脈に向かって、日が落ちていく。

まだ空は蒼いけど、1日で1番暑い時間帯はとうに過ぎているはずだ。

俺達は明るい内に麓まで辿り着こうと、ペースを速めた。 


暫くすると、五感アップをかけていたボーザックが立ち止まる。


「どうした?」

「んー……人がいる気がする……?」

「人?」

聞くと、ボーザックは眼を閉じて少し上を向き、ひと呼吸置いてぱっと眼を開けた。

「何か戦ってる!!」

「ええっ!?何だよそれ!」


弾かれたように走り出したボーザックを追って、俺達は街道を逸れた。 


「五感アップ!速度アップ!……速度アップ!!」

ボーザック以外には五感アップと速度アップを重ねる。


ボーザックには速度アップだけ投げて重ね、俺達はスピードを上げた。


「フェン!……速度アップ!」

「ガウッ!」

ひらりと俺のバフを呑み込み、フェンが身を翻す。

只でさえ速いフェンは、ディティアと一緒にまるで風のように走っていく。


やがて、五感アップで上がった聴力が、戦闘の音を聴き取った。


「……おい、どう聞いても剣同士の音だぞ!」

「剣を使う魔物とかいるのかな!?」

グランとボーザックのやり取りに、俺も息を飲む。


感じる気配からも、わかる。


これ、人と人……数人同士の戦いだ。


木々が疎らに生える場所を駆け抜け、俺達は開けた場所へと飛び出した。


……瞬間。


「ぐあはっ……!」


俺達に背を向けている方の数人の内、ひとりが。

薙ぎ払われた大剣に腹を割かれ、血を撒き散らしながら転げ、倒れた。


「……!!」

思わず、咄嗟に足を止める。

俺達白薔薇は、斬り結ぶ二組の『何者達か』と、まともに出会した格好となった。


見たところは3対3。

ひとりは斬り伏せられたので、3対2になったところか。


こっち側の奴等の足元には、白い獣のような物が転がっていた。

見えるのは長い耳……。

つまり、あれが珍しい魔物と言われている兎型の魔物、ガリラヤか。


大剣を薙ぎ払った、黒い鎧の男と、眼が合う。

ぎらりと光る紅い眼。

少し長めの茶色っぽい髪はばさばさで、滾る殺気を隠そうともしない、獰猛な魔物のような男だった。


「た、助けてくれ!!殺される!!」

斬り伏せられたひとりと同じ側、獰猛な魔物みたいな男達とは敵対しているのであろう者のひとりが、俺達に気付いて蹌踉めきながら駆けてくる。

もうひとりの仲間らしき者は、大きな盾を構え、じりじりと此方に後退してきた。


「グラン!指示は!!」

ボーザックが額に汗を浮かべ、大剣を構えて怒鳴る。


それくらい、黒い鎧の男の殺気は凄まじいものがあった。


「やめろボーザック!……お前らは何だ、斬り伏せた理由を言え!」

グランが、大盾使いと思われる奴の隣まで前に出た。

けれど、まだ、白薔薇の大盾は身体の横に置いている。


……この状況じゃ、何が起こっているかわからない。

どちらに加勢するわけにも、いかなかったのだ。


ディティアも、ファルーアも、フェンも。

どちらにも攻撃出来るよう、油断なく構えていた。


その時だ。


「ちっ……仲間がいたか……引くよ!」


獰猛な魔物みたいな男の後ろにいた、2人の黒ローブ達。

その、小さい方……声からすると女だ……が発した声で、向こう側の奴等が踵を返す。


……その時、俺は聞いた。


「速度アップ!走れ!」


「…………!!」

その、女が。

使ったのだ、バフを。


木の陰に消えていくそいつらを追うことはしなかった。


何が起こっていたのかは、わからない。


けれど、斬り伏せられた奴の傍に駆け寄った俺は、燃えるような怒りを覚えた。


……まだ、子供だったのだ。

少年とでも言うべき細い手足、あどけない顔。

転がった細い剣、小さな盾。


俺と似た色の、金に近い茶の髪が、血濡れた頬に張り付いている。


「治癒活性!治癒活性!……治癒活性!!堪えろ、頑張れ!!」


少年の固く閉じられた眼から涙が零れて、頬の血が滲む。

顔色は悪く、唇も色を失っていた。


「くっそ……!!」

溢れる血。

それでも、バフのお陰で傷口が塞がっていく。


間に合え、間に合え!!


「……っ、治癒活性!」

俺は、バフを重ねることを選んだ。


何があったかなんて知らない。

どっちが悪いかとかどうでも良かった。


とにかく、助けようと……俺は、意味が無いと知っていても、そいつの傷口に手を当てていた。



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