嘘みたいな本当です。④
「はあぁぁっ!」
「ぐあおぅ!!」
ボーザックとフェンが連携して飛び掛かる。
ダハルイータはまた一瞬身体を引いた。
「糸!!」
思わず叫ぶ。
「了解ッ!!」
ボーザックが脚を斬り上げて、後ろにステップを踏んだ。
ブシャアアッ!!
きらきらと蒼い光に瞬き、粘液が散る。
糸を吐き終わったダハルイータの喉元に、回り込んだフェンが食らい付いた。
『キシャアァアァッ!!』
身体を大きく揺らし、暴れるダハルイータ。
ズン、ズン、と地面が揺れて、脚がぶつかった建物の外壁が崩れる。
ダハルイータが2本の脚を振りかざしたところで、フェンは振られる勢いを利用して飛び離れた。
「うおぉらあぁぁっ!!」
ガイイインッ!!
そこを見計らい、振り下ろされた脚を弾く白薔薇の大盾。
俺は、タイミングを合わせて踏み切ったボーザックの速度アップを書き替えた。
「肉体強化!!」
「ハルトやるぅ!次はもらったあぁーっ!!」
大きな白い剣が、振り下ろされる!
ザシュウッ!!
『キシャアアァ!!』
斬り飛ばされた前から2番目の脚、噴き出す蒼い体液。
「うげえ……気持ち悪ぅ……」
ボーザックは戻ってくると嫌な顔をする。
そして、俺は蜘蛛の向こうで救出が完了したのを確認した。
「グラン、完了した!」
「よし!こっちも片を付け……うおっ!?」
『キャシャアァァッ!!』
ガッ、ガガッ、ガッ!!!
突如、ダハルイータが後ろの4本の脚で立ち上がり、残りの3本の脚で激しくグランに攻撃を始める。
グランは盾を素早く捌いてそれを受け止め、身動きが取れない。
「グラン!!……肉体強化!!」
俺はグランの速度アップも書き替えて、堪えてもらう。
その間にボーザックと俺、フェンで散開して、一気に斬り掛かった。
「ッ!!離れろ!!」
途端、グランの怒声。
赤と黒の縞模様の剣のような脚が、俺のすぐ横にガンッと振り下ろされる。
ダハルイータは後ろの4本とその脚を支えとして、ググッと腹を持ち上げる行動に出た。
「なんっ……うわあぁっ!?」
ブシュウゥッ!!!
俺は転げて離脱。
俺達に向かって突き出された腹の先から、糸が噴き出したのである。
そういや、蜘蛛って腹から糸出すんだったな……ってことは口から出てたのは糸じゃなくて粘液質の何かかもしれない。
最悪なのは毒とか酸性液の類だ。
気を付けないと。
「大丈夫か!?」
声をあげると、ボーザックの声が。
「俺は平気!……グランが!!」
咄嗟に向き直る。
グランは蜘蛛の前脚を押さえていたため、糸がもろに直撃していたのだ。
白薔薇の大盾が糸に覆われていて、辛うじて出来た隙間にグランが身を縮こませている。
けれどその足は糸に絡みつかれ、身動きが取れないようだった。
『シャギャアァーー!!!』
「ぐぁるるるぅぅ!!」
フェンがグランの傍に寄り、ダハルイータを威嚇してくれる間に、俺は声を上げた。
「ファルーア!!頼む!!」
瞬間。
「凍りなさい」
ファルーアの、妖艶な声と共に。
身体中が、凍えるような寒さを訴えた。
吐き出した息が白く煙る。
「待たせたわね」
傍に来てくれたファルーアの杖、龍眼の結晶が光を放っている。
キィ……ンッ!
高い音が頭の奥に響いたように感じて、俺は双剣を振り上げた。
「ボーザック!!糸を壊せ!!」
「っ、わかった!!」
バリィンッ!!
凍り付いた糸は、あっさりと砕けていく。
俺とボーザックは白薔薇の大盾に纏わり付いた糸を破壊していった。
『ギャッ……シャギャアァーーッ!!』
ダハルイータは全身から湯気のようなものを漂わせ、ガチガチと牙を打ち合わせる。
そして、その凍えるような寒さに混乱したのか、逃げようとしたのか、建物を伝って上へと登ろうとした。
「グラン!!いいぞ!」
「悪ぃな!!助かった!……フェン、良くやった!!」
「ガウゥッ」
がきぃんっ!!
白薔薇の大盾が解放される。
同時に、グランは大盾で自分の足元を殴り付けた。
バラバラになる糸から、グランの鍛え上げた両足がダンッと踏み出される。
「脚力アップ、脚力アップ、肉体強化!!」
俺がバフを付加し直すと。
「逃がすかあぁぁぁ!!!」
心得た、とばかりに、巨軀が跳ね上がる。
グランはダハルイータの頭上にまで到達すると、白薔薇の大盾で……ダハルイータを……!!
「オラァッ!!受け取れボーザックーー!!!」
ドゴアアァァッ!!
……叩き落とした。
しかし。
「ちょっ、嘘ぉ!?何考えて…………グラーーーーーンッ!!」
可哀想に。
小柄な大剣使いは、真上から墜ちてくる蜘蛛の下で、悲鳴を上げた。
下から上へと振り抜かれる、美しい白い大剣。
仕方なかった。
斬るしか、ボーザックは選べなかったんだ。
ぶしゃああぁっ!!!!
蒼い体液。
真っ二つになって転がる大蜘蛛。
何とも言えない苦い臭いが、しゅうしゅうと立ち上る。
その真ん中で……。
「グーラーーンーーー!!!」
蒼くなった大剣使いは、肩を震わせ、低い声でグランの名を呼ぶ。
「お、おぉ……わ、悪ぃな……」
着地したグランは、そろそろと後退りをしている。
ボーザックはべちゃりと音を立てながら、グランに1歩迫った。
「ねぇ、ハルトじゃないけど。これは……俺の……」
「だ、だから、悪かったって……」
さらに、1歩。
「逆鱗とやらに!!触れたからね!!!??」
……えぇ……そこ、俺関係ないだろ……?
「み、皆、大丈夫……ひあっ!?」
そこに、恐る恐る近付いてきたのはディティアだ。
彼女は、体液に塗れたボーザックを見て、上擦った悲鳴を上げた。
「!?、てぃ、ティア!?」
「……っ!!」
振り返るボーザック。
後退るディティア。
「ボーザック、流してあげるわ……」
流石に可哀想と思ったのか、ファルーアが杖をかざし……。
「えっ、ちょっ……うぶぁっ!?」
どばあぁぁ!!
大量の水が、ボーザックを一気に流したのだった。




