名誉あるお役目なので。②
完遂のカルーアが救った姫と共にやってきたのがこの国。
王都ラナンクロスト、小高い山のてっぺんに君臨する美しい城が、ルクア姫の居城である。
現在の王はルクア姫の父。
彼は姫を連れ帰ったカルーアと、その途中で眠りについたミシャに感銘を受け、生涯にわたり賓客としての扱いを約束した。
ルクア姫に至っては、道中で2人と打ち解け、名前を呼ばせる間柄となったらしい。
そんなルクア姫が、何故か書状を持って俺達の前にいる。
「本来は城まで呼ばねばならなかったのですが、カルーアが一緒だと聞いたので意気揚々…いえ、仕方なく出て参りましたの」
凄く本音が洩れている。
くすりと笑ったらディティアに肘打ちされた。
…ファルーアに似てきたんじゃないかなあ。
グランが跪くべきか悩んでいるところに、座ろうとカルアさんが助け船を出してくれる。
俺達は姫が座るのを待って、席に着き直した。
「えー…ルクア様、何故、俺た…私達白薔薇に?」
グランがしどろもどろ聞く。
「ふふ、驚いたでしょう?それは、貴方の首にかかるその名誉勲章の力ですわ」
あ、ああー。
俺達はやっと合点がいって、頷いた。
そうか、これ、国からの依頼もあるかもしれないカードだったなあ。
今のところ驚かれた以外に役に立ったことは無い…気がする。
「今回の遺跡調査で、皆さんは強力なカードを手札にしましてよ。それはわかりまして?」
…レイス製造と、魔力結晶のことだ。
俺達は頷いた。
「そして、ギルドに各国で協力体制を築くよう掛け合った…ここまではいいわね?」
またも頷く。
「わたくし達は、それを呑みました。しかしながら、各国での調整はこれから。そこで、白薔薇には我が国の書簡を、各国に届けてもらいたいのです」
……。
俺達は顔を見合わせた。
各国に書簡を?
「それって、普通は国の中でそこそこの地位の奴がやるんじゃねぇのか?」
グランがこぼす。
すると、姫はふふっと笑った。
「ええ、普通はそうですわね。ただ、これはカルーアとシュヴァリエからの推薦があってのことですわ」
ぶはっ。
吹き出したのはカルアさん。
「おいルクア、あたしは…」
「あら?シュヴァリエにさり気なく進言したこと、わたくしは存じてましてよ?」
「ぐぅ」
「ふふ。それはもう、大事な親友の頼みとあれば、わたくし頑張りましたわ」
姫は口元を隠し、意味深に笑った。
カルアさんも、この姫の前だと為す術すらないみたいだ。
「名誉あるお役目、白薔薇に不利益は無いはずですわ。各国からすれば、欲しい情報を持っている皆さんを無下にすることもないでしょう。取り入ってくる輩はいると思いますが、上手く対処してくださいませ」
******
さて、ここで状況を整理しよう。
訪れる国は3国、ラナンクロスト国に隣接している国々だ。
全部駆け足で回れば半年くらいだろうか。
その間、俺達はラナンクロスト国の使者となるかというと、そうではない。
書簡を預かった、いち冒険者という扱いなんだ。
中立の立場だな。
これは、冒険者達は国に縛られないというギルドの決まりに則っている。
名誉勲章に国家間の移動制限を簡略化する効果があるのは、各国に貢献してもらうためでもあるのだ。
よく出来た制度だなぁと思う。
ちなみに、このギルドの制度を作り上げたのが、協力体制にあるラナンクロスト国に書簡を届ける3国を足した4国だった。
そのため、各国に養成学校とギルドがあり、ギルドは国から独立した存在となっている。
そこで、今回の依頼を考えると。
各国からすれば、俺達は中立の立場となり、扱いやすい。
また、俺達は各国に名前を売るいい機会だ。
何より、カルアさんが俺達にその機会を与えてくれたと取るべきだしな。
シュヴァリエは、どうでもいい。
つまり、断る理由が無いのだった。
******
「さて、どうする?」
グランが切り揃えた顎髭をさする。
皆は思い思いのことを考えてたんだろうけど、頷き返す。
「まあ、乗らねぇ手はねぇよな!」
姫はその言葉に、うんうんと頷くと、近衛に指示して三つの書簡を出させた。
「では、書状にサインをしてもらわなければなりませんので、カルーア、ギルド長を呼んでくださる?」
王都ラナンクロストのギルド長は、まさにジェントルマン。
ギルドの制服である黒パンツと白シャツに、ネクタイとジャケット。
白髪交じりの黒髪をオールバックにして、口髭が綺麗に揃えてあった。
「お呼びですかな、ルクア様」
「ええ。例の依頼を受けていただけることになりましたわ。書状のやり取りは任せます」
ジェントルマンはぺこりとお辞儀をして、洗練された動作でペンを取り出した。
いや、洗練というか…くるくると異状な速さで回転させながらペンを出した、って感じ。
「僭越ながら、ラナンクロストギルド長、ムルジャが承りましょう」
すげーアグレッシブだった。
******
姫は満足したのか帰って行った。
預かった書簡はファルーアが保管することになった。
グランだと戦闘で潰すかもしれないし、ボーザックは無くしそうだからやだーと笑ったし、俺はそんな恐い物持ちたくないし、ディティアはにこにこと拒否したからだ。
「私が無くしたらどうするつもりなのかしら」
「そりゃもう連帯責任だよね!」
「……不屈のボーザック、それ真面目に言ってくれてるのよね?」
「あははっ、当たり前でしょファルーア!不屈とか言われると照れるなー」
「……はあー、不安になるわ。大丈夫かしら」
明らかに不安そうなファルーアに、グランが笑った。
「心配すんな!お前なら無くさないだろ!」
「それ、プレッシャーにしかならないわ」
俺達は、とりあえず今後の予定を練るために宿に戻ることにした。
カルアさんとカナタさんにお礼を告げると、2人共笑ってくれる。
ん、そういえばカナタさん、姫が居る間見事に気配が無かったな……。
「そうだハルト君、ちょっといくつか伝えておきたいんだけどいいかな?」
カナタさんに言われて、皆を振り返ると頷いてくれる。
少し待っててくれるみたいだ。
「まず、僕のバフはハルト君のバフと併せて二重までならかけられる。ハルト君が三重にしているバフに重ねようとしても、上書きして相殺して、二重になっちゃうはずだよ」
「!いつの間に…」
「気になってたでしょう?」
「はい!」
「うんうん、そう来ると思いました!では続けましょう。逆に言うと、ハルト君なら僕のバフの上に重ねられると思うんです。少し試してみる?」
「はいっ」
俺達はしばらくバフを試した。
結果、やっぱりカナタさんは二重まで、俺はその上からいくらでも…って言っても4重までしかやってないけど…重ねられる。
「やっぱりハルト君のは天性の才能です。素晴らしい」
嬉しそうなカナタさんに、俺は首を竦める。
「いや、そんなことは…」
「僕は鼻が高いです。いつか学校を開いたら、講師として招きますからね」
にっこりするカナタさん。
「範囲バフも、僕は100人が限界です。ハルト君はその倍を期待しますよ!」
そして、無理難題を突き付けてくる。
「そんなにですか…」
そもそも100人ですら未知の領域だ。
タイラント戦ですら80人だったよな…?
「ふふふ、そうと決まれば準備を進めないと。バッファーが使えるってことを世に知らしめましょう!」
俺は苦笑して、頷いた。
「頑張ります、カナタさん」
カナタさんは最後に、紙を1枚くれた。
「特別なバフを考えました。やってみてください」
俺はありがたく本に挟んで、カナタさんに別れを告げた。
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