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逆鱗のハルト  作者:
逆鱗のハルトⅡ

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279/847

嘘みたいな本当です。③

******


建物の間を縫うようにして、俺達は気配らしいものがある場所へと向かった。


崩れている箇所や砂に埋もれた場所も見て取れ、壷のようなものが打ち捨てられていたりもする。


「この先です」

ディティアが、口元に人指し指を当てて囁いた。

俺達は頷いて、ソロソロと足音を殺して向かう。


……そこは、広場だった。

中央には丸い池のようなものが造られていて、蒼い砂牛が真ん中で光を発している。


広場……とは言ったものの、そんなに広くはなく、建物の隙間を有効活用しただけ、といった感じだ。

そっと建物の陰から窺い、確かめる。


眼に留まったのは、池の横、座り込んだ6人の人影。


グランが身を乗り出そうとするのをボーザックが止める。

〈待ってグラン、何か変〉

……確かに、既に疲れているのか彼等は動かない。

いや、正確には息を殺しているように見える。

何だろう、怯えてる……?


〈アーラ、あの人達はわかる?〉

ファルーアが聞くと、アーラは頷いた。

〈あれは2番目と3番目のパーティーだよ。人数は少ないけど……ここで合流出来たのかもしれないね。あぁ、嘘みたい。あの人、1番手前の人は、流砂で荷物を見付けた人よ!……生きてた……生きてたんだ……!〉

それは吉報だった。


けれど、ディティアは真剣な表情で天井の方を見ている。

ボーザックも、ごくりと咽を鳴らして見上げた。


〈ティア、わかる?〉

〈はい、ボーザック。あそこに何か……居る〉


〈何かって、何だ?わかるのか?〉

眼を凝らすけど、暗くて見えない。


五感アップで感じる気配は、池の畔の6人。

……あとは何だかよくわからなかった。

何だろう、そこら中に靄が掛かっているような……。


すると、ディティアが小さくひっ、と息を呑んだ。


〈ディティア?どうした〉

〈……み、見える?ハルト君……砂牛の像のところ……天井に向かってる〉

〈ん?……あ……まさか……?〉

俺はそこで、気が付いた。

蒼い光を発する砂牛の像の上、ちらり、と何かが瞬くように見える。


……糸。


それが見えれば、後はもう、まるで見えていなかったのが不思議なくらいだった。


〈蜘蛛の糸だ……広場に張り巡らされてる!〉

〈あそこの6人、身体に糸が巻き付いてる。……まさかとは思うけど……〉

ボーザックの声に、俺はごくりと咽を鳴らした。


まさか、もう……他の人は……?


〈アーラ。砂漠にデカい蜘蛛はいるか〉

〈……う、うん。いるけど……こんな大きな巣は見たことない……ダハルイータっていうんだ。砂牛を食する者って言われてる〉

〈……ふ、普通って、どれ位かな……?〉

ディティアが恐る恐る聞く。


アーラは難しい顔をした。


〈砂牛と同じくらい、かな……でもこの巣はあたしが見たことあるものよりずーっと大きい〉

〈…………!!〉

ディティアは蒼白になって息を止めた。


これは……疾風の援護は期待できないかもしれない。


〈あの糸は厄介そうだな。アーラ、普段はどうやって戦ってる?〉

グランが聞くと、彼女は頷いた。


〈糸はかなり粘性が高いよ。普通は砂の中に繭みたいなのを造って、そこを巣の中心にしてるから……今回は天井にあるんだと思う。1番いいのは巣より外から何か投げ込んで、出て来たところを挑発するの。すぐ糸のない所まで出て来てくれるくらいには好戦的で頭の悪い魔物だよ〉

〈わかった。糸に絡まった場合はどうする?〉

〈氷の魔法か火の魔法で何とかなるね〉

〈よし、ファルーア、ディティア、アーラ。お前らは蜘蛛が離れたらすぐに彼奴らを救出しろ。ボーザックと俺で叩く。ハルト、お前は援護頼む。万が一にはファルーアに指示しろ。……フェン、お前は糸が見えるか?〉

〈がふ……〉

フェンは当然だとでも言いたげに、尻尾を一振り。

グランは満足そうに頷いて、顎髭を擦った。

〈よし、まずは6人に俺達がすることを報せる。後は蜘蛛をおびき寄せられるな?〉

〈わふっ〉


…………

……


……こうして、話は纏まった。

俺達はまず、フェンに速度アップバフを2重にかけ、紙を咥えさせた。


『必ず助ける、正面を見て。待っていて。アーラ』


これはアーラが持っていた小さな手帳の1ページに書いてくれたものだ。



救出部隊は速度アップと反応速度アップを重ねて捕まっている6人の正面側、俺達は速度アップと肉体強化を重ねてその反対に回り込み、準備は整った。


……フェンが動く。


まずは怯えさせないように、広場の外に座って尻尾を振る。

紙がしっかり見えるよう、彼女は首をそっと上下に揺らした。


誰か気付いたんだろう。


ゆっくりと、糸を避けながらフェンが進む。

暫くして、フェンは俺達の方に回り込み、広場の外から嘶いた。


「ガオオォォウッ!!!」


びりびりっと空気が震える。

そして。


『キシャアァアァッ!!』


ズドン、と。

そいつは墜ちてきた。


「うえぇ……気持ち悪っ」

ボーザックが心底嫌そうな声をあげる。


そいつは、恐らく脚を広げると俺が3人くらい並ぶ大きさだ。

かなりデカい。


膨らんだ腹と頭、尖った牙の部分だけでグランくらいはある。


そしてその色。

毒々しい橙色がかった赤と、黒の縞模様。

腹の下部だけは血のような紅だった。


「ガオォウっ、グルルッ!!」

フェンがまた吼えると、ダハルイータは一瞬身体を少し引いて、前に振り出すような形で糸を吐き出した!


ブシュウゥッ!!


フェンはそれをひらりと避け、こっちへ走ってくる。

その姿が頭にきたのか、ダハルイータはガサガサと脚を使ってこっちにやって来た。


そんな場合ではないけど、これは……。


「やばい、すげー気持ち悪いんだけど!?」

「だよね!?俺やだよ、あれ斬るとか!!」

「うるせぇよ集中しろ!」


グランに怒られて、ボーザックが腰を落とす。

フェンの後ろ、建物の間をガサガサと巨大な蜘蛛がこっちに向かってくる。


「ボーザック!脚力アップ!!」

「仕方ないなぁっ!」


ボーザックは踏み切って跳び上がる。

それを蜘蛛が追うより速く、グランの大盾が繰り出された。


「うおおぉっ!!」


ドゴアァッ!!!


ダハルイータは頭でそれを受け止め、1番前の脚を2本、振りかざした。


「グラン!脚が来る!!」

「おおっ」


ザザンッ!!


避けたグランの居た場所に、脚の先が突き刺さる。

まるで剣のような脚だ。


そして、上から。


「おおおりゃあぁぁーっっ!!」

ずしゃあっ!!


ボーザックの大剣が、前から2本目の脚に振り下ろされた。


『キシャアーーッ!!』

後退るダハルイータ。


ボーザックが跳ねてこちらに戻ってきて、鼻を鳴らした。

「……硬い、切り離すつもりだったのに」


見れば、斬り付けられた脚は変形していたがまだ繋がっている。


「よし、もう一度行くぞ!」

『おおっ!』

グランの号令に、俺達は応えた。


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