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逆鱗のハルト  作者:
逆鱗のハルトⅡ

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275/847

過去の栄光です。⑦

「……っ!!」

頭を抱えるように何とか腕を動かし、グランと身を寄せた。

流れ込んでくる水にあっという間に押し流されるとしても、この先は空洞だ。

そこまで耐えることが出来れば、まだ勝算はある……きっと。


それに備えて、俺は息を吸い込み、止めた。



…………しかし。



ダダダッ……がっ!!


駆け寄るような音と共に、いきなり、ぐいっと肩を掴まれて、俺とグランは仰向けにひっくり返された。

「……ぶはあっ……!?」

止めていた息が、反動で漏れる。


「…………!」


眼が、合った。


……彼女は、蒼い光に照らされた美しい金色の髪を俺達の上に垂らし、サファイアのような澄んだ蒼い眼に涙をいっぱいに溜めていた。


見たことがない表情だったから、俺は目を見開いたと思う。


少し震えた細い手が、俺とグランの肩を掴んでいる。


俺達をひっくり返したのは、伝説のメイジと謳われる爆炎のガルフから炎の2つ名を継いだ、俺達の仲間。

光炎のファルーア、であった。


「……よ、よお」


グランが、思わずと言った感じで何故か挨拶をする。

ファルーアは口を開きかけ、ぎゅっと引き結ぶと、ぺたりと後ろに座り込んでしまった。


「あぁ……もう……何よ、間抜け面ね……」

言って、彼女は顔を覆ってしまう。

「…………」

肩が、震えていて、俺は口を引き結んだ。


ディティアと一緒に、3人を置いて逃げなくてはならなかった時のことを思い出して、胸が苦しくなる。

ファルーアもあの気持ちを感じていたんだろう。


「……ファルーア」

グランが、転がったまま何とか腕を上げようとしているのがわかる。


そこに。


「ファルーア!大丈夫!?…………ファル……」

ディティアの声と、軽い足音。


そして。


「ハルト君……グランさん……?」


彼女は、驚きの表情で、俺達の傍までそろそろとやって来た。


眼が合って、思わず苦笑する。

「……一応平気だよ」


「……、……っ!!」

「うわ!?」

どーん!!と。


彼女は声にならない声をあげて、俺達に飛び付いてきた。


「……生きてる……生きてるよね……?……やだもう、心配ばっかりかけて……」

べたべたと俺とグランを触って、生きていることを確かめた後、彼女はファルーアと抱き合って泣き出してしまった。

ファルーアは既に涙を拭っていて、こっちを見て苦笑して見せる。


慰めようにも身体が動かなくて、俺は少しだけやきもきした。

グランを横目で見ると、何とも困惑した顔である。


……俺達、格好悪いぞ……。


さらに、ざく、ざく、と足音。

ふたりの後ろから、ボーザックがひょいと顔を出した。


「……ここで俺も泣いちゃったら、格好悪いかな?」

軽口を叩くボーザックと、その横で目元を覆って明らかに泣いているアーラ。


そこでフェンが飛び乗ってきて、俺とグランは呻いた。


「う、うげ!フェン!!待て!!う、動けねぇんだ、おい!」

「いいわフェン、好きなだけやりなさい」

「馬鹿言うなファルーア!おい!フェン!」

フェンは嬉しそうに、グランの上を蹂躙した。


「っていうか、ふたりとも何で転がってるのさ」

それに少し笑いながら、ボーザックが俺達を見下ろす。

俺は潤んでいるボーザックの眼を見て、何となく照れ臭くて笑った。

「泣いてもいいぞボーザックー。はは、5重バフが切れたとこだからな」

「ハルトのためと思われたら心外だからやめとこうかなー」

「うわ、酷いなお前!」

「へへ」


心配してくれて、ここまで辿り着いてくれたんだ。

そう思ったら、胸の奥が熱くなる。


やがて、光っていた扉がゆっくりと色を失っていき、同時に閉じていった。


完全に暗闇になる前には、ファルーアが小さな火の玉をいくつか作ってくれる。


道が狭いから、大きな火の玉だと熱いのかもしれない。


「とりあえず俺達は動けねぇし……お前ら奥見て来いよ。……すげぇぞ」

転がったままグランが言うと、皆顔を見合わせた。

最初に、ファルーアがゆっくりと立ち上がる。


「ティア、少し落ち着いたかしら?行きましょう」

「……あ、うん」

ディティアは涙を拭って、こっちを見た。

安心させようと思って俺が笑うと、ちょっと困ったような笑みが返ってくる。


あ、そうか。

笑顔のこと、ちゃんと伝えられてないんだった……。


すると、ファルーアが、転がる俺とすれ違いざまに軽く蹴飛ばしてくる。


〈しっかりなさい〉


そう言われた気がして、何とか頷いて見せると、妖艶な笑み。

……悔しいけど、やっぱり頼りになるよな。


「……俺、残るよ。3人とフェンで行ってきてくれる?」

それを見ていたボーザックが言うと、黙っていたアーラが頷いた。


「わかったよお兄さん。……逆鱗のお兄さんと厳ついお兄さん、皆本当に心配してたんだからね!反省してよね!」

「ああ、悪かったな、助かったぞ」

答えるグラン。

俺は眉をひそめる。


だから、何だよその逆鱗のお兄さんって……。


******


残ったボーザックは、皆が見えなくなった頃にその場にへたり込んだ。

ファルーアが離れたんで灯りも無くなったから、ボーザックは俺が何とか練り上げた浄化のバフで銀色に光っている。


「っ、あー!!……もう、何だよ、本当に心臓止まるかと思ったからね?俺」


言いながら、俺達を何とか起こし壁に寄り掛からせて。

ボーザックは、言葉を詰まらせた。


「……俺、頑張ったかんね……」


それを見て、グランが満足そうに眼を閉じる。

「わかってる。……頼りにしてるぞ、不屈」

「やっぱお前、格好いいわ」

俺も応えて、笑った。


「……あーもう!グランもハルトもずるい!」

目元を擦る小柄な大剣使いは、どかりと胡座をかいて鼻を鳴らしたのだった。



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