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逆鱗のハルト  作者:
逆鱗のハルトⅡ

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過去の栄光です。⑤

俺達は拠点にした水辺に戻り、横穴がしっかり見えるよう陣取った。

万が一何かが入ってきたら、すぐ確認出来るようにしたかったからだ。


……それが例えば良い者であっても、悪い者であっても、である。


ここに落ちて結構経ったように思う。

もしかしたらとっくに夜かもしれない。


お腹も空いたし、俺達は腹ごしらえをして、少し話をした。


「お前とゆっくり二人きりは久しぶりだなぁ」

グランに言われて頷く。

「何時が最後だろうな」

「さあな……なあハルト。お前は、ディティアとどうなりたい」

いきなりの質問に、思わず眉をひそめる。

静かな空気が流れていき、優しい蒼い光が瞬いた。


……茶化してるわけじゃなさそうだ。


俺は真面目なグランの紅眼を見ながら、ふと思い出した。

「ファルーアにもさあ、聞かれたんだよなー。好きかどうかって」

「ぶふっ、な、何だと?何時だ?」

「確か……ラナンクロスト王都だよ。グランが2つ名もらったときに、グロリアスと食事したろ?……あー、グランがアイザックと腕相撲してテーブルぶっ壊した時」

「ぐっ、そ、そんな記憶はどうでもいいんだよ!で?何て答えた」

「そんなの好きに決まってるじゃん。嫌いな奴と旅なんかしたくないだろ?……グランだってそうだよな?」

言ったら、グランは右手でこめかみを押さえ、胡座をかいた膝に右肘を置いて俯いた。

「あぁ……そうだよな、お前、ハルトだったな」

「何だよ……グラン違うの?」

「違わないが違うんだよ……それともハルト、お前はそれが本心なのか?」

「……んん?」

「ディティアと、この先、お前はどうなりたいんだ、はっきりしろ」

バシッと膝を叩いてグランが言うので、俺は唸った。


どう……どうって。

俺を見ていたグランは、ゆっくりと顎髭を擦り、ふと話し出した。


「……そういやお前、両親は冒険者だったな」

「えっ?……ああ、そうだよ」

「両親も、同じパーティーだったんじゃなかったか?」

「そうだけど」

「それだよ、そういう、『どう』だ」

「………………」


俺は、たっぷりとグランを眺めた。

グランも、俺をたっぷりと眺めていた……と思う。


口元に水の入った革袋を運んで、俺は……。


「ん、ぐ!?っぶは!げほっ、ごほっ……」


咽せた。


「わかったか?伝わったか!?」

グランが身を乗り出す。


「ごほっ、ごほっ……な、な、何を……!」

「言え、吐け!ほら!!」

俺は胸をどんどんと叩いて、漸く呼吸を整えた。


「はー、はぁ、は……ったくもう、何だよ、わかるわけないだろ!ファルーアの奴、そういう意味で言ってたのかよ!」

「馬鹿言うな!伝わらないのはお前だけだ!」


急にむず痒くなって、俺はグランに背を向けた。

「そんなの、考えるにはまだまだだよ……」


「……そうか!……うん?……そうか??……どういうことだ?」

「……いいかグラン。俺、ディティアに一撃も入れられないんだぞ!?ディティアのために強くなりたいし、皆もそうだって知ってる!!……それなのに、まだディティアは遙か高みなのにさあ、そんなの悔しいだろ!?だから今は、ディティアとこの先がどうとかそんな……」

「……!!そ、そうか!お前、対等になってからと思って……!?」

「……えっ、いや、だから……うおっ!?」

「何だよハルトォ!それなら最初からそう言え!!お前、男じゃねぇか!!」

「い、痛い!痛いグラン!」

しかも、何か違う!!


背中をバシバシと叩かれながら、俺は悲鳴を上げる。


俺が言いたいのは、彼女に追い付いてからとかそんなんじゃない。


ディティアが、安心出来る場所。

爆風のガイルディアの話をする時のような、あんな笑顔になれる場所。


そんな場所にしたい、なりたいって、そういう気持ちだ。


だからきっと、グランやファルーアの求める答えとはズレている。


しかし、笑うグランには全く伝わらなかった。


******


あの後、ハルトは懸命に違うと訴えていたが、疲れてたんだろう。

暫くすると寝てしまい、蒼い光が満ちた静かな空間がグランを取り囲んでいるだけになった。


酒のひとつでも飲みたいが、生憎水しか無い。

けれどグランはほろ酔いと同じくらいには気分が良かった。


なあ、ハルト。

お前の言う『場所』は。

きっと、俺やファルーアが言うものと同じだと思うぞ。


気付いていないところが、まだまだハルトはハルトである。

けれど、きっとひとつ、進んだことだろう。

それに、グランには思うところもあった。


……ディティアと対等に。

これは、俺が……恐らく、俺達全員が、確かに思っているはずだ。

よく見てるじゃねぇか。


思わず笑い、寝ているハルトの頭をわしわしして、グランも横になる。


何があってもいいよう、仮眠程度だが。

休まねぇと、やってられねぇからなあ。

ハルトが起きたら存分に眠らせてもらうか。


そんな風に心の中で呟いて、グランは浅い微睡みを、ゆっくりと味わうことにした。



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