過去の栄光です。④
横穴は少し行くと右手に折れていた。
俺が発する光で、壁面が時折瞬く。
グランが様子を窺い、手で俺を呼ぶ。
「見ろハルト……あっちも明るいぞ」
「本当か?……同じような空洞なのかな」
覗き込んでみると、確かに先の方がぼんやりと蒼い。
光る岩の光が見えているんだろう。
俺達は横穴の先まで進み、顔を出した。
「…………うわ」
そこには。
思わず声を上げるほどの景色が、ひっそりと……しかし、厳かに広がっていたのである。
「こりゃあ……とんでもねぇな」
グランも呆然とした面持ちで、『それ』を見上げる。
天井はさっきの場所より高い。
そして、地面には左右に広がる巨大な階段……段にして数十段くらいか。
その中央には水路のような溝が造られていて、上から水が流れてきていた。
水路の真ん中辺りに突き立つ蒼く光る岩には猛々しい砂牛の彫刻が施されているようだ。
そして階段の上。
そこには、砂と同じ色の巨大な……そう、宮殿のような建物があったのである。
ここからは見えないけど、奥までずっと続く広い建物に見えた。
ズンズンと太い柱が並び、その柱にも蒼い岩。
光っているところを見ると、あの柱は水が伝うように設計されているのかもしれない。
……俺の予想が正しければ、だけど。
「気配はねぇな……ハルト、一応魔力感知バフも頼む」
「おう。……魔力感知」
俺は自分の浄化バフを消し、魔力感知をグランと2人に広げた。
するとどうだろう、辺りがいっそう明るく光ったのである。
「うおっ、な、何だこりゃ!?水が光ってんのか!?」
グランが目元にひさしを作り、後退る。
俺も、いきなりすぎて目の前がちかちかしていた。
綺麗だけど、これは……眩しい。
「そ、そうみたいだ。……ここの水、魔力がいっぱい入ってるってことじゃないか?」
「……飲んじまったけど大丈夫か」
「あー……腹痛いわけじゃないし平気なんじゃないかな?」
「腹壊すのは困る」
グランが真面目な顔で顎髭を擦る。
確かにこんな所で腹を壊すとか本当に勘弁してほしい。
「とりあえずバフは消せハルト。眼がやられちまう」
「あ、うん」
俺はバフを消し、空洞へと踏み出した。
壁伝いに左へと眼をやると、横穴があと2つあるのがわかる。
「この穴、人が掘ったんだろうな。水場への道だったのかもしれん。……そうするとあのどっちかは……」
「あ……外への道だったかも?」
俺達は顔を見合わせて、にやりと笑った。
宮殿がもし未知の領域だったなら、かなりの大発見のはずだ。
中だって見てみたいけど、今はグランと2人だけだしな。
だから迷わず、横穴へと向かう。
早く皆と合流しなければならない。
まずは1つ目の横穴。
やはり中は真っ暗だったんで、浄化バフを灯り代わりにする。
……本来の用途ではないけど。
バッファーとしては不本意だけど!
この横穴は、すぐに砂山に遮られてしまった。
……俺達が落ちてきた時、他にも砂の柱が打ち上がっていたのは確かだ。
ここも、あの内のどれかだったかもしれない。
「地盤が緩んでたとか、そんな感じなのかな」
思わず口にすると、グランは引き返しながら唸った。
「ただ穴が空いたにしちゃ、派手に砂の柱が噴き上がってたが」
「そっか……じゃあ何かの爆発?」
「さあなぁ…アーラなら何かわかったかもしれねぇな」
「確かに」
俺達は横穴から出て、さらに左に行ったところの、最後の横穴を覗き込んだ。
「やっぱり真っ暗だな」
「仕方ねぇだろ。行くぞ」
じゃり。
俺達は、期待を込めて、踏み出した。
…………
……
「見ろ、ハルト」
横穴は結構長く、かなり進んだように思う。
そこで先導していたグランが止まり、俺も歩みを止めた。
厳つい身体越しに横穴の向こうを見遣る。
「お、おお……!」
……俺達が横穴の先で見付けたのは、紛れもなく扉。
砂牛の模様が彫り込まれた立派な鉄扉が、しっかりと道を塞いでいたのである。
……
…………
「……ぐぬうううぅ!」
「おおおおおおッ」
肉体強化を4重まで重ねて、2人で扉を押した。
思わず腹の底からの気合が雄叫びとして漏れるけど知ったこっちゃない。
扉は、今は浄化バフも消してあるんですっかり見えないけどな。
「ハル、トォ!踏ん張りやがれええぇ!」
「グラン、こそぉっ!こんな、もんかよおおぉ!」
ばらばらと砂が落ちてくる。
けれど、それだけ。
とにかく、これを開けることが出来れば!と思い、必死に押しているわけだけど……鍵が有るようにも見えないのに動かないのだ。
「つおおおおぉぉぉ!!押せえええぇぇ!!」
「ぐうううぅぅー!!押 し て るよおぉ!!」
『ぶはあっ!!』
俺達はそのまま地面に突っ伏した。
くっそぉ……動かない……!!
「こ、こうなったら5重いくか……!?」
激しく息をしながら俺が怒鳴ると、グランが荒い息遣いで答えた。
「やるが、明日だ……!くっそぉ!!……1度拠点に戻って、腹ごしらえと、休憩!!いいな、ハルトぉ!」
「アイサー!!」
何故か奇蹟の船ジャンバックの船員の返事をして、俺はグランと同時に声を張り上げた。
『ちくしょおー!!』
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