過去の栄光です。③
「すげぇな」
結構な細部まで彫り込まれた石像。
グランが顔を寄せてまじまじと眺め、呟いた。
砂牛の頭は、少し波打った角の先まで入れるとボーザックくらいの高さがある。
あいつ、泣いてないかな。
ちょっと気になったけど、やるときはやる奴だってことは知っている。
だからきっと、何とかしようと頑張ってくれているはずだ。
それなら、俺だって応えないといけない。
「ここにこんなのがあるってことは、上に戻る道があるってことだよな?」
言うと、グランは顎髭を擦りながら唸った。
「手入れされた様子はねぇからな……放置されてかなりの年月が経ってるとしたら、ここ自体が未知の領域かもしれねぇぞ」
「つまり、砂漠に埋もれて手付かずってこと?」
「そうだ」
「うわぁ……」
……そうすると、ここへの入口は見付けられていないってことになる。
そもそも、入口が無いなんてことも……。
そこまで考えて頭を振った。
それを見たグランが、俺の左肩をでかい手でぽんと叩く。
「大丈夫だ。お前も俺も、運が良い方だろうよ」
説得力があるのかないのかわからなかったけど、俺は思わず苦笑する。
頭の中で、爽やかな空気を感じたんだ。
〈君はどうやら最高に幸運だ、逆鱗の〉
何時ぞやに言われた台詞が聞こえた気までして、こんな時に思い出すのがお前とか最悪だよ!……と、突っ込みたくなった。
「何だ、不満か?」
「……いや。俺、幸運だってシュヴァリエにも言われたなぁと思ってさ……」
「……そりゃあ……うん、すまねぇな」
「だろ……?」
けれど、重い空気は掻き消えて、何となくだけど入口があると信じることが出来た。
俺達は気を取り直して、さらに進むことにする。
地底湖を右手、落ちてきた砂山を後ろに見て、壁沿いに歩く。
湖はずっと向こうまで続いていて、蒼く光る岩が所々に突き立っていた。
湧き水もあるから水音は常に聞こえるけど、気配らしいものは感じない。
天井を見ると、明らかに硬そうな岩や粘土で出来ている……ように見える。
あれが砂漠の砂を支えていたんだな、と思った。
やがて、少しずつ道……というか、歩ける地面の幅が狭くなってくる。
砂牛の頭の他には、今のところ明らかな人工物は無い。
地面はそれなりに平坦であり、ごつごつした石が転がっている訳でもないから、それはもう自然の形ではないのかもしれないけど。
それから、ひとつ気付いたことがあった。
蒼く光るクリスタルみたいな岩……それ、実は水の中だけじゃなくて、壁の中にも結構あるみたいなんだ。
壁の隙間から漏れる水があって、そこだけ光っていたのである。
たぶんだけど、水に触れると光るんじゃないかな。
それから少し行くと、横穴が見付かった。
覗き込んだグランは、頭を引っ込めて首を振る。
「……暗いな。だいぶ奥まであるのかもしれん。ハルト、ランプあるか?」
「いや。砂牛に付けっぱなし。グランは?」
「だよなぁ……俺だって持ってねぇよ……くそ、ファルーアがいりゃあな。あ、いや。待て……お前、あれあるだろ。光るバフ」
「はっ?光るバフ?……そんなの……ああー、ある!……浄化!!」
俺はバフを投げた。
同時に、自分の身体が銀色の光に包まれる。
ぼんやりした灯り程度ではあっても、有るのと無いのじゃ全く違った。
「やるじゃねえか最高のバッファー!」
「いっ……て!」
バシリと。
背中を思い切り叩かれて、俺は前屈みに蹌踉めいた。
いや、この使い方、バフとして間違ってるからな。
褒められたようで全く褒められていない。
「バッファー馬鹿にしてるだろ?グラン……」
涙目で振り返ると、グランはにやにやしていた。
「馬鹿言うな。これ以上無いくらい自慢だぞ?」
「…………っ、な、何だよ、それ」
「ははっ!お前、何だ、褒められるのに慣れてねぇな?おーおー」
「う、うるさいなぁ」
グランはひとしきり笑って、歩き出した。
「とりあえず、この先が何か見てみるぞ」
「はいはい」
俺達は、横穴へと踏み入るのだった。
******




