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逆鱗のハルト  作者:
逆鱗のハルトⅡ

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過去の栄光です。②

ゴオ……


流れていく。

目も開けられない暗い砂の中、俺は自分がどうなってしまうのかを、嫌と言うほど感じた。


そうか、俺、このまま死んじゃうんだ。

出来る事なんて無い。

手を口元に当て、呼吸するための小さな空間を作るので精一杯で。


ディティアには、笑顔のことちゃんと説明出来なかったな……。


恐いと思った。

死にたくないとも思った。


けど、ディティアを助けることが出来たから。

それだけは、自分を褒めてやりたい。


泣き叫びたい程の寂しさと恐怖が、全身を満たす。

後どれくらい、こうして思考を保てるのか……。


そう思った瞬間だった。


「……っうぉあ……ぐっ!?」


どさっ、ごろごろごろっ!!


身体に浮遊感が生まれ、背中から叩きつけられて、俺はごろごろと転げ落ちた。

漸く止まった頃には、意味が分からなくて砂山をわさわさと触る謎の行為に及んだ程である。



俺……生きてる……?



予期せずして、次から次へと流れ落ちてくる砂から抜け出すことに成功したらしい。


そして、すぐに厳つい大男に思い当たる。


「……っ……グラン!」


布を口元に引き上げていたにも関わらず、砂が口の中に入り込んでいてじゃりじゃりした。

何とも言えない、苦いような酸っぱいような味がする。


「グラン!グランー!!」


立ち上がり、砂山を回り込むようにしてグランを探すと、すぐに砂山から白い大盾が覗いているのを見付けた。


「グラン!おい!」

ざくざくとそこまで登り、砂を掻く。

しっかりと足が置ける場所を確保出来て、俺は両手でとにかく掘った。


白薔薇の大盾。

飛龍タイラントの角、その芯である骨を使って造られた、つるりとした白い大盾を、掘り起こす。

まだ腕力アップバフは保たれていて、そりゃもうざくざくと掘り進むことが出来た。


もう少しだ!


ところが。


「……ペッ、げほっ、くそ、おいハルトォ……どけ!重い!!」

「うおっ!?」


足元が震え、後ろから声がして、俺は飛び退く。


……足場にしていた『それ』こそが。


豪傑のグラン。

俺にとって兄貴分のような、白薔薇のリーダーだったのである。


****** 


砂の上に胡座をかいて、俺達は向かい合っていた。

程なくして新しい砂が流れ落ちてくることも無くなって、たぶん俺達が落っこちてきた穴が埋まったんだろうと予想出来る。


白薔薇の大盾も無事確保し、状況を整理すべく、腰を据えたところだ。


まずやったのは、砂に流されて揉みくちゃにされ、中身がだいぶ減っていた革袋の水で口の中の砂を洗うこと。

何たって、周りにいくらでも水がある。


……地底湖……とでも言うのがいいのかも。


広がる水面。

湖はひんやりとした大量の水を湛えていて、その水で咽を潤すことでやっとホッとすることが出来た。


「グランを見付けた時にまだ腕力アップが保たれてたから、流されてた時間はあっても数分だったと思う」

「数十秒かもしれねぇぞ、何たって生きてる」

「……ああ。……生きてるな」


『…………』


俺達は顔を見合わせて、じわじわと口元を緩めた。


「生きてる!!あははっ、グラーーン!!」

「いや、死んだと思った!あれはやばかった!!」


俺達は拳を結構な勢いで突き合わせて、げらげらと笑う。


生きてる。

俺達は、生きてる。


実感と安堵が押し寄せて、頭がおかしくなったんじゃないかってくらいだ。


どれくらい笑っていたかわからないけど、落ち着いてから、俺達は本題に移った。


「で、だ。ここは何だ?」

グランが、ゆっくりと辺りを見回す。


空があるわけじゃないのに明るくて、随分先まで見通せる。

それは、地底湖の中や流れ出る水から突き出したクリスタルみたいな岩が、蒼く発光しているからだ。


正直、落ち着くまで全く気が回らなかった。


「何だろうな……ただの空洞なのかな?……あの光ってる岩も見たことないけど……トールシャでは普通なのかな?」

質問に質問で返してから、俺は思い切り空気を吸う。

口元の布を降ろしても、ここの空気は澄んでいて何のざらつきも感じない。


こんな状況じゃなかったら、間違いなくゆっくりしたはずだ。


「……ふぅむ、何にせよ、上に戻らねぇとなあ」

「はあ……うん……絶対、怒られるな」

「消し炭にされねぇように早く戻るか」

俺達は笑って、やるべきことを決めた。


上に登る方法を探すこと。

皆と、合流することだ。


「さぁて、とりあえずはここが拠点だ。いつかファルーアの奴が魔法ぶっ放して掘り返すかもしれねぇからな」

俺は、埋まった天井を見上げる。


……うん。


「もう少しだけ離れておこうぜ……グラン」

砂山が爆ぜるのを想像して、俺は顎髭を擦る大男に進言するのだった。


******


食糧は節約して10日は保つ。

水は十分。


俺達は、地下空洞の探索に乗り出した。


ひんやりとした空気ではあるけど、体感調整バフをかけるほどでもない。

だから五感アップをかけて進むことにする。

両方重ねてもいいんだけど、長時間になるとしんどいしな。



「……なんつうか、随分歩きやすいな」

しばらく歩いたところで、グランが言う。


「そうだな。普通の道みたいだ。何かほら、そこの岩も顔みたいな形だし。ははっ、案外人工的な……うん?」

言いながら、俺は立ち止まる。

「どうしたハルト」

「……なあ、グラン……あれ」

「あ?」


指差した先。


それは、砂牛の頭……に見える岩。


明らかに自然の形ではない岩が、堂々と聳えていたのである。


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