名誉あるお役目なので。①
シュヴァリエの屋敷を後にする直前、俺の所に奴はやってきた。
「逆鱗の」
「……何だよシュヴァリエ」
「閃光の、とつけてくれてもいいよ、逆鱗の」
「はいはい」
ふふっと笑って、シュヴァリエは続けた。
「白薔薇には迷惑をかけたね。遺跡の件も聞いている。逆鱗の名前も順調に広まっていて何よりだろう」
「いや、何よりだろうってなんだよ……っていうかお前!思い出した!ギルドで変な伝言残すなよな!?」
「ははは、成功したと報告が来たときは清々しかったよ」
ほんと、覚えてろよ……。
とはいえ、今回はこうやって場を設けてくれたしな。
王国騎士団と冒険者とで揉めるわけにいかないってのもあったんだろうけど、かなり俺達に不利益にならないよう立ち回ってくれたらしかった。
「……まあでも、後腐れないよう計らってくれたのは感謝する」
だから、ひと言そう伝えた。
シュヴァリエは当たり前のように受け止めるかと思ったんだけど。
一瞬、その双眸が見開かれたのを、俺は見てしまった。
「…ほー、珍しい顔見たな」
思わずこぼすと、シュヴァリエはすぐにいつもの爽やかな空気を滲ませる。
「いや、まさか逆鱗から感謝の言葉が出ようとは、さすがの僕でも予測不可能だったのでな」
「お前、本当嫌味な奴だなあ…」
「今回は、どう考えても王国騎士団の不手際。次回からはルールにひと言、先手にて重傷を負わせた者が勝者となる旨を書き加えることになった。不屈のように、最後まで戦い抜こうとする者がいなかった」
「お、不屈って呼んだ?」
シュヴァリエは俺の茶々を綺麗に無視。
「白薔薇は…まだまだ上を目指すのだろう?」
「…ああ。きっとな。全員すぐ2つ名持ちになるぞ」
「そうか。期待しているよ逆鱗の。…すぐにその第1歩が訪れると思うがね」
シュヴァリエはそう言うと、正面玄関の扉を開いた。
その言い回しは少し引っかかったけど、目の前の光景がそんなことをかき消した。
『パーティー白薔薇に栄光あれッ』
『不屈のボーザックに敬意をッ』
「え」
俺達は、息を飲んだ。
屋敷の入口から門までに、王国騎士団がずらりと並んで剣を掲げたのである。
「何これ!?っていうか何で俺の名前!?」
ボーザックが引いている。
つるつるのイルヴァリエは同じように剣を掲げると、頷いた。
「兄上からの計らいだ。王国騎士団から有志を募らせてもらった。入りきらなかったから抽選したのだ」
「抽選してこれ?うわあ…」
俺達は恐る恐るその間を抜ける。
ボーザックに左右から激励が飛んだ。
門の外にも何だ何だと言わんばかりに、野次馬がずらり。
その中にはどうやら冒険者達も交ざっていて、ボーザックに声を掛け始める。
「は、ハルトーーー」
「俺の気持ちがわかったか、ボーザック」
「お、俺、どうしていいかわからないよーーー」
半泣きのボーザックを先頭にして、俺達は貴族街を後にするのだった。
アイザック達は、生温い笑みで俺達に手を振っていた。
迅雷のナーガは無表情で突っ立ってるだけだったけど。
覚えとけよ……。
******
そして漸くギルドに辿り着いた。
例の遺跡調査の報酬の受取を待ってもらってたんだ。
カナタさんとカルアさんも一緒。
ボーザックは疲れ果てた顔をしていた。
そして、扉を開く。
「カルーア、貴女、王都に立ち寄ったときは声をかけるよう何度も言ったのをお忘れなのかしら?」
……。
今度は、何だ……?
俺達はさっと道を空けて、後ろにいたカルアさんを差し出した。
とりあえず、目の前にいたのはすごくフリルのついた真っ青なドレスをまとったお嬢様。
周りには護衛らしき男性が3人ほど控えていた。
ストレートの銀の髪に青い眼は、またもやシュヴァリエに似ている。
まあ、王都近辺で多いんだけどな。
ゆったりと編まれた艶のある髪には、ところどころ花のような髪飾り。
すごく着飾っているところからしても、えらーい貴族様なんだろう。
「……あぁー、ルクア、何でこんなとこにいるんだい…」
「剣術闘技会、わたくしが見ていなかったと思いまして?」
「あぁー」
カルアさんは頭を抱えた。
「全く、シュヴァリエに聞けば遺跡調査にも参加していたそうではありませんか!募集はもう一月以上前でしてよ?」
「まあ、そうなるねぇ」
そこで、横に控えていたギルド員がぺこぺこ頭を下げた。
「姫様、お部屋をご用意しておりますのでこちらへ!皆さんもお願いします!」
よく見れば、シュヴァリエの伝言を読まされたあの女性だ。
巻き込まれ体質なんだなぁ。
っていうか、今、姫様とか言わなかった?
グランを見ると、迷惑そうな顔でこっちを睨まれた。
えっ、俺のせい?
そうこうしてる間に、ギルド員は俺を見た。
「逆鱗のハルト様!手伝ってくださいますよね?さあさあ!こっちへ!」
ええー。
結局、何故か俺達白薔薇も同じ部屋に押し込められるのだった。
******
「あー、彼女はこの王国の姫君、ルクア様だ。あー、あたしとはかれこれ20年来の付き合いになる」
カルアさんはさも適当と言った感じで紹介。
聞きながら、この人が完遂という2つ名をカルアさんに付けた姫だと理解した。
ディティアに聞いたら、王族が2つ名を付けることは名誉なことらしい。
そりゃあ、他の2つ名持ちに付けられるより箔が付くだろうしなあ。
「初めまして白薔薇の皆様。それから、不屈のボーザック。貴方の試合はしかと見させていただいたわ」
「は、はいっ!?」
ボーザックが背筋を伸ばす。
(ちょ、ちょっとハルト!俺どうしたらいいの!?)
(知らないよ!っていうか何だよこれ!)
「あとは……貴方、逆鱗のハルト」
「っえぇ!?うわ、は、はい!」
「シュヴァリエに随分と気に入られたのね。同情するわ」
「!それは、ありがたいお言葉で……いっ」
本音が洩れたところに、ファルーアのヒールが足を襲う。
「いや、その、恐縮です」
姫はふふっと笑うと、グランとファルーアを見た。
「グラン、ファルーア、騎士団と冒険者達の仲を取り持ってくださったのを見ていました。感謝を」
「っ、そりゃあ……とんでもないお言葉です」
「勿体ないお言葉、誠に恐縮ですわ姫様」
グランも足を踏まれたんだろうな。
「最後に、疾風のディティア。貴女の活躍は耳にしています」
「ありがとうございます」
姫はうんうんと頷くと、早速カルアさんに向き直った。
「ではカルーア。本題に戻りますわよ?」
「勘弁しとくれよルクア……」
お茶が運ばれてきたり、お茶菓子が運ばれてきたり。
お茶会のようなものが始まった。
この部屋の外では冒険者達が普通に依頼を受けたりしていると思うと……なんかそわっとするなぁ。
ちなみに、シュヴァリエの屋敷で出された焼き菓子よりも遙かに高級そうなケーキも並んだ。
ファルーアとディティアの食い付きがすごい。
「特別に取り寄せたものよ!召し上がれ」
姫が微笑むと、彼女達は心の底からと疑いようも無いお礼を述べて食べ始めた。
…うん、実際めちゃくちゃ美味しかった。
「もう、ほんとに悪かったよ…まさかギルドまで出てくるとは思わなかった」
「わたくしの行動力はよく知っているでしょう?」
「はは、その通りだね。にしても、ここまで歩いて来たのかい?」
「まさか。馬車ですわ。歩くと言ったらそこの近衛達が怒るんですもの」
「あぁ…まあそうだろうね」
姫はじろりと近衛達を睨んだが、近衛達は知らん顔だった。
「…では、本題も終わりましたし、依頼をお持ちしますわ」
「依頼?」
「ええ。カルーアに、と言いたいところですけど、白薔薇にお願いしたい案件ですの」
ぶは。
ボーザックがお茶を吹き出しかけてむせた。
カルーアさんはやれやれと肩を竦め、言った。
「諦めな。この姫様はうんと言うまで帰しちゃくれないよ」
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