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逆鱗のハルト  作者:
逆鱗のハルトⅡ

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269/847

過去の栄光です。①

******


「あ、ああぁあ―――ッッ!!」


自分が絶叫していると、気が付かなかった。

呑み込まれるふたりが見える。


ハルト君は、私に笑った。

グランさんは、私を、皆のところに……投げ上げて……。


「ティア!!」

どっ!!


ボーザックが、私を受け止める。


砂の上に転がって、砂丘の反対側に落ちそうになるのを、アーラとファルーア、フェンが掴んでくれた。


でも、でも。


「ファルーア!!ふたりが!!」

飛び起きるように、反対側に戻ろうとすると、握り締めたロープが、フェンに引っ張られた。


砂まみれになった身体が、再び砂丘に突っ伏す。


脳裏には、ハルト君が口元へと手を持っていく姿が……押し寄せる砂に呑み込まれるその瞬間が、まざまざと浮かんだ。


それでも私は、ふたりが砂から這い上がってくるはずだと、砂丘の下を見下ろす。


……ねえ。

早く……お願い。


「……ねぇ……どうして、どうしてッッ!!」

握り締めた砂が、指の隙間から零れていく。


砂柱は新しく噴き出すことなく、砂漠は静まり返っていた。

……ふたりを呑み込んだから満足だとでもいうのか。


「……ティア」

どれくらいそうしていたのか。

ボーザックが、上半身を起こした私を覗き込む。

その眼は真っ赤になっていて、茫然とした私を映していた。


「……ボーザック……ハルト君が……グランさんが……」

呟くと、ファルーアが、私を後ろから抱き締めた。

ボーザックも、私達を包むように、そっと腕を回す。


「…………嘘だよね」

私の言葉は砂のように、ただ、零れていった。


******


離れるわけにはいかなかった。


ふたりが砂の中に埋もれて数分間……いや、数十分しているのかもしれない。

急がなくちゃ、とは思うけど、どの位経ったのかとかなんてどうでもよかった。


ファルーアの魔法で掘り起こそうにも、それでふたりがずたずたになったりしたら大変だ。

何としてでも、助けないと。


指示をくれるグランがいない。

飄々としてるけど頼りになるハルトがいない。


俺の大剣は、ここじゃ全く役に立たなくて、手で、必死に砂を掻き出すことしか出来なかった。


……そんな中で、アーラが、これは元々流砂ではなかったかもしれないと教えてくれた。

触れた砂はさらさらしていて、濡れていた痕跡が無い。


それも、どうでもよかった。


暑さで頭がじーんとする。

砂漠が乾いているせいか、汗は出なかった。


「グラン……ハルト……」

思わず名前を呼ぶ。


ティアも、ファルーアも、一緒になって砂を掻き出している。

その傍で、フェンが砂に鼻を寄せ、ふたりを探してくれていた。


アーラだけが何も言わずに傍に居て、俺はそこで、いつの間にか砂牛達が戻ってきているのに気付く。


「アーラ……砂牛達で、砂を掻き出すことは……?」

「……ごめん、ごめんなさい、お兄さん。……砂牛では無理、この子達は砂を掻くことは出来ないの」

アーラの声は、震えていた。

キツくキツく握り締めた拳が、白いローブから覗いている。

俺はそこで、どうしたの、大丈夫だよと、笑い飛ばそうとしたんだ。

……でも、どうしてか、何時ものように笑えなかった。


「お……お兄さん……お姉さん……。ねぇ……ねぇ、聞いて。お願いだよ……もうやめて」

やがて、アーラはぽろぽろと涙を零し始める。

真っ黒な髪がフードから胸元へと垂れていて、膝を突いたアーラをなぞるようにして砂の上に流れていた。


ぽたり、と落ちた涙は、すぐに砂の中へと消えていく。


一瞬だ。

本当に、一瞬の出来事。


アーラの涙みたいに、ふたりは呑み込まれてしまった。


「……」

顔を上げたら、日はゆっくりと沈もうとしている。

そびえる砂丘の向こうに隠れようとする太陽。

これから空は紅くなっていくはずだ。


手を止めた俺に、アーラが縋り付いた。

「お兄さん…お願い、お願いだから……!」


俺は、そこで初めて、気が付く。


アーラの白い手のひらから、血が出ている。

キツく握り締めたせいで、爪が食い込んでいたんだ。


「アーラ、手が……」

「あたしはいい!あたしは、いいから……このままじゃいけない!!」

顔を歪めて訴える、小さな女の子。

「……あ」


俺は……。


俺は、何をするべきなんだろう。

何時もなら、グランが道を示してくれる。


皆でいれば、皆がいれば、何でも出来るようになるって思ってた。


でも今は。

ふたり、いない。


俺と……フェンと、ファルーアと……ティアだけだ。

じゃあ、俺はどうするべきだろう。


答えは出ていた。


守らなくちゃ駄目なんだ。

グランと、ハルトに、笑われたくない。


そう思ったら、自然と頭が冷えた。

俺は腰に提げていた水の入った革袋を引っ掴み、中身を口に流し込む。


ごくり、と咽が鳴った。

身体が水を欲していることにすら、気が回らなかったんだ。


「お兄さん……?」

「ごめんアーラ。もう大丈夫だよ。ファルーア、ティア。……水飲んで。ここで俺達が倒れるわけにはいかない」

言ったら、彼女達は悲痛な面持ちのまま、俺を見た。

「……飲んで。グランとハルトをこのままにして、俺達が倒れたら駄目なんだ」

「…………ボーザック、貴方……。そうね、そうよね。……こんな、取り乱すなんて。あのふたりに馬鹿にされるなんて御免だわ」

先に、ファルーアの眼に光が戻る。

彼女は横にいたフェンにも革袋を広げて差し出した。

「ごめんなさいね、フェン……咽が渇いていたわよね」

「あぉん……」

舌を垂らしていたフェンは、ひと声鳴いて水を飲む。


「悪かったわ、ボーザック」

「ううん。……ごめん、ファルーア」


言ってから、俺は自分の革袋をティアに差し出した。

「ティア。こっち見て」

「…………」

ぎこちないかなって、自分でも思う。

でも、俺は大剣を振り回すことで硬くなった手のひらで、そっと彼女の頭を、髪を、撫でた。


「ティア。俺も、ファルーアも、いるよ」

「……!」


ティアは、目を見開いて、口をへの字にし、眉を寄せて俯いた。


「……まだこれからだから」

「……うん……」


彼女は目元をローブでゴシゴシと擦った。

顔を上げた時……ああ。

その「疾風のディティア」の凛とした表情に、俺は思わず笑みを零す。


ティアは強くて、弱くて、綺麗だ。


******


太陽が砂丘に隠れ、日陰になった場所で少しだけ休む。

その間、ファルーアは必死になって考えることを選んだ。


下から突き上げる砂柱。

流砂ではないのに渦になって吸い込まれる砂。

それは何故起こったのか。


ボーザックがあれ程に奮い立ったのだから。

私も応えなくてはならないわ。


その思考が、さらに集中を高めていく。


砂柱は、下から突き上げられて出来たように見えた。

それが立て続けに何カ所かで起こって、同時に、柱が噴き出した場所へと、周りの砂が吸い込まれていったのだ。


では、その砂は何処にいってしまったのか。


もやもやしていたものが実を結んでいく。

こうあって欲しいという願望に辿り着くまでを、ファルーアは描いていく。


そうして導き出した答えに、ファルーアはフェンにもたれて休むアーラに声を掛けた。


「……アーラ、教えて。砂漠は、地下に空洞があるかしら?」


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