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逆鱗のハルト  作者:
逆鱗のハルトⅡ

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仕事は優先です。⑤

日は高くなり、気温もぐいぐい上がった。

俺は体感調整バフを皆に投げ、砂の海を歩く。


「…………」

アーラは昨日と違って油断なく辺りを窺い、警戒しているように見える。


俺は少し気になって、声を掛けた。


「アーラ」

「えっ?……何かなお兄さん」

「そんなに気を張っててしんどくないか?……何か俺達でやれることあれば教えて」

「……」

驚いたんだろう。

真っ黒なぱっちりした眼がさらに大きく見開かれて、俺を映す。


口元は布で隠れていて見えないけど、たぶん間抜けな感じにぽかんと開かれているに違いない。


「……警戒とか、気を付けた方がいい物とか、なんかそういうのの目印とか。何かないか?」

とりあえず続けると、俺の横に居たファルーアがふうとため息をついた。


「アーラ。こう見えてハルト、人には気を使えるのよ」

「あっ、そ、そうなんだ!……あたし今、ちょっと衝撃を受けたなあ。……ティアお姉さん、これは切ないよね」

「……?何だよそれ。ディティアにだって同じようにしてると思うけど……?」

思わず反論したら、アーラは苦笑した。

「嘘だあ。……お兄さん、何が違ってるか、ちゃんと考えてみてよー!……あと、警戒のことは、その、ありがとう。じゃあ流砂の警戒をしてもらおうかな、あとは人工物が無いかを見てほしい」

どうでもいいけど、アーラはディティアをティアお姉さんと呼ぶことにしたようだ。

確かにファルーアもいるし、区別しようと思ったのかもしれない。


それにしても、考えてみてと言われてもなぁ……。


ディティアは、俺が強くなりたいと思うきっかけそのものだ。

小動物みたいだし、くるくる変わる表情も漸く当たり前のように見せてくれるようになった。


ただ、爆風のガイルディアの話をする時の彼女は、もっと……花が咲いたような笑顔を見せる。


そこは何となく……どうしてか腑に落ちない。

……たぶん、もっと笑ってほしいんだ。


「あー、つまり、もっと頑張れってことか」

思わず声に出したら、ボーザックが振り返って眉をひそめた。

「……がん……ばれ?な、何でそうなったのハルト……ちょ、ちょっと聞いてもいい?」

「ん?……いいけど。俺は……」

「待て。……それは、俺達だけに聞かせろ」

話し出そうとしたら、グランに止められた。


俺は別に聞かれてもいいけど……と思ったけど、とりあえず言うことを聞いた。

そして簡単に話し終えたんだけど……。


「……何だよ?」

言うと、肩を落としたふたりは難しい顔。

「んーーー、いいのか悪いのかよくわからないんだけど、グラン」

「こればっかりは……考えは間違っちゃいねぇし同意するんだが、頑張る方向性が怪しい」

「怪しいってなんだよ……俺は別に、ディティアがちゃんと笑ってくれるように頑張ろうってだけで!!」

思わず声を荒らげたら、グランとボーザックが頭を抱えた。


「……えっと」


聞こえた声に振り返ったら、ディティアが苦笑している。

思わず、息を詰めた。


「わ、私、そんなに笑えてなかったかなぁ……?」


******


「流砂は、こういう砂丘と砂丘の間、低くなったところに溜まってる事が多いんだ。……それは地下水が湧き出して溜まったからだとかって言われてる。……この辺では流砂が出来たことは無かったけど、何らかの影響で地下水が湧き出したとしたら、十分考えられる。規模が大きくなると河みたいになるんだ。で、流砂はもがけばもがいただけ沈んじゃうけど、例えば帽子とか、リュックなんかは沈まずに浮いてることが多いの」

アーラが説明してくれているのを聞きながら、俺は前を歩くディティアの小さな背中を見ていた。



『ちが、そうじゃないって。もっとたくさん笑えるようにって……』

『十分、笑わせてもらってると思うんだけど……』

『いや、笑ってくれてるけどそうじゃなくて。……何だ、質??』

『……ええ、し、質…??笑顔の質が良くないってこと……?』



結局上手く伝えられなかった時の会話を思い出す。

あれは、完璧に誤解された気がする。



『とりあえず歩きましょう、暑いわ』


空気が変な感じになったところでファルーアがそう言ってくれて、ディティアが慌ててそうだねと歩き出した。

アーラもちょっと変な顔をして、ぽんと俺の背を叩いてから先頭に出る。

グランとボーザックも、手を合わせて俺に『すまん』『ごめん』と言って、それぞれ定位置に戻った。


『……全くもう、世話がやけるわね。上手く伝える方法、考えておきなさいハルト』

『え、ファルーアには伝わってるのか?』

『まあね。爆風の時のティアは、嬉しそうに笑うもの。……それは皆、気付いてるし伝わってるわ』

『……!!うわ、ありがとなファルーア!!』



けれど、上手い言葉は見付からない。

結局、アーラが一緒に警戒してほしいことを話し始めてくれて、何となく場が繋がれた感じだ。



しかも、最悪なことに。


「ねぇ、あれ……」

眼のいいボーザックが、指差した方向。


俺達のいる砂丘とやらの天辺から、なだらかに下ったずっと先。

平らな砂の地面のように見えるところに、ぽつ、ぽつと。


人が装備していた物……に見える何かが、点在していた。



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