仕事は優先です。④
美味しくいただいたザナラオという魔物。
淡白ではあるけどそれがまた旨かった。
シンプルな味付けでも十分な満足感があって、うん、また食べたくなるくらい素晴らしい食材だ……。
見付けたらファルーアに頼んで固めてもらおう。
アーラが躊躇せずに魔物をかっ捌き、綺麗な切り身をいくつも用意してくれたんで、料理も楽々だったしな。
ちなみにアーラ、最初に話していた通り早い段階から砂漠で生きるために戦いを教わっていたんで、最低限戦えるんだよ!とザナラオ相手に棘の付いた鞭で雄々しく猛々しく戦っていた。
鞭はあまり見たことがなかったけど、中々どうして、身体にぶつけずによくもあんな動きが出来るもんだと思う。
そんなわけで、交替で見張りを置き夜を明かした俺達は、食事の後、アーラの提案で少し話をしてから出発することになった。
「まずは、ザナラオね」
「うん、美味しかったなぁ」
うっとりするボーザックに、アーラは「そこじゃないよお兄さん……」と呆れた声を出して笑ってから、すぐに軌道修正した。
「彼奴、流砂を拠点にして移動するんだ。だから、たぶんこの近くに流砂が出来てるってことなんだと思うの」
「……つまり、水汲みに行った奴等は流砂が原因で遅れてるってことか?」
聞くと、アーラは黒髪をフードにしまいながら、頷いた。
「その可能性が高くなったってところかな」
砂漠の太陽はまだ昇り始めたばかり。
寝た分、少しは体力も回復したみたいだ。
既にそこそこ暑いけど、もう少し暑くなったら体感調整のバフをかけようと思った。
今はまだ、アーラみたいにフードを被れば凌げそうだ。
砂の上に円になって座り、俺達は「仕事」を確認する。
「俺達は、先に出た4組のトレージャーハンターの安否確認とその遅れの原因を探るのが仕事ってことでいいな?」
グランが言うと、アーラは頷いてから付け足した。
「そうなるね。あたしは、皆をオアシスまで無事に連れて行くのが仕事だから、危険だと判断した場合は付き合ってもらうけど」
「でもアーラ、それだと私達の仕事が進まない場合が出てくるんじゃないかな?」
ディティアも暑くなったのか、フードを被る。
そのフードを持つ手首に、彼女の眼と同じエメラルドグリーンに光る宝石が填まった細いブレスレット。
思わず眼が行って、俺は口元を緩めた。
うん、やっぱり似合ってるな。
「そうだね。昨日も言ったけど、4組の誰かを見付けたとして、そこが危険な場合……例えば流砂とか、魔物に囲まれてるとか、そういう時の判断はあたしに預けてほしいの」
アーラは真面目に答えて、グランを見た。
けれど、グランは頷かない。
ゆっくりと顎髭を擦りながら、落ち着いた声で返した。
「……そりゃ難しい相談だ、アーラ。どうしようもない場合があったとしても、だ。……それをお前ひとりで考える必要がどこにある。その時は一緒に考えてやるから、ひとりで背負うことはねぇぞ」
うん。
本当にそうだ。
俺達白薔薇だって、色んな事を皆で考えてやってきた。
だから、こういう時一緒に考えてくれる人がいるありがたさを、俺は知っている。
「そうね。悪い癖だとは言われたこと無いのかしら?アーラ」
ファルーアにも言われて、アーラは眼をぱちぱち。
やがて、お腹を抱えて笑い出してしまった。
「あはっ、あははっ、やだお姉さん達!本当に優しすぎる!あはははっ」
「あれー?照れながら良いこと言ったのにねぇグラン……いたっ!!冗談!冗談だってば!グラン!!」
ボーザックがにやにやすると、グランがその肩へと拳を繰り出した。
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とりあえず、話は纏まったんで、移動を開始することにした。
目指すはオアシスだ。
……先に出た4組が無事に辿り着けていることを願って。




