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逆鱗のハルト  作者:
逆鱗のハルトⅡ

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257/847

砂の海は初めてです。①

その夜。

グランだけが船長室に呼ばれた。


「俺だけってのはどういうことだ?」

グランが呼びに来たカタールに眉をひそめると、ボーザックが後ろで笑う。

「あれだよグラン!船上の冒険!!」

「あー、ご愁傷様だなー」

船長室に缶詰にされて、ひたすら同じ話をさせられたことを思い出す。

笑ってやったら、グランは益々表情を歪め、髭を擦りながら唸った。

「断ることは出来ねぇのか……?」

「いやいやいや!困るっす!まさかこのタイミングで船上の冒険は無いっすよ!!」

カタールがでかい身体を縮めながら慌てる様は、それなりに面白い。

グランは皆を振り返り、しぶしぶ頷いて立ち上がった。

「……流石に仕方ねぇよなあ」


俺達は、部屋を出て行くグランを見送るのだった。


******


「来たぞー船長ー」

「おう、入ってくれ」

船長室のドアをノックすると、落ち着いた声が返ってきた。

グランは躊躇いなくドアを開け、中に入る。

船長は足を組み、にやりと笑みをこぼしながら、堂々と座っていた。

「何だ、嵐でも来るんじゃねえだろうな?」

思わず聞くと、彼はその不敵な笑みのまま目の前のグラスに酒を注ぐ。

黄金色の液体からは、小さな泡が出ていた。

「まあ座れ」

そのままグラスを片方差し出され、グランは正面にどかりと腰を下ろした。


「で、用件は」

「なあに、白薔薇のリーダーとジャンバックのリーダー、交友を深めるのもいいかと思ってな」

「……あんた、まさかとは思うが、その話し方が嵐限定ってのは嘘か?」

呆れたように問うと、それを聞いた船長は答えずにグラスを掲げる。

グランはそれに自分のグラスを軽く合わせて、心地良い音を堪能してから中身を飲み下した。


「っは……うめぇな!」


キリッとした飲み口、咽を過ぎる時の爽快感。

甘味よりは爽やかさが際立って、グランが好む味である。


「そうだろう?取って置きだからな。……俺はな、豪傑のグラン。船員達が自ら率先して働いてくれることに感謝しているが、船乗りたる者はそうでなくちゃならないと思ってる。……だから普段はヘラヘラしてりゃいいのさ。……流石に嵐ともなれば別だけどな」

グランの空いたグラスに酒を注ぎ足して、船長は自分も酒を飲み干した。

「本当に食えねぇ奴だなあ」

グランは感心半分、呆れ半分で杯を干す。

船長は尚も不敵なままで、成る程、貫禄も感じられた。

これは完全に騙されていたな、と、グランは小さくため息をつく。

「食えないのはそっちもだろう豪傑のグラン。大人しそうにしているが、あれは相当だ」

「……疾風のディティアか」

「正直度肝を抜かれたぞ。……あれは人の上に立つ器じゃないのか?」

「その通りだ。あいつは俺達よりもずっと強く気高いだろうよ。何があっても、指揮を執らせるのに何の心配もねぇな」

船長は眼を閉じてゆっくりと酒を堪能して、肩を竦めた。

「カタールにもその辺が備わってれば問題ないんだがなぁ」

「はっ、よく言うぜ」

そう言うと、船長は初めて不敵な笑みを崩し、心底面白いとでも言うようにくっくと笑った。

「さて……豪傑のグラン。次の街は砂漠になる。アイシャには砂漠は無いんだろう?」

「……砂漠か。アイシャにはねぇな……そうか、次は砂の海か」

「そう。簡単な装備は用意してあるから持っていけ。それと、情報がある」

「そりゃ装備はありがてぇが……いいのか?貰っても」

「なぁに、うちのアルタナが世話になったからな。当然だろう?」

「婆さんか……大丈夫なのか?」

「ははっ、大丈夫だ。むしろ、漸くほっとしたんじゃないか。……俺の親父も、アルタナも、タルタロッサ船長には世話になっていたからな」

「そうか」

グランは、船長と少しの間無言で飲み交わす。


全く面識の無い人物ではあったが、タルタロッサ船長に思いを馳せた。

恐らくは、尊敬するに値するでかい男だったんだろう。


「っと、情報もだったな」

そこで、船長が先に言葉を紡ぐ。

空いた杯に酒を注いでやると、船長は笑って言った。

「ライバッハの双子から聞いているぞ。爆風のガイルディアを探しているんだろう?」

「あ?……あー……探してるっつーか……まあ探してるな。とりあえず先に聞くが、ユーグルのロディウルに心当たりはあるか?」

グランは黒地で濃い緑色の鳥のような模様がある革の栞を懐から出して、机に置く。

「これをわざわざアイシャまで届けに来た奴なんだが」

「……ユーグルか。遠く北東の地に住まう民族だったかな。アイシャで言うところの魔物使いだろう?」

「……北東……って、真逆じゃねえか……」

「そうだな、これからどんどん南西に行くからな」

グランは髭を擦りながら一瞬考えて、すぐに膝を叩いた。

「まあ仕方ねぇな。……で?爆風の情報は何だ?」

「……ん?何だ、いいのか?調べてやることも出来るぞ」

言われたものの、グランは首を振る。


内容は血結晶と災厄の魔物達に関わることだ。

トールシャ……しいてはトレージャーハンター協会でどの程度の情報があるのかわからない今、深入りさせることはしたくない。


「もし会うことがあったら、迎えにでも来たら考えてやるって言っといてくれ」

船長は不思議そうに眼をぱちぱちして、笑った。

「わかった。約束しよう。……じゃあこちらの情報だな。爆風のガイルディアは砂漠を抜けた先に進んでいったぞ。……冒険者は面白い、2つ名とやらも中々見合ってるしな!」

グランは笑って、言ってやった。


「見合ってねぇと困る。何たって俺達はもっと有名になるんだからな」


……目指すは、砂漠の街。


そこから約20日を経て、奇蹟の船ジャンバックは、砂の街へと寄港するのだった。


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