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逆鱗のハルト  作者:
逆鱗のハルトⅡ

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252/847

幽霊船は震えます。⑧


ハルト。

ハルト……。


「う、ぅ……ん」

頭を振る。

呼ばれている。


埃臭くて暗い。

じめじめした空気が肌に纏わり付く。


「ハルト!」

「……あ……あれ、ボーザックか?」

「ああよかった!ねえ、ちょっとやばい!手伝って早く!!」

俺は目の前で俺の肩を掴みぐらぐらと揺するボーザックに、困惑した。

あれ?俺、何してたんだっけ?

「ちょ、ちょっと、何だよ?」

「やばい!何か震えてるんだってこの船!!」

「船……?……幽霊船!!」

「おわあっ!?」

急に俺が立ち上がろうとしたせいで、ボーザックがひっくり返った。

そうだ、ここは船長室。

いつの間にか暗くなっていて、静まり返っていた。

俺は双剣を取り落としていたことに気付き、慌てて拾い上げる。


……しかし。

さっと部屋を見渡すと、肉塊だったのであろう物が、しおしおになって転がっていた。


「……え、あれ?」

さらに全体を見渡すと、皆がどこか遠くを見詰めて座り込んでいる。

その様子に、さあっと背中が冷えた。


そう、そうだ。

肉塊に開いたたくさんの眼。


「まさか……混乱を使ってきたのか?……っと!?」

ずおおおお。

変な音が響く。

同時に、船が不自然に震えた。


ボーザックがグランに駆け寄りながら、焦った声をあげる。


「こ、こいつ倒したら急に震えだしたんだよ!やばいよね!?ハルト!早く皆を起こそう!」

「あ……そうか、お前、精神安定……」

漸く合点がいった。

「とにかく!早く!!ここから出よう!」

「そ、そうだな!精神安定!!」


あくまで俺のバフは予防がメインのバフであって、ヒーラーみたいに一瞬で治すことは出来ない。

けれど、混乱しているのが少しでも落ち着けば、早く意識を取り戻すかもしれなかった。


広げたバフがボーザック以外を包んだところで、俺はディティアに駆け寄りながらボーザックにも上書きで精神安定のバフを投げた。


「ディティア、ディティア!」

「……う、ん」

「聞こえるか?」

「…………あれ……」

「大丈夫か?俺のことわかる?」

ディティアは、ゆっくりと瞬きをした。

しっかり眼を見ようと、彼女の顔を覗き込む。

潤んだ眼に俺が映っているのがわかる距離。

虚ろな眼が、ぼんやりと俺の眼と視線を合わせた。

「……はる、と、君……?」

「うん」

頷いて見せると、ディティアのぼんやりした表情が驚いた顔になり、みるみる眼を見開いて紅くなった。

暗いけど、それがわかるくらいには真っ赤だ。

「えっ、ハルト君!?あれっ、何っ??」

ぺたんと後ろに崩れた彼女に、ほっとする。

「良かった……!」

思わず微笑むと、ディティアは口元を覆ってしまった。

「えっ、ええっと……うわぁ……」

そこに、後ろでグランがボーザックに返事をしたのが聞こえる。

俺は思わずディティアに「何だよ?」ともう今一度笑って、とりあえず状況を伝えた。

「ここは幽霊船なのはわかるな、肉塊の魔法でボーザック以外混乱したみたいだ。肉塊は倒したけど、船の様子がおかしいからすぐ出よう」

「事情はわかりました!でもハルト君近すぎです……!」

「うん?」

ぷくーと膨れる彼女に聞き返すと、ディティアはスルーしてさっと立ち上がった。

「ファルーアは任せて!」

「あ、あぁ……うん」


……な、何だろう?怒られたような気がするんだけど。


俺は首を傾げたものの、また船が震えだしたので慌ててカタールの所へ急いだ。


「おい!早く起きろ!」

「カタール……俺達のこと、わかる?」

既にグランがカタールを引っ掴む勢いで、ボーザックが横から遠慮がちにカタールを呼ぶ。

「うう、何っすか……煩いっす……」

「うるせぇ!いいから立て!」

「えっ、……ええっ?突然なんすか??」

……それはちょっと可哀想だぞグラン……。

そう思ったけど、俺もボーザックも心の中だけに留めおく。


「こっちはもう行けるよ!」

「面倒かけたわね」

魔法から遠かった場所にいたからか、ファルーアは既に意識をはっきりさせたみたいだ。

俺達は頷いて、カタールを急かした。


「船尾に行く!嫌な予感しかしねぇ、そっから飛び降りるぞ」

「あ、アイサー!」


「速度アップ!魔力感知!肉体硬化!!」

バフを飛ばして、俺達がすぐさま船長室から駆け出した……まさにその時。

俺は足元の本を蹴飛ばしてしまい、蹌踉けた。

自分が本棚に叩きつけられて本が散らばったのを思い出す。


そういえば、航海日誌を調べてない……くそ、仕方ないか。

俺は重たいのを承知で適当に2冊拾い上げ、再び駆ける。


「ハルト!早くしろ!」

「おう!」

選んでいる暇なんて無かったし、これが何の本かはわかんないけどな。


******


ずおおおお。

「うわ!?」


足元から振動が這い上がってくる。

狭い廊下を抜け、階段を上がって、転げるようにして俺達は進んだ。

所々朽ちた床でも、怯えてる暇は無い。


ギッ、ギシッ!

メリッ……!


抜けてくれるなよ……!

祈るように、けどスピードは緩めないで走る。


「レイスっす!」

先導するカタールの声。

魔力感知のお陰で、廊下の先に揺らめく影が見えた。

「突っ切れ!ハルト!浄化寄越せ!」

「浄化!!」

怒鳴るグランに間髪入れずバフを。

通常よりも高速な獲物に、レイスもたじろいだのかもしれない。


カタールが。

ディティアとボーザックが。

ファルーアが。

俺があっという間に通り越して……。


「おらああぁ!どけぇぇ!!」

ドゴアァッ!!


グランの盾が……と思ったら、グランは生身の拳でレイスを吹っ飛ばしていた。

真っ白いつるりとした大盾は背負ったままだ。

グラン、盾無くても戦えるからな……。


「この先が船尾っす!!」

俺達は船内から飛び出すようにして外に出る。


「うぇえ!?何これ!!」

ボーザックの叫び。


俺達は、ぶるぶると揺れる、白くて丸いのっぺりした奴等を眼にした。

魔力海月が、『びっしりと』蠢いていたのである。

密集しているせいか、濃い魔力溜まりみたいに感じて気付かなかったのか……。


ずおおおお。


不穏な音は続き、船と一緒に魔力海月がぶるぶると震え……いや、もしかしたらこいつらの震えが、船に伝わってるのか……?


「ねぇ、これ、燃やしていいかしら?いっそ船ごと……?」

ファルーアが嫌な顔をして物凄く恐ろしいことを言う。


その時だった。


〈ピイィイィ―――!!〉

鳥の声のような音が、船の後方から鳴り響く。


〈くおおおぉーーーん!!〉

そして、俺達の右手の方からは、呼応した鳴き声のような音。


「これ、海龍の鳴き声……?」

ディティアが呟く。

確かに、最初にジャンバックに乗った時、この声を聞いていた。

……つまり、右手の方にジャンバックがいるのだ。


カタールが、その鳴き声を聞いて鈍器を構えた。



「言ったっす!船長は切り札なんすよ!!」



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