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逆鱗のハルト  作者:
逆鱗のハルトⅡ

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250/847

幽霊船は震えます。⑥

オオオオォォン……


不気味な音が船を震わせる。

俺達は狭い廊下を駆け抜けて、食堂らしき部屋へと飛び込んだ。カビの臭いが鼻を突く。


瞬間、俺は手の上のバフを広げた。


「肉体硬化、浄化!」

魔力感知をひとつ残して、前の3人のバフを書き足す。

食堂に入ってすぐ、目の前に魔力の塊があるのはわかっていたからだ。

そして、予想通り、揺れるレイスがいる。


すぐさまディティアとボーザックが飛び出した。

「はぁぁっ!」

「やあぁぁぁっ!!」


ガインッ、ガイィンッ!


「っと……やるね」

弾かれたボーザックがこっちに飛び退いて、再び剣を構える。

ぼんやりと銀に光る3人に前を任せ、同じように魔力感知をひとつ残してグランには肉体強化と浄化を。

ファルーアには威力アップと浄化をかける。


「右にもいるっすよ!」

カタールの言うとおり、魔力の塊が膨れ上がり『木箱の中から』レイスがゆらゆらと浮き上がった。

「奥にもいる!」

ボーザックの声に視線を走らせると、同じように蓋がずり落ちて、木箱からレイスが出てくるところだ。


黒ずんだ木箱は三つ。

目の前のレイスは、右、奥のレイスと同じように木箱に入っていたんだろうと推測出来る。


……甲板にあった箱からも、黒っぽい布がはみ出ていた。

あれって、レイスのローブだったんじゃ……?


「――はあぁっ!」

気合一閃。

ディティアが目の前のレイスに攻撃を仕掛けた。


俺は首を振って、意識を引き戻す。


右の奴にはカタールが対応し、奥の奴はまだ距離があるところにファルーアの魔法が炸裂した。

「燃えなさい!」


ズオォン!!


「うわっ」

熱風が広がって、思わず右手で一瞬顔を隠す。

「あら……悪いわねハルト。ちょっと強すぎたわ」

しれっとファルーアが言う。

「加減出来るって言ったろ!」

思わず言って、双剣を構える。

「ちょっと強すぎただけじゃない。次は平気よ、燃えなさい!」

奥の奴に再度魔法が弾けると、それを見計らってディティアが言った。

「奥、行きます!」

「おっけー!任せたティア!」

ディティアと一緒に戦っていたボーザックが、目の前の1体の攻撃を受けて鬩ぎ合う。

ディティアはその隙に、髪を揺らして奥へと駆け出した。


「いくっす!!」

カタールが鈍器を真横に振り払い、右に居たレイスの頭に炸裂。


ブォンッ!!


重たい音がして、レイスが吹っ飛ばされた。

「燃えなさい!」

その先で、ファルーアの魔法が炸裂する。


「やあぁっ!」

ガインッ


ボーザックが斬り掛かり、レイスが鎌で受け止める。

揺らめくローブからミイラのような腕が覗き、眼は紅く爛々と光った。

「ハルト!」

「任せろ!!速度アップ!浄化!!」

俺はボーザックの声に飛び出して、レイスの横に滑り込み下から斬り上げる。

しかしレイスはボーザックの大剣を弾き上げると、ぐるりと弧を描いて距離を取った。

錆びた鎌が月明かりに赤黒く浮かび上がる。



「……こいつ、なんか強い」

ボーザックが唸る。

確かに、他の2体よりも魔力感知で見える魔力が大きいと思った。

きっと、そのせいでより強力なレイスになっているんだろう。


……そうすると、魔力が膨れあがったら、他のレイスもどんどん強くなるってことか?

この魔力、どこから流れてきてるか調べないと……。


その間に、燃え上がった右の奴をカタールが叩き伏せ、奥の奴をディティアが斬り飛ばして、塵にしていた。


……とにかく、今は目の前の奴を倒さないと。


「俺が押さえる」

ここで、グランが前に出る。

鎌を振り上げるレイスに、猛然と大盾を掲げ、グランは雄叫びを上げた。

「うおぉぉっ、らぁっ!」


ガキイイィンッ


激しくぶつかった盾と鎌。

食堂に音が反響する。

その音に自分の足音を隠し、弾かれたレイスの後ろから、疾風のディティアが飛び掛かった。

「はっ!」

ザシュッッ!!



オオオオォォ……!!!



レイスが、震えた。

グランが鎌を弾いて下がる。


「ハルト君!!」

「浄化、浄化!」

ディティアの声と同時に、俺はボーザックのバフを浄化の3重に書き換えていた。

斬られて揺らめいたレイスに、小柄な大剣使いが真っ白な剣を振り上げている。


――とった!!


「トドメだぁぁッ!!」

ダァンッ……!!!


叩き切られたレイスは、紅い眼をちらちらと瞬かせ、塵となった。


******


「まずいわね。魔力の元を絶たないと」

ファルーアも俺と同じ結論だったみたいで、俺達はすぐ移動を再開。


途中で2度襲われたけど、カタールの機転もあって上手く移動し、他のレイスらしき魔力の塊を殆どスルーすることが出来た。

もしかしたら船長室が魔力供給の大元かもしれないと、途中でカタールが教えてくれる。

違うのであれば、いっそスルーして船長室の航海日誌だけ確保してもいいと、彼は断言した。


それ程あちこちの魔力の塊は大きくなっている。

けれど。

「この、魔力感知バフってすごいっす」 

カタールに言われて、思わず笑ってしまった。

「おお……そうだろ!?」

「お前ら、余裕あるのはいいが……気ぃ抜くんじゃねえぞ」

グランには怒られたけどな。


そうして、どうやら魔力供給の元になっている場所に辿り着く。

「……残念ながら的中っす……ここ、船長室っす」

重厚そうな扉の向こう、大きな魔力が蠢いて、船内に魔力を流している。

「残念?……一石二鳥だろ」

言いながら、俺は双剣を握りしめた。

「この塊やっつけて、航海日誌も取って戻れば、十分だよな?」

「はい。……幽霊船を討伐したと言えるかは不明っすけど」


……俺達の故郷、ラナンクロストで古代遺跡を調べた時。

レイスの上位種であるリッチに出会ったのを思い出す。


ザラスと名乗ったそのリッチは、俺達に魔力結晶と呼ばれる紅い石の造り方を教えた。

それは、元々人間であるレイス達の血で造り上げた、血の結晶だったのである。



……扉の向こうに感じる魔力の塊に、嫌な予感がした。



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