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逆鱗のハルト  作者:
逆鱗のハルトⅡ

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248/847

幽霊船は震えます。④

岩の上まで登り切ると、ジャンバックが見えた。

見渡す限りはぐるりと船の残骸があり、ジャンバックから見た景色とそう変わらない。


「目撃情報はこの近辺で多いぞ。時間帯は夕暮れから夜にかけてだ!!」

船長がそう言って、俺達を振り返った。

「白薔薇、もし俺達で手に負えない場合はすぐ撤退だ!!いいな!」

「お、おう……そりゃありがてぇが……試練とやらには響かねぇのか?」

グランが驚いた顔をするのを、カタールが笑う。

「大丈夫っすよ、まず第一に仲間の命っす。……船長、どうするっすか?ここで待つっすか?」

船長はゆっくりと辺りを見回して、頷いた。

「よし、そうしよう。念の為船の荷物を確認だ!」 


******


荷物の中には鈎付きのロープや縄梯子があった。

これは、必要なら船に乗り移るために使うらしい。


「けど、こんなに何も感じないってことはさー、昼間は海の底にでも沈んでるのかな?」

ボーザックが言うので、座ってバフを練っていた俺は顔を上げた。

「それか、普段は航海でもしてるんじゃないか?」

「成る程な。ここに寄港……っつうのかはわからねぇが、その時に遭遇した可能性もある」

大盾を磨いていたグランが同意してくれる。 

「……あとは、船を動かしている存在が何かですね」

見張中のディティアが外を見渡しながら振り向かずに言うと、ファルーアがため息をこぼした。

「ろくなもんじゃないわよ、きっと」

……そうだよな。


浮かぶのはやっぱりレイスとかそういう類の魔物。

そうすると役に立つのは浄化のバフである。


俺は手の上のバフを1度消して、浄化のバフを練り直すことにした。


…………

……


夕闇が、ゆっくりとその気配を増す。

太陽が水平線に沈み、その余韻を消そうとしている今、ただでさえ気配の無かった船の墓場には不気味さが漂う。


俺達は火を起こさずに、これから訪れる闇に眼を慣れさせていくことにしていた。


しかし。


「……魔力の流れが変わってきたわ」

見張りについていたファルーアが呟いた。


「ハルト、魔力感知だ」

「わかった。魔力感知!五感アップ!」

見張り以外のバフは消していたから、グランの指示で俺は全員にバフをかけ直す。

念の為五感アップも追加しておく。


すると……成る程、海面の辺りでゆらゆらと流れるぼんやりとした光が見えた。


「潮の流れが変わったんだろうな!……いいぞ、面白い!!」

「良くはないっす……」

船長に肩を落とすカタール。


俺達は誰からともなく武器を抜いて、警戒を始めた。


ざぶ……。


波の音。


ざぶ……ざぶ…。


緊張が高まっていく。

薄紅色だった夕焼けが、既に蒼く塗りつぶされていた。


「……来る」


呟いたのは、ディティアだったか。

ボーザックだったか。


その瞬間が、やってきた。


ざぶ……ギィ……


ギィ、ギ……ざぶ……


増した聴力は、波の音に混ざる木が擦れるような音をはっきり捉える。


向こうから、何か来る。


「……霞がかかってるみたい……よく見えない」

眼をこらすボーザック。

「さっきまでは無かったのに」

ディティアも唸る。


そして……思いの外近距離になった時、俺達はその『船』に気が付いた。


「うわ……」

思わず声が出る。


ジャンバックまではいかないにせよ、かなり大きな船だ。

しかし、所々朽ちて貝のようなものがこびり付き、帆はちぎれて風に揺れ、マストも折れている。


そして、果てには。


「……こりゃ、この世のもんじゃねぇな……」

船の側面に。


「何だよ、これ」

魔力海月がびっしりと張り付いていたのだった。


「こっちに来るっす、恐らく横を通るはずっすよ」

「よし、乗るぞ!」

船長は迷わず乗ることを決める。

……確かに、気配のようなものは薄い。

ただし、魔力海月も居るせいか、かなりの魔力濃度があるように見える。

そりゃあもう、船自体がぼやーっと光ってるような感じだ。

「ファルーア、ああいう環境で魔法使うのは危険?」

「平気よ、加減するわ」

「ならよかった」

頼もしいファルーアの返事に、俺は頷く。


「あの高さなら飛び降りればいけるな!」

「床が腐って落ちたらどうすんだよ……ハルト、肉体硬化頼むぞ」

笑う船長に、グランがぼやく。

俺は五感アップを消して、魔力感知と肉体硬化2重で、合計3重にする。


これなら、多少落下してもそこまで酷くはならないはずだ。


「よし、いいぞ……もうすぐだ!甲板に乗る!準備しろ!」

「アイサー」

笛吹のカタールが応えて、船長の横に並んだ。

俺達白薔薇も岩の前の方へ向かう。


距離が離れてるようなら脚力アップを重ねて、落下の瞬間に肉体硬化に書き換えるつもりだ。


ギギイ、ギ――。


「来るぞ!……3、2、1……跳べ!!」

船長の合図に、俺達は跳んだ。


跳んだけど……。


「いいか!危なかったら海に飛べ!回収してやるからなー!!」

「ちょっ、ええっ、せ、船長おぉぉ!?」

思わず叫ぶ。


岩に残って堂々としている船長の姿と声が、一気に遠ざかる。

いやいや!なんであんた跳んでないんだよ!


「ハルト君!!とにかく着地!」

「おっ……おう!」

ディティアの声に、俺は足を意識する。


迫る甲板、そして。


ダ、ダンッ!!


衝撃を、膝と、転がることでいなす。


……俺達は、幽霊船に降り立った。

船長と2人の船員を、岩場に残して。



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