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逆鱗のハルト  作者:
逆鱗のハルトⅡ

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247/847

幽霊船は震えます。③

たたんっ。


「ふうー。お疲れ様でした!」

船に戻ってきたディティアに、俺もボーザックもちょっと凹んだ。

汚れ1つ無く、彼女はまさに疾風の如く駆け抜けて悠々と戻ってきたわけで。


俺達の意気込みは一体……。


「まあ、疾風だしな……」

グランがオールを持ったまま、憐れそうに言う。


「すごいんすねお嬢さん……そりゃあ飛龍も倒せるっすよ」

カタールが驚きの声を上げると、ディティアはぶんぶんと首を振る。

「違いますカタールさん!倒したのはハルト君ですよ!」

……わぁおそうきますか。

「ねっ?」

にこーっと笑顔を向けるディティア。

うん、可愛い笑顔だなぁ……。

苦笑したら、その向こうにいたファルーアと眼が合う。

……グランと同じく憐れそうな顔をされた。

「そうなんすか!逆鱗のハルトさん、ジャンバックではボコボコにされてたっすけど、やる時はやるっすね!」

さらに、笛吹のカタールが追い打ちをかけてくる。

「……うぐ、そ、それはさぁ……」

俺は肩を落とすしかない。


俺の方が強いからな!

とか言えたら格好良いのになぁ。

まだまだ、ちっとも届かない。


そんな、何とも言えない空気をぶった切ってくれたのは船長だ。

「ははは!いい冒険だ!!よし、じゃあ続きといこう!行くぞ!!」

『アイサー』


そこに、ファルーアの声がする。

「ティア……ちょっとハルトに似てきたんじゃないかしら?」

「えぇっ?……そ、そんなはずないよ!ファルーア!」


「……どんまい、ハルト……」

何故かボーザックがポンと肩を叩いてきて、慰められるのだった。


******


ちなみに、魔力海月が何故船の周りに浮き上がってくるのか、まだわからないのだと言う。

ごく稀に遭遇する現象らしいけど、そもそもジャンバックには海龍がいるから寄ってこないそうだ。


多少なりとも魔力を持っている人間に反応して、集まってくるのかもしれないな。


青黒い霧は魔力をたっぷり含んだ魔力海月の体液だそうで、まともに浴びるとちょっと臭いらしい。

……かぶらなくてよかった。



とにかく、朽ちた船の合間をゆっくりと進んでいくと、一際大きな岩に辿り着く。

「ここら辺が岩礁の中央っす」


ギィ……。


カタールが言って、岩に船を着けてくれた。


「よし上陸するぞ、上まで登れば広範囲を見渡せるはずだ!!」

船長に言われ、俺達は岩に降り立つ。

漕ぎ手の船員ふたりは、念のため船に残ってもらった。


ゴツゴツの岩肌は海水に濡れている。

うっすらと藻のようなものが生えていて、磯の香りが強い。

見上げると、出っ張りが上手いこと道のようになっていて、岩の上まで登れそうだ。


「五感アップ!魔力感知!」

消したバフをかけ直し、魔力感知を上書きして、俺は皆を見回す。

「臭いはきつくないか?酷いようなら五感アップは消すけど」

聞くと、全員、大丈夫だとしっかり頷いてくれる。


俺達は岩に登り始めた。


「滑りそうね」

「そういやお前ヒールだもんなぁ。……いっつも思うがそれ冒険に不向きだろうよ」

「あら、そこまで細いヒールじゃないから意外と安定してるのよ?一緒に走ってきたでしょう?」

グランとファルーアが話しているのが聞こえる。


でもヒールは痛いからなぁ……。


そんなことを考えていたら、前のディティアが振り返った。

「そういえばハルト君」


揺れる濃茶の髪は出会った頃より少し長くなって、切りたいって言っていたのを思い出した。

男はザクザクと切ってれば大体何とかなるけど、やっぱり女性陣はそうもいかないだろうしな。

街に着いたらグランに時間取ってあげるように言っておこう。


「うん?どうした?」

色々考えてから聞き返すと、ディティアは笑った。

エメラルドグリーンの眼がきらきらしている。


……いい顔、するようになったよな。

ちょっと考えて、思わず微笑んだ。


しかし。


「デバフはどうなってるの?」

「うっ」

「あれ?どうかした?」

「あー、いや、ちょっとこう、無防備な所を狙い撃たれたっていうか」

「う、うん??」

……まあ、そりゃあさ。

デバフなんていうすごいバフを、カナタさんが本にしてくれたんだ~なんて言って、皆に力説してしまった以上、気に掛かるだろうと思う。


思うんだけど。


「それがさ、上手くいってないんだよな」

俺は正直に答えた。


まずは今のバフの精度を高めるよう、カナタさんのアドバイスもあることを話すと、ディティアはうーん、と唸る。


「ハルト君って、その、バフを使うときってどんな感じなのかな?」

「え?」

「五感よ上がれ~~っとか……硬くなれー-!!とか……」

「ぶっ、ははっ、何だよそれ?」

思わず噴き出したら、ディティアは真っ赤になった。

「えっ、そ、そんな笑わなくてもいいよね?ちょっと、例えだってば!」

「いや、可愛いなあと思って!ははっ、その発想は無かった!」

「うっ、ハルト君!!だからねっ、何度もねっ、言ってるでしょう!?か、可愛いとかはそんな簡単に……」

「あははっ、はー、うんうん、わかったわかった。あー可愛い!」

「~っもー!」

ディティアが顔を覆ってしまうと、その前にいたボーザックがため息をついた。

「ハルト…」

……うん?何かおかしかったか?

ディティアの念じるような発想は面白いと思ったけど。


実際、バフは感覚的に練ってる様なものだ。

だからきっと間違いじゃないんだけど、そんな念じるようなものじゃない。

もっとこう、バフを練るときの感覚を掴むことが出来たらいいんだよな……。

上手く言葉には出来ないんだけど、今のディティアの言葉で少しわかった気がした。


「…………よし、ありがとなディティア」

お礼を言ったら、顔を覆っていたディティアがちらっと目元を出して、眉をひそめる。

「何となくわかったような気がするから、もうちょっと頑張ってみるよ」

「!、う、うんっ」


岩を登りながら、俺は早速バフを練ってみることにした。



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