幽霊船は震えます。①
「はははっ、そうだな!じゃあ俺が話そう!!」
船長は上機嫌で俺達の部屋に入ってくると、どかりと床に胡座をかいた。
めちゃくちゃテンションが高い。
「いや、眠っている奴がいるからちと静かにしてくれねぇか?」
グランが慌てて窘めると、フェンがもそりと起き上がる。
「……いいわ、グラン。さっきのでもう起きたから」
毛布の中から声がして、けれどファルーアはばつが悪いのか出てこない。
隣でうとうとしていたディティアも、両手を上げて伸びをしてから目元を擦る。
それを見た船長は、さらに笑った。
「雷が苦手なんだよな、光炎のファルーア!悪かった!!」
っていうか、あれ?
船長の格好良い雰囲気どこいった……?
くっくと笑っている船長をまじまじ眺めていたら、笛吹のカタールが察してくれたようだ。
「あぁ……言いたいことはわかるっす。あの船長は、嵐限定っす」
「えっ?」
「嵐の時、船長はマジで頼りになるっすよ、舵取りも完璧っす」
「……あの格好良い船長、限定品なの……?」
何だかなぁ……勿体ない。
俺達は顔を見合わせて、肩を竦めた。
ちなみにボーザックは起きなかったから、放置である。
胡座をかいたままの船長を囲んで、俺達は幽霊船退治の詳細を聞くことにした。
******
船の墓場。
そこは、ライバッハからかなり南にある岩礁のことだった。
浅瀬が広く続いていて、一部の岩が海面に顔を出しているようなところらしい。
そこら辺の海流はかなり乱れていて、予期せず流された船が座礁することから船の墓場と呼ばれるようになったんだとか。
ただ、ここには船の残骸の他に、座礁した船が積んでいたお宝がたくさんあるらしく、トレージャーハンターが訪れることが多々あったそうな。
何で過去形かって、今は滅多にそれが無いからだ。
今回の討伐対象……幽霊船が出るのである。
幽霊船を見た者は口を揃えて「この世のものではない」と言ったらしく、今回ジャンバックには調査の仕事が課せられていた訳だけど……そこに俺達を乗せる依頼が協会から追加されることになったんだってさ。
「なっ?渡りに船だろ!!」
船長はひたすら嬉しそうだ。
「いやいやあんたにとってはそうかもしれねぇが」
呆れ顔で髭を擦るグラン。
船長の横で窮屈そうに座っている笛吹のカタールが苦笑する。
「ちょっと驚いたけど納得したっすよ、白薔薇が裏ハンターになろうとしてること」
「あれ……カタールさんは裏ハンターなんですか?」
ディティアが聞くと、船長が答えた。
「そうだ!俺とカタールは、冒険が好きだからな!!」
「答えになってないって、船長」
俺が言うと、船長はくっくと笑う。
「逆鱗のハルト!一緒に冒険出来るのは楽しみだ!!」
……聞いてないのかよ。
******
そんなこんなで、夜中には笛吹のカタールが甲板で笛を吹き、残りは順調な船旅となった。
俺はまたバフの精度を高めるのと模擬戦を日々交互で行って、他の皆もそれぞれ筋トレしたりして過ごす。
海龍のお陰で海流に乱されることもなく、船の墓場まで辿り着いたのは一週間後だ。
ギャグじゃないぞ、至って真面目!
見えてきたのは白波が立つ海にボコボコと黒い岩が突き出ていて、大量の朽ちた船が集まった場所……。
まだ日は高かったんだけど、その異様さにはちょっと身震いしたほどだった。
俺達は甲板に出て、潮風を浴びながら文字通りの船の墓場を前にする。
「何あれ……」
ボーザックは眉をひそめ、ディティアが手で庇を作りぐるっと眺める。
「……とりあえず。五感アップ、魔力感知!」
俺は早速バフを広げた。
何かいるかどうか探るために五感アップ。
幽霊船と言うくらいだから、そのイメージはレイスとかそういう類だったんで魔力感知も足しておく。
「うーん、今のところ何も感じない……か?」
俺が呟くと、ファルーアが風に靡く髪を押さえながら言った。
「そうね。魔力も別段流れたり集まったりしてないわ」
足元には相変わらず巨大な気配があるけどな。
味方だとわかっていれば何ら心配は無い。
「とりあえずジャンバックはここまでだ!後は手漕ぎの船で調査に出るぞ!」
『アイサー』
船長の指示で船員達が慌ただしく動き出す。
それを眺めていて、俺はふと思い出した。
「なあ船長、そういえば病気はもう大丈夫なのか?」
確か、アイシャへの航海では療養していたはずだ。
しかし、である。
船長はやっぱり斜め上だった。
「おお?そうか、白薔薇はその時に来たんだったな!!うん、全く問題ない!興味本位で毒を呑んでみたんだが、ちょっと危なかったんだ!!」
「それ……洒落になんねぇぞ……」
グランが肩を落とすと、ディティアがにっこりした。
「船長、調査中はやめてくださいね!航海が遅れたりしたら私怒りますから!」
あっ。
俺は首筋が冷やっとした気がして首を竦めた。
そうだった、爆風のガイルディアも探さないとだもんな。
ちらっと見たら、うわあ。
ファルーアでさえ、両腕をクロスさせて自分をかき抱くようにして、ちょっと引いている。
しかし、船長はものともしなかった。
「はははっ、大丈夫!何たって俺の船は奇蹟の船だからな!遅れない!!」
俺達が大丈夫じゃないって……。




