試練は突然です。①
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ナチとヤチと昼食を終えて、俺達はトレージャーハンター協会へと戻った。
お昼から少しお酒を飲んだんで、何となく気分も高揚している。
ライバッハはものすごく賑やかで、休憩らしい船乗り達、トレージャーハンター達、そこで暮らす人々が常に行き来していた。
ちなみに。
トレージャーハンター達への仕事の斡旋は、ギルドと違って個別で行われるらしく、掲示板が無いのもそもそものやり方が違うからだった。
それから、仕事の完了時、基本で貰えるのはあまり多くはないジールだってことも聞く。
これは固定報酬と呼ばれていて、通常は最初にいくらなのか説明があるそうだ。
……俺達に説明は無かった気がするんだけど。
とにかくよく聞いてみたら、トレージャーハンター達の大きな狙いは、その名の通り宝物なのだと言う。
未開拓の地の新しい情報、遺跡の発見、遺物の獲得。
この辺が、大きな報酬になるそうな。
もちろん、全く無い時だってあるから、一獲千金とはよく言ったものだ。
情報を売るも良し、大切に保管するも良し。
そんな結構大雑把な形のため、戦闘専門のトレージャーハンター達と探索専門のトレージャーハンター達は、出発前に顔合わせをし、報酬はどのように分配するのか、宝物を見付けた場合はどうするのかを、先に取り決めておくことになっている。
これからトレージャーハンター達とも仕事をやっていくことになるんだろうから、俺達からすれば必要な情報である。
そうやって色々教えてくれた後、ナチとヤチは一旦トレージャーハンター協会ライバッハ支部のカウンター奥に引っ込んだ。
しばらくすると、彼等は小袋を持って戻ってくる。
「こちら、今回の固定報酬です」
ヤチが袋を差し出す。
「ジャンバックの乗船手続きは進めておくよ。たぶん出航まで1週間はあると思うから、進展あったら宿に都度報せるね」
ナチがそう言って、笑った。
「おう、頼んだぞ双子。……俺達は念のため装備のメンテナンスでもしとくか。行くぞー」
「おー」
グランに言われて、俺達はトレージャーハンター協会を後にした。
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一週間後、大型商船ジャンバック。
奇蹟の船と呼ばれる、魔物に襲われず定刻通りに運航するその船は、俺達をアイシャからトールシャに運んでくれた船である。
奇蹟の正体は船長が助けたという海龍であり、彼が船を引くことで全てが成り立っているものだった。
その船に、もう一度乗ることになるのはちょっと不思議だ。
何たって、上陸してまだ2週間程度。
船で次の町に移るなんて、全くの想定外だったしな。
ちなみに、一応、陸路はあるらしい。
樹海の外側を辿るようにして、ずーっと進んでいくルートである。
船に比べればかなり時間が掛かる上、魔物にも遭遇しやすいとのこと。
俺達はトレージャーハンター協会の計らいで、乗船を許されたのだった。
「おーい!カタール~!!」
白薔薇の小柄な大剣使い、ボーザックは、笛吹のカタールと呼ばれるめちゃくちゃでかい大男に気さくに手を振る。
それに気が付いたカタールは、持ち上げようとしていた荷物を一旦降ろして、手を振り返してくれた。
「待ってたっす!」
「おらカタール!手が止まってンぞ!」
「うへ、ちゃんとやるっすよ。……俺、副船長っすからね?」
同じ船員にどやされて、カタールは慌てて降ろした木箱を担いだ。
うん、そうなんだよな。
笛吹のカタールは、このジャンバックの副船長。
その扱われ方は、曲がりなりにも副船長……とは程遠い。
それでいいんすか、副船長。
そんなカタールをどやした方の船員も、しっかり木箱を担いだまま、こっちに笑ってくれる。
「おう白薔薇!また会えて嬉しいぞ!!」
「またよろしく頼む」
グランが頭を下げると、
「俺手伝ってくる!」
ボーザックか走りだした。
グランが肩を竦め、後ろの2人に振り返る。
「ナチ、ヤチ。世話になったな」
「本当、手が掛かる冒険者だったよね」
軽口を叩くナチに、ファルーアが妖艶な笑みをこぼした。
「あら?どのお口が言うのかしら?」
「な、な、ナチ!!……すみません、ちゃんと言っておきます」
「うわ、ヤチ!お前、どうして兄を売るのかなあ!?」
その会話に笑っていると、ツンと袖が引っ張られる。
「うん?」
「……ちょっとだけ、寂しい気もするね」
ディティアがそう言って、微笑んだ。
俺は頷いて、ナチとヤチを見やる。
色んな人との出会いと別れがある冒険の中、そうやって思えるのはきっと良いことだよな。
「……そうだな、本当に」
「逆鱗さん!光炎のファルーアさんどうにかしてくれる!?」
「げ、逆鱗さん!助けてください」
……うん。
前言撤回。
デバフが使えたら存分に味わってもらうのに、まだ形に出来ていなかったのを心底悔やむ。
「お前達、覚えとけよ?人の逆鱗とやらに触れまくってるからな?」
白薔薇だけじゃなく、ジャンバックの船員らしき奴等からも笑いが起こり、荷物を担いで船に上がっていたボーザックが上から顔を出す。
「えっ、何々-?」
「何でもないからな!」
「逆鱗さんの逆鱗に触れました!」
「ははっ、逆鱗さん本当に逆鱗さんだよね!」
答えた俺に言葉を重ねてくる双子に、俺は盛大に鼻を鳴らしてやった。
そうして奇蹟の船は荷物を積み終え、俺達を乗せると、ゆっくりと港から大海原へと進み始めた。
離れていく港には、紅い髪の線の細い青年がふたり、はっきり見える。
「またなー!ナチ、ヤチ-!」
手を振ると、双子も手を振り返す。
「あぉおおん!」
置き土産とばかりに、フェンが鳴くのだった。
…………
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