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逆鱗のハルト  作者:
逆鱗のハルトⅡ

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240/847

行く先は明るいです。①

****


樹海に埋もれた遺跡を後にして、来た道とは少し違うルートで港町ライバッハへと帰ることになった。

どこを見ても巨木がずんずんと並ぶだけで、同じ所を通っても気付けないかもしれない。

まあ、迷子になってもナチとヤチ、あとフェンが見付けてくれるはずだから平気かな。


…それよりも……である。


……はぁ、また船かあ。


蒼いヌラヌラした海龍はとても強そうで、とても凛とした姿をしていたし、もしまた会えるなら嬉しい。

船員達もすごく気の良い人達ばかりで、楽しかった。


けど、船……しいては船酔い……それだけはいただけない。


歩くのに慣れてきた、ボコボコと根っこが飛び出した不安定な地面を見やる。


まあ、行かないって選択肢は無いんだけど……。


「おいボーザック、どうかしたか?」

「あっ、ごめんグラン。船のこと考えてた~」

「そうか……歩くって手もあるんじゃねぇか?それでもいいぞ」

ふわふわ余所見しているような雰囲気でも出ていたんだろう。

気に掛けてくれた頼もしい大盾使いの言葉に、地図を思い浮かべて、首を振る。


確か、ライバッハは殆ど樹海に囲まれていたはずだよね。

たぶんだけど……アイシャとの交流の拠点ってだけで、ある意味隔離された町なんじゃないかなあ。


「大丈夫……じゃないけど、ありがとうグラン。ティアもいるし、早い方がいいよ。そこは仕方ないっていうか」


言葉を紡ぎながら、するすると前を歩いていく銀狼を見やる。


「ねぇフェン、船の中をずーっと走ってたらマシとかないかな」

「……あうぅん」

フェンが、哀しそうな鳴き声で応えてくれた。

「いやお前、極端すぎんだろうよ……」

グランも呆れ声。


やっぱりそうかぁ。

これは、最高のバッファーに頑張ってもらうしかなさそうだ。


「ハルトー」

「うん?どうしたー?」

ヤチと一緒に後方にいるハルトが応えてくれる。

「船……頑張るからさあ、バフお願いねー」

「おー、任せとけ!」

ありがとうと笑って、覚悟を決めた。

仕方ない、ティアのためだし!


……それから、まだ見ぬ双剣使いに思いを馳せる。


爆風のガイルディアかぁ。

強いんだろうな。

ティアの言うとおり、手合わせしてもらおうかな。


俺もその頃には、もーっと強くなっておこう。

そしたら、ティアが驚くかもしれない。


うん、それも楽しいかも。


手を握り締めて、前を向く。

研ぎ澄まされた五感は、特に敵の気配を感じていない。


巨木がずんずんと立ち並ぶ不思議な光景に、やっぱり世界は広くて、これから行く先も明るいんだろうなとわくわくした。


樹海の中は、薄暗いけど。


******


疾風の名をくれた、爆風のガイルディアさん。

その人を語るなら、やっぱり『爆』の物語。


爆の入った2つ名を持つのは、彼の地龍グレイドスを屠りし伝説の冒険者達だ。


ひとりは、爆炎のガルフ。

ファルーアの2つ名を付けた、立派な白髭のお爺ちゃんメイジ。

私達の故郷であるアイシャのラナンクロスト、その王国騎士団の次期騎士団長、閃光のシュヴァリエ率いるグロリアスのメンバーである。


ひとりは、爆風のガイルディア。

私に2つ名をくれた、素晴らしい双剣の使い手だ。

漠然と会いたいと思いながら、何処にいるのか全然わからなかったんだけど、思ったよりも早くトールシャでの手掛かりを見付けられた。

胸がどきどきする。


あとのふたりは、名前だけしか知らなかった。

爆突と、爆呪だったはずだ。


……彼の地龍グレイドスは、その昔、恐ろしいまでの巨軀から繰り出される強烈な攻撃によって、行く先々で街を蹂躙し、河を埋めてしまい、洪水を起こすなど、甚大な被害をもたらしていた。


それを、たった4人。

大規模討伐ではなく、小さなパーティーひとつで屠ったのが彼等だ。


『爆』の物語は冒険者養成学校の教科書にだって載っていて、本当に誰もが心躍るお話として描かれている。


……うん、ハルト君はちゃんと読んでなかったみたいだけど。


実は爆風のガイルディアさんの容姿はうろ覚えで、まだ私がリンドールにいた頃の、懐かしくて、ちょっと胸が締めつけられるような切なさと一緒に、宝物みたいな思い出になっていた。


白髪交じりの黒髪で、目尻に刻まれた皺が微笑むともっと深くなること……それから、渋くて深みのある声で……たぶん背はボーザックより少し高いくらい……だと思う。


本当にそれくらいしかわからない。

ちゃんとした顔を思い浮かべることは出来なかった。


後はもう、卓越した双剣捌きばっかり。


あれこれ考えて、思わず、ふふっと笑みがこぼれた。

ああ、早く会いたいなあ。


いつか会って、もう一度私の戦い方を見てもらいたい。

欲を言えば、折角だから疾風って呼んでもらうのもいいかもしれない。


私は、あの人にまだ足りない。

届いていない。

ずっとそう思っているし、実際そうだと思う。


足りていたら、届いていたら、災厄の黒龍アドラノードを倒すその瞬間、ファルーアにあんな無理をさせずに済んでいたはずだから。


白薔薇の皆が強くなっているように、私も、まだまだ強くならなくちゃ。

意気込んでみたら、中々気分が良かった。


思わず、腰でクロスさせた双剣の鞘を撫でる。

私の、大切な仲間がくれた、大切な双剣。


温かい気持ちが、寂しさと一緒に湧き上がってくる。

……それでも、何だかすごく前向きだ、私。


きっと、この先はとても眩しいくらいに明るくなるなぁって、贅沢なことを思った。


******


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