名前、くれませんか。④
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高みの見物をしてりゃいいものを、何故かシュヴァリエは俺達の席に現れた。
会場では既に予選が始まって、冒険者と王国騎士団がお互いの剣術を披露しながら打ち合っている。
ちなみに、勝敗は敵に参ったと言わせること。
または審判がもう充分と判断すること。
そして、相手を場外に押し出すことだ。
命のやり取りは禁止。
しかしながら重傷は許される意外と物騒な大会だった。
「やあ逆鱗の。遺跡調査でも大活躍だったようだね。王都はどうだい?」
「どうだかなシュヴァリエ。お前のせいで最悪な都だよ」
「はははっ、閃光の、とつけてくれてもいいよ、逆鱗の」
「お前、疲れる…」
やたら爽やかな空気は俺達の周りを包み込んでいるが、大会そっちのけの興味の視線が突き刺さる。
「ボーザックを応援したいから、邪魔しないでもらえる?」
しっしっと手を振ると、意外にもすんなりと離れ…たと見せかけて、ディティアの向こう側に座りやがった。
「剣術闘技会の邪魔は出来ないからね。ここで見るとしよう」
ディティアの眉が寄せられたけど、それはハの字に変わり、諦めのため息となって決着。
もうどうにでもなーれ。
******
「おいボーザック!そこだ!やれ!」
「もう!何してるのボーザック!いつもならそこでしょう!」
グランとファルーアがやきもきしながら声援?を送る。
予選は多人数の乱闘形式、各組から残った2名が決勝に進む。
ボーザックは10組のうちの第8組で、残りはあと5人。
「グラン!ファルーアっ、恥ずかしいからやめてくれる!?」
ボーザックは大剣を振り抜いてこっちに声をかけてくる。
なんだなんだ、余裕あるじゃん!
カルアさんの姿は見付けられなかったけど、この成長っぷりは目を見張る。
これ、肉体強化バフを三重にするより強いんじゃないか?
「余裕があるならやれ!ほら!お前の悪い癖だぞ、今のは受けずに流せ!」
「わ、わかってるよグラン!カルアさんにも言われたしっ…そらっ!」
次に振り抜いた真っ白な大剣は斬り掛かってきた2人を弾き返した。
そして、一気に詰め寄るとそれぞれの首に大剣をそっと寄せる。
「俺の勝ちだよね」
おおおっ!
歓声が上がる。
どうやら、ボーザックは注目の的らしい。
いいぞいいぞ。
「ふむ…。なかなかどうして、彼は前の時より無駄が少ないね。短期間でこれほどとは…逆鱗の、口だけじゃなさそうだね?」
「当たり前だろ。あいつすごく頑張ってたんだぞ」
「ふふっ、それは楽しみだ。完遂にしごかれたようだね」
完遂、と聞いて一瞬思考が停止する。
カルアさんの2つ名だと理解するのに、少し時間がかかった。
俺はふんと鼻を鳴らし、吐き捨てた。
「知ってるなら聞くなよ」
そうこうしてる間に、もう2人の片方が参ったと声を上げた。
残ったのはボーザックと、王国騎士団らしき男の2人。
歓声が会場を包み、2人は礼をして引っ込んだ。
「とりあえず予選は通ったわね」
ファルーアは満足そうだ。
「何言ってんだ、これからあいつはもっとやるぞ」
グランもにやにやしている。
「ボーザックやるなあ!正直感心した」
遠縁の親戚にあたるアイザックも嬉しそうだ。
「疾風の。その後はどうだい?」
しかし一方ではシュヴァリエがディティアに話しかける。
…よく見たら、迅雷のナーガがシュヴァリエの向こうに移動していた。
その眼がぎらぎらとディティアを睨んでいる。
こわ…。
「その後、とは?」
「我がグロリアスに来てくれる気になったかなとね」
「仰る意味がわかりかねるのですが」
とげとげと答えるディティアに、助け船を出す。
「おいシュヴァリエ、いい加減諦めろ」
「相変わらず手厳しいね。閃光の、とつけてくれてもいいよ逆鱗の。諦めることは有り得ないので大丈夫」
大丈夫ってなんだよ…。
何故なら疾風はグロリアスに来るのだから!とでも言いたげだ。
何でこんな自由なんだろ、こいつ。
とにかく、今はナーガをどうにかしてほしい。
ディティアが冷や汗をかいている。
俺はぐったりと疲れるのを感じながら、可哀想なディティアの頭をぽんぽんと撫でた。
******
決勝はノックアウト形式のトーナメント戦だ。
総勢20人が戦って、優勝が決まる。
くじ引きで相手が決まるので、上手くいけば2回勝つだけで準決勝。
ボーザックは見事、回数が1番多い箇所を引き当てた。
まあ、そうだよな。
そして、快進撃が始まった。
ボーザックは1回戦を3撃で、2回戦を大剣とは思えない素早い剣裁きで勝ち抜いた。
会場は沸き立って、ボーザックコールが起きるほど。
すげーなボーザック人気。
3回戦は双剣使いの冒険者が相手。
素早い動きで右から左からと繰り出される双剣は…なんていうか、うん。
ディティアを見ているせいか、ちょっと遅く見える。
やっぱり疾風って伊達じゃないよな…と思ったら、ディティアは思いの外真剣に試合を見ていた。
ボーザックは危なげなく受け止めて、時には大剣を独楽のようにぐるりと回して捌く。
うわ、ボーザック、ちょっと格好良いぞ…。
「今」
ディティアが言ったのと、ボーザックが剣を振るったのは同時だった。
シャアンッ
空気を裂く音がして、双剣が宙に舞う。
「…っ、参りました」
喉元に迫る白い大剣に、双剣使いは肩を落とした。
わあーーーーっ!
またも歓声。
ディティアが笑った。
「うんうん!ボーザック、今のは完璧な狙い目!」
「そうだったのか?」
「うん、あの双剣使いは左右を振った後にまた右を振る癖があるみたい。だからその瞬間に突き出された右の剣を打ち上げると、力がぶつかって弾かれるの」
「なるほど…。俺も気を付けないと」
「ハルト君は相手を窺ってるからあの人みたいに手数に頼らないよね。だから違う戦術だと思うよ」
「そっか…。じゃあディティアだと?」
「うん、そもそも受け流すから絶対に弾かれない。あんな隙を作ってたら、誘ってる時だけだよー」
「おお…」
やっぱり疾風は強かった。
******
そして堂々の準決勝。
ボーザックは、最後の4人まで危なげなく勝ってきた。
これ、本当に何か起きそうだ。
俺は食い入るようにボーザックが入ってくるのを待った。
先にやってきたのは相手の方。
王国騎士団の制服に包まれた、細い体付で、腰にはロングソードの…あれは男か?女か?
ファルーアとよく似た長さの銀髪は後ろで束ねられている。
「気になるかい逆鱗の?」
「ああ…お前いたんだっけ…。知り合いか?」
「勿論だよ。あれは僕の弟だからね」
……なんだって?
ディティアを見ると頷いてくれた。
ここはシュヴァリエの巣窟なのか?
「…その割に歓声少ないな」
思わず感想が口をつく。
シュヴァリエは面白そうに笑う。
「あれは、そういうのを嫌うんだ。あれのファン達は静かに見守るのを美徳としているよ」
……。
きっと、騒がしい兄に嫌気がさしたんだろうな…。
俺は少しだけ弟に同情した。
そこに、ボーザックが入ってきた。
「頼むぞボーザック!!」
すかさず声を上げる。
ボーザックはこっちに向かって拳を突き出してくれて、俺も同じように応えた。
会場に、歓声が戻ってくる。
準決勝が始まった。




