裏家業は大変です。④
……ディティアからすれば、憧れの存在がいる場所だ。
きっと、裏ハンターとやらになった方が情報もあるだろうし……爆風のガイルディアに会える確率は高いだろうと、思う。
思うけど……。
「爆風のガイルディアさん、どんな感じでしたか!?」
急に畏まってせっせと双子に話し掛ける疾風のディティアを眺めていて、なんとなく……なんとなくだけど、腑に落ちないというか……。
「えっ、ええと……そういえば疾風のディティアさんに似た戦い方だったような」
「……!わ、私、どこが足りなかったですか??」
……面白くない、というか……。
「……嬉しそうだねぇ、ティア」
「え?あぁ……うん」
「はっきり言ってね、俺としてはちょっと腑に落ちないよハルト」
「うん?」
話し掛けてきたボーザックに俺は聞き返した。
「ティア、あんまりあんな顔しないからさー」
「ああ、そっか……うん、そうだな」
きらきらした顔をしているディティアに、ちょっと困惑したんだと気が付いて、頷く。
「……へへ、頑張ろうねー、ハルト!」
ばしんと背中を叩かれて、俺は思わず笑った。
「何だよそれ?……ははっ、でも、うん、何か悔しいもんな!」
俺達はとりあえず食べ終わった後片付けをして、ナチとヤチから詳細を聞くことにしたのだった。
******
……裏ハンターとは。
トレージャーハンターの中で取り決められた法に逆らう者……言わば犯罪者達……を狩る者達のことである。
トレージャーハンター協会はその組織を特別に作っていることを公言していて、裏ハンターになった者達にはそれなりの恩恵も与えられているらしい。
曰く、成果報酬の上乗せ、特殊な仕事の優先的な斡旋などだ。
けれど、裏ハンターになるための条件だけは秘匿されていて、その第一関門がナチとヤチのような『審査官』の承認を受けることだった。
「審査官は各地にいるよ。僕達は、その、まだ新米ではあるけど、正真正銘の審査官だから安心してよ。……白薔薇は合格。次は別の町で、別の審査官による仕事が待ってる。向こうから声を掛けてくるから頑張ってよ。教えるのはそれだけ。誰が審査官かは秘密、どんな仕事かも秘密。ただし、僕達が認めたっていう証は渡しておくよ。はい、これ」
「何かしら?これ」
差し出された物に、ファルーアが顔をしかめた。
「ん、樹海のハーブ」
ヤチが答えて、その、小さな袋に入った粉状の物を見せてくれる。
何かの葉を乾かして、粉にしたらしい。
「料理に入れてもよし、お風呂に少し入れてもよし、爽やかな香りが堪能出来る、僕達特製の証だよ!」
やたら誇らしげなナチに、グランは髭を整えながらぼやいた。
「使ったら無くなっちまうじゃねぇか」
ナチは心外だとでも言いたげに口を尖らせて、
「とりあえず袋は取っておいて。その時はまた補充してあげるから」
と、何とも面倒なことを言う。
グランは一瞬、髭を整える手を止めて、眉をひそめ、言い切った。
「……まあ、使わなけりゃいいんだな」
「ええ?何でそうなるのさ?」
いや、そうだよな、そうなるよな。
「はあ……それで?次はどこに行けばいいのかしら?」
ファルーアが呆れたのか諦めたのかヤチに聞く。
「うん、それなんですけど……ジャンバックに乗って南下してもらおうと思います」
ヤチも、ナチのそんなところに慣れているのかさらっと答えた。
「ジャンバック……?それ、あれだよな?俺達が乗ってきた奇蹟の船」
「ええ……ええ?……ま、また船乗るの?」
反応した俺に、ボーザックが絶望の声を上げる。
その手は離れたくないとでも言うように、地面にそっと添えられていた。
「あら、トールシャを回る時は荷物しか乗せないって言ってたわよ?」
「普通はね。……でも大丈夫、僕達トレージャーハンター協会から打診するから」
「あの!爆風のガイルディアさんはそっちの方にいますか?」
ディティアが質問を横からぶち込んできて、ファルーアが笑う。
俺とボーザックは顔を見合わせて、苦笑した。
「もう、ティア?ちゃんと追いかけてあげるから落ち着きなさいな。……ほら、見なさい?ハルトとボーザックのあの顔」
「えっ?」
ぐ。
俺は思わず顔を逸らした。
くそー、そんな変な顔だったかな……?
頬をぐにぐにしたら、ディティアが笑った。
「ハルト君も、ボーザックも、会ったらたくさん手合わせしてもらおうね!」
「えぇ……そこなの……?」
珍しく、ボーザックが突っ込むのだった。
******
そんなわけで。
とりあえず、俺達は裏ハンターとやらを目指すことになった。
次の日、ナチ、ヤチと共に目的の遺跡まで行き、一通り見回りはしておく。
途中、モグラみたいな魔物の巣に遭遇したけど、それくらいだった。
遺跡は、巨木に呑まれかけた、廃墟のような姿で。
石の柱は双子の説明通りたくさんあって、たぶん灯りとして使っていたんじゃないかと教えてくれる。
昔はたくさんの魔法の罠があったらしいから、魔力感知バフで窺ってみたけど、ここにはもうその痕跡は無い。
濃い緑の匂いがただよう、静かな、静かな、遺跡だった。
「樹海の死者の気配は無さそうだから、心配ないかな」
そんな空気の中、ナチがそう言ってから、自分で首を振ってぶつぶつと付け足した。
「いや、でも警戒はしておこう。大型の魔物も多かったし……何か起きてるのかもしれないし」
「そうだな、警戒するのは大事だよな」
ナチの頭をぽんとしたら、ものすごく顔をしかめられた。
「ちょっと逆鱗さん、気安く触らないでよ。僕はもう成人してるんだし!」
「はは、その逆鱗さんはやめような?ほら、ナチはよく頑張ってるよなー」
「うわっ、だから、何だよそれ!ちょっと背が高いからってさぁ!」
ぎゃあぎゃあしていたら、ヤチが笑った。
「2人は、何だか似てると思う」
いや、どう見てもお前のほうがそっくりだろと突っ込みたかったけど、飲み込んでやる。
ナチが、絶対に似てないから!と憤慨したのだった。




