裏家業は大変です。③
「……な」
驚愕の声をこぼすナチ。
「突きなさい」
ファルーアの声に、ナチは、下から突き上がるだろう柱を受けるために、防御の姿勢を取った。
しかし。
「っ、がっ!!」
ズドンッと音がした。
ナチが、『上から繰り出された』柱に、地面に叩きつけられたのだ。
「ぐっ、……上……っ!?」
「根っこの間に土が挟まっていたから、それを柱にしたわ。貴方の狙いさえわかれば対処可能よ?」
反応速度アップを3重にしたのは、不本意だけど俺が抜かれることがわかっていたかららしい。
そりゃあ、メイジを先に倒せば後が楽になるのは定石で、それがわかれば対応出来るけどさあっ!
くそー、何か悔しい。
その間に、動揺したヤチへと俺は走り寄った。
「ヤチ!勝負!!」
「っ、げ、逆鱗さん!負けません!!」
「だから!それが逆鱗とやらだって!!」
ギンギンッ、ガッ、ガキンッ!!
打て、打て、打ち続けろ!!
俺は速度アップに任せて攻撃を続けた。
ヤチは速い。
小回りが利いて、俺の攻撃を躱しながら反撃してくる。
けど。
こんなの目じゃないくらいに速い風。
疾風を、何度も受けてきて、ぼこぼこにされている。
だから。
ここでは……勝たないといけないんだ!!
「うおぉぉっ!」
「やあぁあっ!」
しかし。
「ハルト。避けなさい」
「……おぉあっ!?」
俺は、たぶん。
『慣れていた』んだと思う。
気付いた時には、ファルーアの声に、身体が勝手に反応してくれていた。
本気で攻撃を仕掛けようとしていたのに、足が踏ん張って、横っ跳びに転がっていて。
「突きなさい」
「……っぐぁっは!!」
ズドンッと。
俺に向かってナイフを繰り出そうとしていたヤチが下から突き上げられて、転がった。
「ねぇ、これ、2対2だったわよね?」
カツッ。
ヒールを鳴らして。
妖艶な笑みをこぼしながら。
彼女は、立っていた。
「うわー……ファルーア容赦なーい……」
「あれは……ヤチ、同情するぞ」
「何?消し炭になりたいの?」
『いいえすんません』
ボーザックとグランが眼を逸らす。
彼女は肩にかかった金色の髪を払って、ナチを見た。
「そもそも、本意じゃなかったとしてもこんな危険な目に遭わせておきながら……まずは謝るのが筋でしょう?」
転がったままのナチが、盛大な呻き声をあげる。
「うあー……その通りです。本当に申し訳ありませんでした……!」
「あ、あの……ナチは、素直じゃないから……謝るきっかけに、こういうやり方しか、浮かばなかったんです……皆さん、本当にすみませんでした……」
ヤチも頭を下げる。
ファルーアは漸くふふっと笑った。
「本気でハルトを助けに行ったから、許してあげるわ。それに、私達はそれなりにお人好しだもの」
「ふふ、ファルーア格好良い-!」
ディティアがぱちぱちと手を叩くのを、グランが信じられないとでも言いたげに見ている。
ナチは、ヤチに余計なこと言わないでよ!と言いながら、さらにため息をついた。
「はぁ……でも本気で参ったよ……メイジが攻撃受けるとか……びっくりした。その姑息さ、爆風以来だよ……」
……ん?爆風……?
聞こえた単語に、首を傾げる。
「ば、爆風!?爆風のガイルディア!?」
ディティアが食いついて、眼を見開いた。
あれ?何か、色々ごっちゃごちゃだぞ??
双剣を収めた俺は、泥を払って立ち上がる。
双子も、その場に起き上がって、眉をひそめた。
******
とりあえず、食事を開始することになった俺達。
避難していた鍋を戻して、皆に配った。
今日は保存食の肉団子と、双子が採ってきてくれたキノコをたくさん入れたスープ、パンだ。
味付けはナチがしてくれて、独特の香草の匂いが鼻をくすぐった。
旨そう……。
「それじゃあ続きをお願いします!」
ディティアが前のめり気味に聞くと、ナチはスープをふぅふぅして、言葉を紡ぎだした。
「爆風のガイルディアは僕達と同じ裏の仲間だよ。……あの人、めちゃくちゃ強いのに飄々として、実力隠しててさあ。完全に騙されて……よく分からないから試そうとしたんだけど、見事に返り討ち。ほんっとに姑息。結局、面白そうだからーとか言って仲間になったけど……本当に面白くない」
ナチはその時のことを思い出したのか、思い切り顔をしかめた。
ディティアはうずうずした顔をしていたけど、ヤチが本題へと軌道修正をかける。
「僕達は、トレージャーハンターの中で違法行為をする奴等を取り締まる裏ハンターなんです……。冒険者から仲間を探しているのは、戦える人が多いから。様子を見て、何というか……悪いことに加担しなさそうで強そうなら、今回みたいに試します。……違法行為をする奴等は宝を独り占めするために、同行したトレージャーハンターを置き去りにしたり、酷い時には亡き者にしてしまいます。色んな手口がありますが……実は、僕達の両親はその裏切りにあって……」
「……それは……そっか、大変だったな」
皆が表情を曇らせる。
思わず言ったら、ナチが鼻を鳴らした。
「ヤーチー、その言い方だと聞こえが悪いって。……両親は健在、ただ、裏切りにあってトレージャーハンターを引退したってだけ」
「そっか!生きてるんだね!まあ、良かったとも言い切れないけどさ」
ボーザックが笑う。
ナチは口に放り込んだ肉団子をもぐもぐして、頷いた。
「まあね、生きてるだけ、十分良かったんだよ。仲間はたくさんやられたから。……うん、美味しい。今日の味付けは完璧」
こいつら、苦労してきたのかもなあ。
ふと、そんなことを思う。
「それで?裏ハンターってのになったら具体的に何するんだ?」
俺が口の中にあった肉団子を飲み込んで聞くと、次の肉団子を口に運ぼうとしたナチが不思議そうな顔をした。
「え?……何って、各支部で仲間から不審な奴等がいないか聞いて、時々対処するんだけど……」
「何だ、そんなことでいいのか?」
グランが拍子抜けしたような顔で聞き返す。
今度は、ヤチが不思議そうな顔をした。
「え、まあ、そうなんですけど……」
「思ったより簡単そうだね。仲間の見分け方とかあるの?」
ボーザックに聞かれて、ナチはぽちゃんとお椀の中に肉団子を落とした。
口がぽかんと開いている。
「あれ、どうかした-?」
ボーザックがさらに聞くと、眼を3回ぱちぱちさせて、ナチが言った。
「あのさ、もしかして、裏ハンターになるつもりなの?」
「当たり前です!!」
何故か、ディティアが意気込んだ。




