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逆鱗のハルト  作者:
逆鱗のハルトⅡ

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233/847

樹海は未知の領域です。④

******


樹海に入って4日目。

今日も今日とて、大きな魔物と遭遇し、全力で葬ったところだ。


1日1回は大型の魔物と戦闘になるから、さすがに双子に聞いてみた。

「ナチ、ヤチ。毎日戦闘になるのは多い方なのか?」

「そうですね、多いです」

しれっとナチに言われて、肩を落とす。


「さすがに毎日は嫌だね~」

ボーザックはそう言って、ぐるりと辺りを見回した。

「……大丈夫、もういないよ」

ほっと息を吐いた大剣使いに、各々が武器を収める。


……樹海の景色は、4日経ってもそうは変わらなかった。

奥に進むにつれて、人工物のような物が時折見て取れるようになったくらいだ。


簡単に言えば、石の柱みたいな物である。


『これは、遺跡の目印です。これが多くなってくると、遺跡はすぐそこですよ』

ナチがそう教えてくれたのは昨日のこと。

まだ殆ど見付けてないし、今日も2個しか見てないんだけどな。


この樹海を、ナチとヤチは巨木の根元に突き立てられた金属の杭を目印にして進んでいるという。

道らしい道は無いように見えるけど、2人には微妙な草の分け目がわかるそうだ。


素直に感心したら、笑われた。


「逆鱗さんに言われると!あははっ」

……失礼な奴等である。



まあ、これなら、遺跡まではきっともうすぐだな。


……そう思っていた矢先、事態は急変した。



******



「走れ!走れッ、ヤチ!!」

「……ッ!!」


転げるようにして、俺と双子の弟の方……ヤチは走る。


速度アップ二重と反応速度アップを付加して、樹海の巨木とそこから垂れる蔓のカーテンの間を、泥まみれになって。


自分には、五感アップも重ねて、全部で4重にしてあった。


感じるのは、大きな気配。

戦慄を憶えるほどの、何て言うか……禍々しい黒い気配だ。


「……っ、くそ、追い付かれる……!」

気配はどんどん増していく。


どうにかして、ヤチは逃がさなければならない。


たとえヤチが戦えるとしても、2人同時にやられたら元も子もないし、樹海を知っているヤチを逃がすべきなのは明白。

皆と合流出来る確率も格段に上がるはずだ。


俺は考えを巡らせて、瞬時に判断をした。


……俺がやるしかない。


「ヤチ!!いいか、皆と合流しろ、俺が足止めする!」

「ば、馬鹿言わないでください!!あれは、相手にしては駄目です!」


ヤチにしては珍しく、声を荒らげた返事。

俺は、切羽詰まっていたのに思わず苦笑してしまった。


「馬鹿はお前。その魔力結晶、置いていけよな」

「……それはっ……」

「理由と言い訳は後だ。……行け、ヤチ」


ヤチの腰にぶら下がっている紅い石の入った袋。

俺は、それを全力でもぎ取って、ヤチに背を向けた。


「逆鱗さん……!」

「……だから、その呼び方やめてくれる?それこそ俺の逆鱗とやらなんだけど」


双剣を構え、俺はふーーっ、と息を吐いた。

「ヤチ。行け」


「……っ、必ず、戻ります!」


格好いい台詞を残して、ヤチの気配が遠ざかる。

言ってくれるなぁ。


俺はその先を確認せずに五感アップを消し、自らのバフを書き換えた。


「肉体強化、肉体強化、肉体硬化、反応速度アップ!!……さあ、来い!!」


足は、正直震えていた。

冷や汗が背中を伝う。

心臓はばくばくと鳴って、うるさいくらいだ。


ズン、ズンッ……ズズンッ!!


地を揺らす足音。

生臭い空気が広がり始め、辺りに染みて、そこら中にあふれていた生命の気配がすうっと遠のく。

……それ程に、そいつの放つ気配や纏う空気は、恐ろしく禍々しいものだった。


〈ル、ルル、ルォ……〉


初めて聞く声は、何の感情も持たない、低いもの。

〈ルル、ル、ルルォ……〉


ぬう、と現れた黒い塊に、双剣をぎゅっと握る。


「……は、気持ち悪……っ」

悪態をついてみたけど、声が上ずった。


大きな球状の、ぬらぬらした黒い塊が、表面をうねうねと波立たせている。

そいつは、太い紐状の触手が寄り集まって、成り立っているように見えた。


…………

……


事の発端は、俺がヤチと休憩地点を離れたことだ。


ヤチは、こいつを遠巻きに見付けた瞬間、真っ青になって後退った。


休憩地点から1人離れようとするヤチが、俺を見て顎を引いたから、付いてきたんだけど……。


「……そんな、どうして……樹海の死者がこんな所まで……?」

震えるヤチに聞き返す。

「何だよ?シシャって……っ!?」


瞬間。

ぞわっとうぶ毛が逆立った。


視られている。


気付かれたんだ、とすぐに悟った。

同時に、あいつがやばい魔物だってことも。


「ヤチ、戻るぞ!」

「だ、駄目です……意味が無い!」

「何で!」

「な、ナチがっ……もう、出発しているからです!」

「は?何言って……え?」


差し出されたヤチの手には、紅く光る石。


……俺はきっと、目を見開いたと思う。

あれは、元々は人の血だったものだ。

俺達白薔薇は、その製造方法を知ったことで、アイシャの4国を巡ることになったのである。


ライバッハの灯台にも使われているのは聞いたけど、まさかこんな所で、それを見せられると思わなかった。


「お前、それ……」


「僕は、貴方を連れ出す必要があって……。皆とわざとはぐれるために、これを使って魔物を呼び寄せました。……だから、ナチが先導して、さっきの場所からは離れているはずです」


俺は、ヤチの言ってることがわからなかった。


けど、ナチが皆を連れて移動してるって事は、信じるしかなくて。

戻っても合流出来ないとなれば、2人で戦うか、逃げるかしかないと思ったんだ。


「くそっ……速度アップ、速度アップ、反応速度アップ!!……逃げるぞ、ヤチ!!」

バフを投げて、走り出す。


「五感アップ!」

自分には五感アップを重ねて、後方の気配を捉える。


……真っ黒い、嫌な気配が迫ってきていた。


……

…………



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