名前、くれませんか。③
本日分の投稿です。
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剣術闘技会がやってきた。
その日、王都の民達は熱気に満ち溢れて、屋台もたくさん出た。
他の国からは勿論のこと、冒険者達が意気揚々と集まってきているのがわかる。
「っ、はー!こんなに人がくるのかあ」
人混みの中で見回すと、グランが笑う。
「そりゃあ、年に1回のでけぇ祭りみたいなもんだって言うしなぁ!」
へぇー。
やっぱり有名なのか。
数日前に、漸く解放されたグランは今日までの間に狂ったように依頼をこなした。
大盾使いとしての腕が鈍ってないか確認したかったらしいけど、そりゃあもう溜まった鬱憤を魔物にぶちまけているようにしか見えなかったんだよな…。
それだけ、机に向かう作業は向いてなかったんだろう。
まあ、グランだしなぁ…。
どう見ても脳筋、そして燃えるような紅い髪と眼である。
身体だけでなく、顔もいかついし。
見ていたら、なんだよ?と言われた。
…付き合ってみれば気のいい兄貴肌なんだけど。
俺達白薔薇は、ボーザック以外でこの祭りを堪能していた。
ボーザックは出場のためかなり早い時間に出て行った。
試合は午後だからまだ余裕がある。
会場の席を確保しておかないといけないらしいけど、どういうわけかアイザックが面白がって人数分確保しておいてくれるらしい。
まあ、本当にボーザックが優勝なんてことになったら、王国騎士団は名折れだろうと思うけど。
******
「おう、白薔薇!」
アイザックは闘技が行われる会場のすぐ上の、だいぶ良い席に陣取っていた。
このために、昨日から並んだと言うのだからやばい。
こいつ、暇なのかなぁ。
よく見ると、爆炎のガルフの隣には迅雷のナーガもいる。
ディティアがああーと呟いた。
「どうかした?」
「彼女がいるってことは、シュヴァリエが出るって事だなあって」
「…うわぁ、耳にしたくない情報ー」
「あはは」
俺達は席に座ると、闘技会の始まりを待った。
そして。
「お集まりの皆様、大変長らくお待たせ致しました」
司会者らしきお姉さんが会場に現れた。
会場は石で出来た、かなり広い丸い板が置かれていて、その上が闘技スペースとなるそうだ。
場外に出てしまうと失格らしい。
「王国騎士団長、バルハルーア様のご登場です!」
わああーー!!っと歓声が上がる。
黄色い声援もすごかった。
登場したのは銀の髪の…ん、なんかやたらシュヴァリエに似た奴だな…。
騎士団の制服が同じなのは仕方ないとして、あれは、なんていうか。
「やあやあお集まりの諸君!今日も僕達のためにこの日が来た。感謝しよう!」
わああーーーー。
さらりとはらわれた銀の髪。
大袈裟な動作。
あれは、どう見てもシュヴァリエのそれだ。
「…。あのさ、ディティア」
「…うん。あの方はシュヴァリエの叔父様にあたるよ」
うわあー。
今日2回目の耳にしたくない情報だ。
沸いた会場からは歓声と歓喜。
騎士団長からのオーラもまたキラッキラしている。
完全に苦手な空気なんだけど…。
「そして今日は我が甥も駆け付けている!」
「ええ、そういう紹介必要なのか…?」
「閃光のシュヴァリエ様よ。黙ってて」
思わずぼやくと、何と迅雷のナーガに怒られた。
いきなり喋ったのに驚いたのか、隣の爆炎の眉毛がぐあっと持ち上がったのが面白い。
「お集まりの皆様、ご機嫌は如何かな。…閃光のシュヴァリエ、この日のために冒険の日々からしばし帰還致しました」
きた。
きたよこの爽やかな空気!!
キラッキラしている騎士団長の隣に、爽やかな空気を纏う嫌な顔が並ぶ。
何故か誇らしげにこっちを見てきたのでそっと眼を逸らした。
そもそも、なんで気付くんだよ。
いや、もしかしてディティアを見てたのか?
俺は何となくイラッとしてディティアとシュヴァリエの対角線に上半身を入れる。
「ハルト君?どうしたの、何か…見えない…。いや、見えなくてもいい気もするかな…?」
ディティアは案外酷いことを言うようになった気がする。
相手はシュヴァリエだからいいけど。
「さて、諸君。今年は素晴らしい吉報がある。もちろん知っている方も多いだろう。…長らく我等を苦しめてきた、彼の飛龍タイラントが討伐されたのだ!」
騎士団長が、大袈裟に両腕を広げてみせると…。
うわあああーーーーっ。
今日一番の歓声に、思わず身を竦める。
そういえば、この中にも一緒に戦った人が居るかもしれないんだな…。
グランを窺うと、どことなく誇らしげに見えた。
うん、俺達、頑張ったし…少しくらいなら誇ってもいいかも。
しかし、甘かった。
そう、こいつはあのシュヴァリエの叔父。
俺は、もっと警戒するべきだったんだよ…。
「では、本日のスペシャルゲストを紹介しよう!タイラントに止めを刺し、我が甥も認めた素晴らしきバッファ-、逆鱗のハルトと、その所属するパーティー、白薔薇のメンバーだ!」
カッ!!!
アイザックが突然生み出した光の球。
その数は10。
俺を真ん中に、グラン、ディティア、ファルーアが、真っ昼間から煌々と照らし出された。
「……っ、あ、アイザックーーー!!お前っ、まさっ…まさか!」
「悪ぃな逆鱗の。うちの閃光のやることだ、許せ」
「ーーーーっっ!!」
口をパクパクする俺。
呆然と照らされる他の皆。
そして、いつの間にか会場にはボーザックが引き出されていた。
「あ、おーい!ハルト-!何、これー?」
下から手を振る無邪気な大剣使い。
俺は立ち上がり身を乗り出して声を張り上げた。
「ーーーっ、シュヴァリエーーーーーっ、お前っ、絶対許さないからな!!ふざけんな!!」
俺を見上げる爽やかな空気の男は、ふふんと微笑む。
「見たまえ、冒険者、そして王国騎士団の諸君!彼の逆鱗に、僕はまた触れてしまったようだよ」
笑い声が巻き起こる。
くっ、くっそおおおーーー!!
「は、ハルト君…す、座ろう?」
「ハルト…微笑んで手を振るくらいしなさいよ。はずかしいわ」
「俺達まで巻き込むんじゃねえよ」
白薔薇の面々さえそんなことを言い出す。
俺はきょとんとしてるボーザックを指差した。
「そこの白薔薇のメンバー、ボーザックが!今日っ、王国騎士団に目に物見せてやるぞ!!」
「ええええ!?ちょっとハルト!俺を巻き込む気!?」
いいぞ白薔薇-!
もっとやれ逆鱗-!
大剣使いー頑張れよ-!
思い思いの野次が飛び交い、会場は最高潮に。
こうして、ボーザックに全てを託し、俺はふて腐れたまま座ることになった。