まずは情報です。②
俺達はおどおどした青年に連れられて、ギルドにやって来ていた。
「ごめんねー、屈強じゃなくて!」
ボーザックが明るくからから笑うから、青年は余計申し訳なさそうだ。
たぶん、人と話すのは苦手なタイプなんだろうな。
聞いたところ、迎えに行くように頼まれただけで、事情は知らないらしく、どんどん可哀想になった。
トールシャのギルド……正確には、トレージャーハンター協会。
ここは、そのライバッハ支部である。
アイシャのギルドと協力関係で、主要都市にはギルドとしての機能が整っているらしい。
聞いたところ、なんとギルド預金も、倉庫も使えるそうな。
宝箱に短剣を重ねた看板が掛かっていて、恐らくあれがトレージャーハンター協会のマークなんだろう。
他の建物とそう変わらない、薄い橙色の四角い建物で、広かった。
「少し、待っていてください」
青年は『ようこそ白薔薇』の看板を脇に抱えて、足早に奥へと消えていく。
入口をくぐると、広いロビー。
たくさんの人達が行き交っていて、活気がある。
……依頼掲示板みたいなのは無さそうだな。
とりあえず、トレージャーハンター協会とやらの情報も、トールシャでの情報も、全然足りてない。
まずはそこからだ、とグランが言った。
「それにしても……何だか、装備がちょっと違うね」
ディティアが物珍しそうに言うと、ファルーアが頷いた。
「そうね、武器は持っているけれど、戦うよりも探索に特化してそうだわ」
行き交う人達は、各々武器や防具を装備してはいる。
けれど、ロープみたいなのや、あれ何だ?スコップ?……そういう物を持っている人も多い。
「宝物探してる人達なんだよね、トレージャーハンターって」
「あぁ。そうすると、魔物退治はあんまりやらねぇのかもなぁ」
ボーザックとグランもそう言いながら、色々な場所に眼を向ける。
「お待たせしました」
そこに、はきはきとした明るい声が聞こえて、視線を前に戻した。
「ようこそ、白薔薇の皆さん!!お待ちしていました!」
ツンツンした紅い髪、切れ長の赤い眼……華奢な青年がそこに……あれっ?
「わあ!双子だったんですね」
ディティアが、俺より先に歓声をあげる。
そう。
はきはきした青年の後ろに、さっきのおどおどした青年が、立っていたのであった。
…………
……
「僕はナチ、弟はヤチです。この支部で、ギルド業務を兼務してます」
通されたのは、俺達全員が入るとぎゅうぎゅうになる小さな部屋。
入口側にナチとヤチ、奥側に俺達白薔薇が座り、はきはきした青年の方……どうやら兄らしいナチが何やら書類を広げる。
「……えっと、ナチ。俺達白薔薇のことはどこから聞いたんだ?」
ずっと気になってたから聞いてみると、ナチは笑った。
「へへ、それは秘密です。とりあえず、アイシャから連絡があったとだけ伝えますね」
「えぇ……気になる!!じゃあ当てたらいい?……よし、当たったらちゃんと教え……いたっ、痛い、ファルーア!!」
ボーザックが食いついたところを、ファルーアが澄ました顔で踏み付けている。
ヒールは痛いんだよな……。
本当に……。
「とりあえず先に進めてくれ。聞きたいこともある」
グランも慣れたもんで、さっさと話を進めた。
「わかりました、ヤチ」
「うん。……まず、これを」
双子もさらりと話に戻る。
俺は、それを見て息を呑んだ。
差し出されたのは、少し厚みのある三角形の……栞のようなもの。
何かの革のようで、黒地に、濃い緑色の模様があった。
……見たことがある。
「こいつは……」
グランが、荷物をごそごそやって、それを引っ張り出す。
「ロディウルから預かった物だったかしら?」
実際手元にこいつが渡された時には昏睡状態だったファルーアが言う。
それを見て、双子は顔を見合わせた。
「あれ……もうお持ちでしたか?」
「いや、お持ちでしたかというか……預かったというか……これ何だ?」
聞き返すと、ナチはああ、と頷く。
「これ……トールシャでの『認証カード』なんですよ。普通は一定の実績があるハンターに渡されるんですが、皆さんは免除されてます。これを見せて、各支部で仕事を斡旋してもらう仕組みです」
「認証カード……トレージャーハンターも同じ仕組みなのか?」
「はい。アイシャと違うのは、各パーティーに1個ってところでしょうか。冒険者さんによく聞かれるんですけど、トレージャーハンターの仕事は大きく分けて2つです。1つ目は未開の地や遺跡の探索、そして、2つ目が危険の排除です」
「1つ目は何となく想像つくけど……2つ目は?」
ナチはヤチに目配せして、資料をひとつ差し出した。
書かれているのは、魔物の討伐依頼のようだ。
それ以外にも、何か条件みたいなのがいくつかあるらしい。
「簡単に言うと、未開の地までの道のりで魔物を排除したり、探索専門のハンター達の護衛をしたりすることです」
「……アイシャの冒険者は、殆どこっちの仕事をする」
ナチが答えて、ヤチが付け足してくれた。
そうすると、探索専門のトレージャーハンターってあんまり戦えないのか?
疑問に思っていると、ナチがにやりと笑った。
「百聞は一見にしかず、皆さんにはこの仕事を斡旋します」
それを聞いて、全員が「え?」という顔をした、と思う。
あれ?なんか拒否権が無さそうな雰囲気だぞ……。




