表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
逆鱗のハルト  作者:
逆鱗のハルトⅠ

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

217/847

最高の旅立ちにしませんか。

******


その後。

王達の会議は各地のギルド長を集めて着々と進んだ。



俺達はこれからのことを話して、満場一致で隣の大陸に渡ることにした。

最終的には、ユーグルのロディウルに会いに行くためだ。


災厄が他にもまだいるとか、咎人だとか。

全然わからないことだらけではあったけど、たぶん、俺達にはそういうのが合ってるんだと思う。


何て言うんだろうな、行き当たりばったり?


けど、王様達が集まった話し合いでわかったことがある。


かつて、遠い遠い昔。

この大陸は魔法を使う者と剣で戦う者で争う、その舞台として使われていたこと。

そこで、禁忌である魔法で災厄が産まれたこと。

禁忌の魔法を使った者達の子孫が、この大陸に根付いたこと。

それを、隣の大陸に元々居たままの者達が咎人として扱っているかもしれないこと。

だから、隣の大陸との交流はあまり活発化されず、ギルド制度が出来たのも4国の平和を第三者として守るためだったそうだ。


それは王達に伝えられる昔話のような存在で、ノクティアのアナスタ王、ラナンクロスト王はしっかり継いでいた。


マルベルはその話を聞いて、そういえば昔話はしてもらったなというくらいで、ラムアルに至っては皇帝になるのが急だったため、全く知らない状態だ。


「我等4国の王から、ギルドに依頼を出そう。……隣の大陸へと渡り、歴史を紐解く手伝いをお願いしたい」

ラナンクロスト王が威厳に満ちた声で俺達に願うのにも、心が動いた。


……けれど、ファルーアは唸るグランにきっぱりと言い切る。

「会いたければ来いだなんて言ってる奴、探してやることもないわ。……私達は私達、冒険しながら、気楽に進んでいれば何処かで出会うわよ」

「あははっ、そうだよねー、手伝ってほしかったら、普通迎えに来るもんねー」

ボーザックが笑う。

王達の前で、堂々としたもんである。


しかしそれでグランの意志は固まったらしい。

今日もきっちり揃えられた顎髭を擦り、ゆっくり頷いた。


「そうだな。……依頼は受ける。けど、どれくらいかかるのか見当が付かない。気楽にやらせてもらう…これが条件だな」


それを聞いていた王達が笑った。

「いざという時は、あんた達なら勝手に動くだろうしね!」

ラムアルが言い切って、俺達も笑った。


………

……


そうそう、結局、アドラノードの素材はギルドに寄付することにしたんだ。

それを使って、ダルアークのような孤児達が冒険者になるための支援をしてもらうって約束で。

ヴァイス帝国に残された研究員のドーアには、そこから研究費を出してあげるように伝える。

魔力結晶は危険だし、実際は血結晶…元々人の血。

だから、違うものを研究することを条件にした。

彼女は今も、ヴァイス帝国の城で生活しているそうだ。



ちなみに。

ボーザックの鎧は、何とカルアさんから特注品のプレゼントがあって、前の鎧を踏襲した形に白い薔薇が彫られている物だったのである。

いや、もう、ボーザックの喜びようときたら。


やるなあ、カルアさん。


それから、カナタさんからは俺に新しいバフの本が贈られた。


今回は、なんとデバフ特集。

例えば、音や臭いが激しい戦闘で五感アップを使うとそれは逆効果…つまりデバフになる。

そういうバフ同士の構図に加えて、最初から身体能力を低下させる目的のバフを作り出したらしい。


すごい!そんなことも出来るのか!!


魔物へのバフが有効であるとわかったことで、カナタさんはデバフを組み上げることを思い付いたそうな。


さらに、爆炎のガルフからはファルーアに魔道書が。

これは、古代魔法を使いやすくしたものらしい。

ちょっと見せてもらったけど、うん、全然わからなかった。


とにかく凄い物だってことは、ファルーアの興奮具合から理解したんだけどな。


そしてグランには、意外にもラナンクロスト王都ギルド長、ムルジャからの贈り物だった。

なんと、鬚のお手入れセット。


そういえばムルジャの鬚も、執事ばりにきっちり整っていることに今更気付く。


しかもそのセット。

最高級ブランド品で、聞いたこともない恐ろしい値段らしい。


グランは道具をひとつひとつじっくり眺めて、ほうと感嘆のため息をこぼしている。


フェンには王達からぴっかぴかの首輪が。

飛龍タイラントの革の部分には、各国の印が施された特別なプレートがぶら下がっている。

しかも、その印を見せればどの国でも往き来出来るというのだから驚いた。

そして、中央には『銀風』の2つ名。

付けてあげると、彼女は神々しい姿で首を伸ばし、胸を張った。


うん、嬉しそうだ!


そして。

ディティアには、手紙。

「……!」

ディティアはそれを見て、息を詰まらせた。


「……わ、私……」

溢れてこぼれ落ちそうな涙をぐっと堪え、彼女は、俺に手紙を見せてくれる。

立派な羊皮紙で、4枚。

筆跡から、どうも4枚とも違う人が書いたようで…。


「……あ」

俺は、気付いた。


これは、ディティアの亡くなった仲間、パーティーリンドールの残り4人、その、家族からの手紙だったんだ。


そこには、たくさんの感謝と、哀しみに暮れるディティアへの激励、共にその哀しみに向き合って行こうという意思が綴られていた。


俺達冒険者の生と死は背中合わせ。

だから、生き残った仲間は、亡くなった仲間の親に会いに行くことは禁止されている。

親から会いたいと申請があった場合だけ、会いに行くことが出来る決まりなんだ。


生き残った者は、生き残った罪悪感を謝ることで晴らすことはなく、親も、生き残った仲間に『お前のせいで!』と行き場のない怒りをぶつけることがないようにしてある。


読み進めると、リンドールの弓使いナレル、彼女の幼馴染みの名前が書かれていた。


トール。


宿場町カタルーペから帝都へ向かうその時に出会った、俺達の同級生パーティーのリーダーだ。

たしか、180無いくらいのぱっちり眼イケメン。

濃い茶色の髪と眼で、白い鎧を纏っていた……と、思う。


トールはディティアを励ましてくれた。


そして、俺達が武勲皇帝やダルアーク、終には災厄の黒龍と戦っている間に、この手紙を故郷でしたためてもらい、王都のギルドに託してくれたらしい。


「…………」


涙ぐむ彼女の肩に、俺はそっと手を置いた。


「ディティア。ありがとうって、書いてある。何回も、何回も」

言ってみると、彼女の肩が震える。


気付けば、皆が彼女のそばに来ていた。


「ティア。胸を張りなさい」

「そうだな。そいつらに、恥じないように」

「ティア、俺達もいるよ」

「あおぉん」


ディティアは、一生懸命笑って、ぼたぼたと涙を落とした。

「あ、あり、ありがとう……うえぇ……うわあぁん」


優しい空気に、ディティアの泣き声が溶けていく。

彼女の涙は透き通り、すごく綺麗で、切ない。


二度と、こんな思いさせないように。

笑顔を忘れさせないように。


俺は、強くなるんだ。

まだまだ、これからもっと。


…………

……


旅立ちの日がやって来た。

見送りとかもむず痒いし、こっそり行こうと思っている。


前日までに、お世話になった人達には会いに行ってあった。


俺達は早朝にムルジャにだけ挨拶をして、ギルドを出る。


王都の門までやって来て、目指すのは海都オルドーア。

俺が……逆鱗の名をもらった、港町だ。


「また王都に来るのはいつになるかな」

ディティアが笑う。

「さあな、2年後かー3年後かー」

答えると、門の方から笑い声がした。


「はは、その頃には、新しい騎士団長が君の名を広めているよ、逆鱗の。約束しよう!」

「え、は?」


何で、お前そこに居るんだ…?


あふれる、爽やかな空気。

門にいたのは、グロリアスの面々だった。


げんなりしていると、アイザックが笑う。

「行くんだろ!見送りくらいさせろ!」


「えー、何でここにいるの?見送りとかくすぐったいじゃん」

ボーザックが同じように笑いながら、拳をアイザックとぶつけ合う。

「そこの、賢い銀狼が報せに来たぞ、ほっほ」

爆炎のガルフの言葉に、思わず振り返る。


「フェン!?」

澄まし顔の銀狼は、俺の手を尻尾でぴしゃりと叩いた。


それを横目に、銀の髪に蒼い眼の優男は、ゆっくりとディティアに歩み寄ると、手を差し出した。

「疾風の。グロリアスで待っているよ」

「最後まで貴方は………行きませんよ、絶対に」

最後には堪えきれないように笑って、ディティアも手を出した。

「ふふ、そうか」

握り返すシュヴァリエは、ひと言だけ答え、振り返る。


「僕は数年で騎士団長になるだろう。その頃には、歴史が紐解かれていることを期待しているよ」

「相変わらず閃光のシュヴァリエは余裕そうだな」

グランが、俺達とするように拳を突き出す。

シュヴァリエはそれを見つめて、とんっ、と拳を合わせた。

「当然だよ、豪傑の。何せ、逆鱗のハルトを世に広めたのはこの僕だからね」

「何だかその言い方、気持ち悪いわ…」

ファルーアがわざとらしく腕を擦ると、ナーガが黒いオーラを放つ。


それを見たファルーアはふふっと笑って、シュヴァリエに手を伸ばした。

シュヴァリエも心得たとばかりに、うやうやしい動作でその手を取る。

「気を付けて行くといい、光炎のファルーア」

あんまりな光景に固まるナーガに向けて、いつもの妖艶な笑みをこぼし、彼女は言った。


「余裕を持ちなさい、迅雷のナーガ。貴女綺麗なんだから。これくらい出来るはずよ」


「わあ……美男美女ってやっぱり絵になるなあ……」

ディティアがそのタイミングでとんでもないことを言う。


まあ、そう……なのか??


そこに、アイザックが割って入った。

「ったく、からかうのも大概にしてやれ閃光の、光炎の。……おお?そういや光の字、両方に入ってるんだな」

「お前、そっちの方がよっぽどからかってねぇか?」

呆れ顔でグランが言う。

迅雷のナーガは、フリーズしてしまった。


ちょっとかわいそうだ。


「そうじゃ、疾風の。爆風のガイルディアじゃが、恐らく隣の大陸にいるぞ」

その時、ガルフがディティアにいいことを教えてくれた。

「え、本当ですか!?」

「うむ。彼奴はふらふらする節があっての。最近、どの街にも現れてないようじゃからまずこの大陸にいないと思ってたんじゃ。ギルド経由で問い合わせたら、やはり船に乗ったことはわかったぞ」

「じゃあ、もしかしたら…」

「うむ。会えるかもしれんの」

「わあ!…ありがとうございます!!」

これには、俺達も嬉しくなった。


「…そうとわかりゃ、俺達はそろそろ行くぞ」

そわそわし出したディティアを横目に、グランが締める。


振り返れば、山の頂に美しい城がそびえる、蒼と白で統一された美しい都。

昇り始めた朝日が、きらきらと家屋を照らし、絵画のような景色を見せてくれた。


すると。


「……逆鱗の」

唐突に呼ばれて、俺は何時ものようにシュヴァリエに鼻を鳴らした。

「何だよシュヴァリエ」


「君がここまで登って来たこと、誇らしく思うよ」


「………は…?」

思わず、目を見開いたと思う。

満足そうなシュヴァリエが、笑う。

祝福のアイザックも、爆炎のガルフも、シュヴァリエのその言葉ににやにやと笑った。


「道中気を付けたまえ、ではな」


踵を返し、蒼いマントが翻る。

颯爽と歩き出すその背中を、グロリアスの面々が追い掛けていく。

しばらく、会うこともないだろう。



呆然としていると、隣に小柄な双剣使いが立った。

「…ふふ、ハルト君褒められちゃったね」

「……褒められた…のか?」

「あらあら、ハルト。口元が笑ってるわよ?」

「わ、笑ってなんか!」

「そりゃ、嬉しいよなあ。あの閃光だぞ?」

「嬉しくなんかないって…」

「照れなくてもいいのにーハルトらしいなあ!」

「て、照れてないからな!!」

「がう!」


思わず、右腕で口元をごしごししてしまう。

皆が笑い、俺は既に結構離れたシュヴァリエの背中を一瞥して、歩き出した。


ほんと、毎回毎回、俺の逆鱗とやらを刺激してくる奴だよ!


…けど。

彼奴には、負けたくない。

まだ、届いてないことくらい、わかっているから。


素直に、ちょっとくらいは喜んでやってもいい、と。

そう思った。


グランがそんな俺の肩を叩き、前に出る。

紅い髪と眼のいかつい大男は、美しい曲線の盾を背負い、にやりと振り返った。


「さあて、最高の旅立ちといくか!」


『おー!』

「がう!」


俺達の声は、何時も通り、早朝の風に乗って散っていくのだった。




……to be continued……



続編 逆鱗のハルトⅡ

https://ncode.syosetu.com/n7144ef/



お疲れ様でした。


ここまでお付き合いくださった皆様に、とてもとても感謝を。

評価、感想、ブックマーク、どれもこれもとても嬉しかったです!


次の大陸でのお話は、また違う機会に出来たらいいな、と思っていますので、もしお目にかかることが出来た際は、またお付き合いくださると嬉しいです!


仲間と共に成長する、バッファーハルトの冒険譚。

ありがとうございました。


↓↓

続編は逆鱗のハルトⅡでも書き終えたのですが、見つけにくいというご意見があったので以下に統合します。

引き続きどうぞよろしくお願いします!


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ