有名になるので。⑥
式典が終わり、宴が開かれることになっていた。
それまでの時間に、俺達は久しぶりに各国の王達と話す機会を得る。
「元気そうじゃないか白薔薇!グラン!相変わらずいい盾じゃないか。また撫でさせてくれるかい?」
まずはノクティアのアナスタ王が物凄い勢いで走ってきた。
グランは若干仰け反りながら、渋い顔をして背負っていた盾を前に降ろす。
「ああぁ!このすべすべ感、うむ、よく磨かれているな。余は満足しているぞグラン」
「ったく…あんまり手垢付けんなよ?」
「そういえば、菓子白薔薇。大分売れているぞ。ナンデスカットでは他国への輸出にも大忙しらしいな。ところでどうだ、2つ名持ちパーティーになった気分は?」
グランをさっぱり無視して大盾を激しく撫で回しながら、アナスタ王は恍惚の表情で言った。
さすが商業大国の王、こんな時にも取り敢えず商売の報告が先なんだな。
「ま、最高だろ」
グランは苦笑交じりに、言い切る。
思わず、アナスタ王も苦笑いした。
「ハルト!」
「お…マルベル!酷いよなー、マルベルが紹介してくれると思ったのに!」
次にやってきたのはハイルデン王マルベル。
奴隷制度が無くなったハイルデンの話は、さっき少しだけ側近であるガイアスから聞いていた。
「あははっ悪かったと頭を下げただろう?そう怒るな。……白薔薇の活躍、しかと聞いている。……それから、そうだ。フォルターはどうした?」
「フォルター?……ああ、そうか。マルベルに派遣したんだったな。……あいつ、ラナンクロストで冒険者になったんだ!」
「ほう、そうか!良かった……聞けば、今回のことで解散されたダルアークは奴隷から逃げた末に辿り着いた者も多いそうだ。身寄りが居なくなってしまった者も多いだろうな。……心配していたんだ」
マルベルはそう言って、ほっと息をついた。
「希望者をハイルデンで雇うことも可能だ。どうかフォルターに会ったら、身寄りの無い者でハイルデンに住みたいと言う人がいたら、まずギルドに寄るように話してくれと伝えてほしい」
俺は頷いた。
どうやら、ギルドとも上手く関係を築けているようだ。
それで豊かに暮らせるのであれば、そうしてほしいと切に願う。
マルベルは満足そうに頷いて、俺と拳を突き合わせた。
「さて、疾風のディティア!相変わらず可愛らしいな。元気にしていたか?」
「えっ、ええっ!?」
そして矛先はディティアへ。
真っ赤になって首を振る彼女に、マルベルはにこにこと歩みよって手を取った。
「此度の功績、共に祝わせてくれ」
「と、と、とんでもなっ、とんでもないです!」
慌てふためくディティアに、マルベルは相変わらず小動物みたいだと上機嫌。
そこに、今度は炎のようなオレンジ頭がやってきた。
「ちょっと!連絡もしてこないであんた達!結構心配してたんだから!」
真っ赤なドレスに編み上げられた長い髪のラムアルは、動きにくそうだ。
そういえば、特にハトや伝達龍を飛ばしたわけじゃなかったなぁ。
「ラムアル、今日はすっごい赤いねー強そうだよ」
ボーザックが言うと、ラムアルは眼をぱちぱちする。
「え…そ、そう?……そうかしら」
「いや、そこ照れるところじゃないって」
思わず突っ込むと、ラムアルはふんと鼻を鳴らして腕を組む。
「ハルト、あたしは強いって言われるのが最高の褒め言葉なのよ!」
「えぇ、それどうなんだ……?」
そうこうしていると、侍女が宴の準備が整ったことを報せにやってきた。
俺達は今日は特別席に座らされて、貴族や冒険者、騎士、一般国民と交流するらしい。
…何話したらいいんだろう。
なんか、有名になるって大変なんだな…。
******
「ぶっはあ!あー、しんどー!」
今夜は城に泊めてもらえるらしく、ボーザックはこれでもかと言うほど柔らかなベッドに突っ伏した。
「せめてシャワーくらいしたらどうだ?」
グランも言いながら、ぐったりとソファにもたれている。
うん、かく言う俺も、床に座り込んでたりする。
……それが、来るわ来るわ大量の人。
特に、どういうわけか俺達は貴婦人に囲まれ、冒険者の女性に囲まれ、果てはパーティーに入れてくれとか言われて散々であった。
一応、騎士が護衛のような感じでついてくれるんだけど、中々諦めずにそばで話す女性も多くて。
逆に、ディティアとファルーアは男性陣に囲まれていたようだけど…大丈夫だったかなぁと思っていたところにファルーアの氷の雨が降ったので、大丈夫なんだろう。
とにかく、解放された頃には、すっかり疲れていたってわけ。
「バフ掛けて貰えば良かったな」
グランがぽつりとつぶやく。
「確かに、ここまでしんどいとなると…」
話していると、遠慮がちなノックが聞こえた。
「はーい?」
ボーザックが答えて、身体を起こす。
「ちょっと、開けてくれるかしら?」
「あれ、ファルーア?」
俺はのろのろ立ち上がって、ドアを開けた。
そこには、ファルーアとディティアが、お酒とつまみを持って立っている。
足元のフェンは、グラスを載せたトレーを器用に背中に乗せていた。
「まだ、私達で祝ってなかったから」
ファルーアは妖艶な笑みをいつものようにこぼして、勝手に部屋に入っていく。
「お邪魔します~」
ディティアも、上機嫌。
ちょっと酔ってるようだ。
宴の時に少しは飲んだはずだからなあ。
俺達は部屋にあるテーブルではなく、バルコニーに出た。
満天の星空が、見下ろしている。
何処からか花の香りを運ぶ風が心地よい。
それぞれのグラスに少し発泡したさっぱりした風味のお酒を注ぎ、グランを見る。
「……悪くねぇ夜だ、俺達は、まだまだ有名になる」
皆を見回して、グランはにやりと笑い杯を掲げた。
「俺達、白薔薇のこれからに、乾杯」
『乾杯!!』
「がう!」
うん、本当に。
最高の夜だった。
本日分の投稿です。
白薔薇もここまできました。
皆様のおかげです。
ありがとうございます!
なんと投稿ボタンの押し忘れという致命的なミスしました。
日付変わっちゃってがっかりです(>_<)




