有名になるので。③
「ここに、災厄の黒龍アドラノード討伐において、とどめを刺した冒険者を招いておる。……彼等は、知る人も多かろう。彼の飛龍タイラントを屠りし、白薔薇である!」
うわああぁぁぁぁー!!!
うわ……。
歓声と、驚愕と、ちょっと腰が引ける感じと。
ラナンクロスト王に紹介されるようにして、俺達はバルコニーに引っ張り出された。
(……聞いてないぞハルト)
(お、俺に言うなよ)
(多少想像は出来ていたんじゃないかしらグラン?)
(まあ、なあ)
こそこそと言葉を交わし、俺は庭園を見渡した。
拍手が鳴り止むと、期待に満ちた空気が残る。
晴れた空の下、俺達を見上げる顔、顔、顔。
「彼等は、名誉勲章を授かった冒険者である。此度も、彼等は冒険者の代表として恥じぬ素晴らしい功績を残した。……その名、皆も知っていると思うが、改めて紹介しよう」
俺達は、固まった。
しょ、紹介!?
すると、ノクティアのアナスタ王がグランの背を押しながら前に出た。
(お、おおっ!?)
グランが眼を見開く。
「……まずは余が紹介しよう。……白薔薇のリーダーたる大盾使い、この美しい白薔薇の花びらは、飛龍タイラントの角で出来ている。……そして、彼の2つ名は、我々4国の王が全員承諾して付けた。……驚け冒険者よ、称えよ各国の民よ!……豪傑のグラン、その豪胆で物怖じしない勇気を、我々が認めた男である!」
大盾マニアのアナスタ王は、褐色の肌に複雑に編み込まれた艶のある長い黒髪。
蛇のようにきりりとした黒眼と、今日は髪飾りと合わせた紫色のドレス姿だった。
額にはティアラが煌めき、異国の雰囲気を十分に感じさせる容貌に、皆息を呑んだことだろう。
轟くような拍手が、グランを包む。
……豪傑のグラン。
俺達のリーダーは、やがてアナスタ王に促されて、バルコニーの最前線に立った。
「あー……こういうのは苦手だからな…。…冒険者と、これから冒険者を目指す奴らに、話したいと思う。俺は、1人じゃ何も出来なかった。共に戦う仲間がいて、初めて…ここにいることが出来ていると思ってる。……パーティーに限ったことじゃない。大規模討伐なんかもそうだ。……忘れるな、全ての冒険者は1人じゃない。……俺達も、まだまだこれからだ」
か、格好いいこと言うなグラン!!
俺は思わず、誰よりも先に拍手してしまった。
音は伝染し、皆の微笑みが見える。
よっ、白薔薇のリーダー!
なんて囃し立てる声も聞こえた。
それが落ち着く頃、次はボーザックが、ラナンクロスト王に押し出された。
「うわ、わ」
「……さあ、次だ。……我が国では、年に一度大きな剣術闘技会を行っておる。ここにいる大剣使いは、堂々と乗り込んできた。……多くは語らないが、本当に見事な戦いであった。……我々の国を守る王国騎士団は、彼を英雄視する者も多い。……その名は」
王がそこまで言うと、庭園の、最前線……つまりバルコニーの下辺りに整列していた騎士達が、突然剣を掲げた。
『不屈のボーザックに栄光あれッ!!』
「う、うわあ……ま、またそれ!?も、もういいよ、俺恥ずかしいよ!!」
ボーザックが尻込みするのを、ラナンクロスト王が笑って前に押し出した。
「不屈のボーザック。彼の不屈の精神に、皆、拍手を。さあ、何か伝えることは無いか?」
割れんばかりの拍手の中、ボーザックは俺達を振り返って困った顔をする。
けれど、諦めたのかやがて前を向いた。
「……俺は……まだまだ強くなりたい。だから騎士達に、宣戦布告させてもらうよ!次の剣術闘技会……あ、うーん、その次かもしれないし、そのさらに次かもしれないけど!!……俺は、必ず優勝する!!」
おおーーっ!!
歓声が上がる。
そう言った後、ボーザックは続けた。
「でも!俺は騎士達も好きだし、喧嘩したくないから!冒険者も、騎士も、仲良くしよう!!……えーっと、以上!」
あははっ、と笑いがこぼれる。
俺達もボーザックに、拍手を送った。
そして。
「ディティア」
ラムアルが、ディティアの手を引く。
「え、えっ。ら、ラムアル……」
グランの後ろにそーっと隠れるようにしていた彼女は、あっという間に引っ張り出されていった。
「あー、こほん。……彼女は、疾風のディティア!皆が知る強い双剣使いで、あたしの恩人よ!…彼女は、心も強い。本物を見るのが初めてな人も、そうでない人も、讃えなさい!!疾風のディティアは、気高く強い!!」
ラムアルの説明は、何て言うか物凄くラムアルらしかった。
聞いていたディティアも、苦笑したくらいだ。
それで緊張がほぐれたのか、彼女はゆっくり前に出ていく。
その顔は…疾風の、ディティアだった。
「私は……前パーティー、リンドールの仲間を亡くしました。全然、守ることも出来なかった。噂とかで聞いている人も居ると思います。……ここにいる白薔薇の皆が、そんな私を受け入れてくれて、一緒に強くなろうと言ってくれました。だからこそ、強くなりたいから、ここで……私の口から、リンドールのことを話させてください。彼女達は、本当に素敵な仲間でした。……私は、彼女達と一緒に冒険出来て嬉しかった、幸せだった、彼女達が、大好きです、今も……これからも。どうか、知っていてください。突然、仲間を失うこともある……残酷な現実もあるってこと。けれど、また、こうして歩き出せるんだってこと」
「疾風-!頑張れー!」
庭園から、声援が聞こえる。
ディティアは、微笑んでからぺこりと頭を下げて、戻ってきた。
「何か、こう、ぐっときた」
俺が言うと、ディティアは笑う。
「そっか。……私も、少しすっきりした」
それなら、本当によかった。
あの時、声を掛けてよかった。
俺はそう思って、笑って頷いて見せた。
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