有名になるので。②
溢れんばかりの人、人、人。
冒険者も騎士も一般国民も……おまけに貴族まで。
城の前、巨大な門は開放されて、城まで続く庭園にはこれでもかという人集りが出来ていた。
こんなに集まった人を見たのは初めてだ。
「すげぇな……」
窓からちらちら覗いていた俺達は、丸テーブルについて優雅にお茶を飲むファルーアに鼻で笑われた。
「みっともないわね、堂々としてなさいよ」
「あはは」
隣のディティアも笑うだけ。
……本当は、式典だからとドレスを勧められた女性陣だったんだけど、冒険者はドレスで戦うわけじゃないからとお断りしたのだ。
かく言う俺達男陣も、肩が凝りそうなスーツを辞退して、いつも通りの格好。
そうそう、ボーザックの鎧は、今日だけ艶消し銀の物を借りた。
毎日のように探しに出たんだけど、結局気に入る鎧は見付かっていなかったのだ。
結局、自分の物が無いままこの日を迎えてしまったボーザックは、もうアドラノードの素材に期待しようかなぁと投げ遣りだったりする。
「で、当日になったんだけど、俺達は何するんだ?」
……俺は、何故かファルーア達のテーブルに一緒についていた次期騎士団長殿に話し掛けてやることにした。
「はは、逆鱗の。ここまで何も話していないのに今更話すと思うかい?」
「あぁそうかよ……」
聞いた俺が馬鹿だった。
…シュヴァリエは、わざとらしくにこりと微笑んで、優雅にお茶を飲む。
「皆様、お時間です」
そこに、侍女が俺達を呼びにやってきた。
……ろくな事にならないんだろうなあ……。
******
「……此度、我等が4国を脅かした災厄の黒龍アドラノードが討伐されたことは、皆の耳に届いておろう」
ラナンクロスト王の演説が始まった。
威厳のある声で、まさに王様である彼が話し始めると、ざわざわとしていた人々がしん、と静まり返る。
バルコニーに上がる王の傍には、ノクティアのアナスタ王、ハイルデンのマルベル王、ヴァイス帝国皇帝ラムアルの姿があった。
……皆、しっかりとした生地の王たる衣装で、堂々と立っている。
それは、何て言うか……圧巻だ。
(……白薔薇)
こそりと話し掛けられて、俺達は振り返る。
(…!ガイアス!)
鉄壁のガイアス。
やさしそうな深い蒼い眼に、少し茶色がかったさらさらの金髪。
俺とボーザックの間くらいの背丈で、しっかり鍛えた体付き。
ハイルデンのマルベル王の側近、近衛の男性が、人指し指を口元に当てて、しぃ、と微笑んだ。
俺達は声が演説に入らないよう、バルコニーから離れて、お互い握手を交わす。
「到着してから少しでも会う時間が取れないかと、マルベルがやきもきしていたよ。……元気そうだな」
「おう、そっちも元気そうだな。……どうだ、ハイルデンは」
「まだ始まったばかりだが、活気に満ちてきたよ。……白薔薇のお陰だと、毎日のようにマルベルが言っている。……そうだ、おめでとう豪傑のグラン」
グランに返して、ガイアスは微笑んだ。
「ああ…4国の王に認められた2つ名、無事に貰ったぞ」
大盾使いの2人は、拳を突き合わせて楽しそうだ。
…やっぱり同じ職だと通じる物でもあんのかな。
「…私も、話す」
そこに、小柄なオレンジ頭がひょこりとやって来た。
「…シャルアル?」
「そう。…久しぶり、白薔薇」
おお…。
思わず聞き返すと、ひんやり対応で返される。
ヴァイス帝国皇帝ラムアルによく似た派手なオレンジ頭に、紅い眼。
すごく小さくて幼く見えるが立派な大人であるラムアルの妹、シャルアルが割り込んできた。
疑問系になったのは、すごく可愛らしい格好だったからだ。
ラムアルは皇帝らしい真っ赤な細身のドレス姿だけど、シャルアルは髪がよく映える水色の空みたいなふわふわのドレスなのである。
「可愛い!シャルアル!」
ディティアが嬉しそうに言って、くるくるとシャルアルの周りを回った。
「すごい、ふわふわだね!」
「うん、ラムアルの趣味」
「ええ、言わずもがなね」
ファルーアも交ざって、女性陣は盛り上がって?しまった。
「……お前ら、王の話も聞かないとはいい度胸してんなぁ」
そこに今度は祝福のアイザックがやってくる。
「え、アイザックここにいるのに人のこと言えるのか?」
笑うと、アイザックもにやりとした。
すると、やってきた厳つい黒ローブに、ガイアスがはっとしたのがわかった。
「……貴方は、名高いグロリアスのヒーラーとお見受けするが」
「お?……そっちこそ、あの鉄壁のガイアスか?」
「あれ?2人は会ったこと無いの?」
ガイアスとアイザックに、ボーザックが交ざる。
「ああ。1度お会いしたいと思っていたよ。……ガイアスだ」
「しばらく行方不明だなんて聞いてたが……そうか、マルベル王の側近になってたとは。……アイザックだ」
「へえー!あははっ、2人が友達になるって、嬉しいかも!」
こっちも、楽しそうに盛り上がり始める。
なんか、面白い組み合わせだなあ。
俺はグランと2人、足元のフェンも入れて、楽しそうな光景を眺めた。
……王の側近と、皇帝の妹。
思えば、とんだ有名人達と知り合ったものである。
ところが、そんな平和な雰囲気に、突如声が割って入った。
「ほっほ、ほれ、白薔薇。出番じゃぞ」
見ると、爆炎のガルフが、バルコニー側からちょいちょいと手招きしている。
「出番?」
「ほれ、早くせんか」
……うわぁ、なんか嫌な予感しかしない。
俺達は顔を見合わせて、バルコニーへと向かった。
本日分の投稿です!
いつもありがとうございます。
読んだって書いてくださる人がいて、
たまたま見つけてびっくりでした。
本当に皆様には感謝です。




