有名になるので。①
「あら、お帰りなさい」
部屋に入ると、ファルーアは寝たままこっちを見た。
妖艶な笑みは俺の知るファルーアそのもの。
まるで人形のように眠っていた姿が、瞬時にかき消えた気がする。
…ファルーアだ。
ファルーアが、起きた。
実感が湧き上がってくる。
「ファルーアぁ!」
感極まったのか、いの一番に飛び出したのはディティアだった。
「起きてたなら教えてよ!びっくりしたんだから!」
頭をぐりぐりとファルーアに押し付けるディティアは、小動物そのもの。
俺は何となくほっこりした気持ちになって、彼女が落ち着くのを待った。
ファルーアはくすくすと笑いながら、そんなディティアの頭をぽんぽんする。
「悪かったわね、もう大丈夫みたい」
「うん…起き上がれそう?」
「それは……怠い気はするわ。……ひと月もあったんじゃ、ちょっと筋力も落ちてそうね」
「じゃあ少しずつだね!……何からしようかな、腹筋…?」
「え、ちょっとティア。私を壊したいのかしら……?」
「えー?」
2人がそのまま会話をひたすら続けてしまいそうな感じに、一瞬不安を覚えると。
「疾風の。先に、彼女も交えて聞いてほしい話がある。微笑ましい光景だが少しいいかい?」
シュヴァリエが、涼しい顔で割って入った。
ディティアははっとすると、おずおずと振り返る。
「あ、そ、そうでした、ね。閃光のシュヴァリエ…微笑ましいかは別として、どうぞ先に」
思わずふふっと笑うと、こっちを見て頬を膨らまされた。
「いや、リスみたいで可愛いなと」
「ハルトはややこしくするから黙ってなさい」
「えぇ……」
早速ファルーアに怒られた。
思わず振り返ると、グランもボーザックもやけに嬉しそうににやにやしている。
「いいわよ、閃光のシュヴァリエ」
ファルーアが促すと、シュヴァリエはゆっくり頷いた。
「さて、では事の顛末は白薔薇のパーティーで話したいだろうから、僕は今後についてだけ失礼しよう」
シュヴァリエが、やたら爽やかな空気を撒き散らして、颯爽と話し出す。
「ひと月後、4国の王を集めてラナンクロスト城での会議が開催される。議題は勿論、災厄の黒龍アドラノードについて。また、埋もれた歴史のすり合わせを行う。……そこに、主要ギルドの長と冒険者の代表も招集する必要があるんだ。僕達グロリアスは、僕の地位があるので対象外。必然的に君達、白薔薇が選ばれる。……何せ名誉勲章持ちだ。これ以上の適役はいないだろうね」
「代表って…前も思ったけど…何するの?」
ボーザックが手を上げて聞き返す。
シュヴァリエはいい質問だね不屈の、と満足げな顔で、続けて話し出す。
……どうでもいいけどいちいち煌びやかな仕草がまざるよなこいつ。
「君達は、恐らく冒険者から見たアドラノードの脅威を語る必要がある。つまり討伐の詳細を実際に王達へ説明するのが、君達の役目だ。報酬内容については、ギルド長と王達が決めるはずだね」
「ふうむ、それだけでいいのか。案外楽だな」
グランが髭を撫でると、シュヴァリエは頷いた……だけでなく、爆弾を投下していった。
「君達白薔薇は既に名の知れたパーティーだ。これくらい、簡単に熟してくれるだろうと信じているよ?……ちなみに、その前に開かれる式典へも、君達は強制参加だ」
******
式典の詳細は語らず、シュヴァリエはではね、逆鱗の。と言っていなくなった。
ついでにナーガも付いていったし、残ったのは俺達白薔薇と、アイザック、ガルフだ。
「で?式典ってのは何なんだよ、アイザック?」
聞くと、袖無し黒ローブの男は大袈裟に肩を竦めた。
その顔は……笑っている。
「……知らないな」
「えー、嘘っぽいよアイザック」
ボーザックの援護射撃に、アイザックは益々笑った。
「はははっ、予想はつくが、言ったらつまらないからな。……おい、ファルーア。身体の状態見るからちょっとじっとしといてくれ」
「ああ……そういえば貴方がずっと看ていてくれたらしいわね。恩に着るわ」
「ん?何だ、誰から聞いた?」
「閃光のシュヴァリエよ」
「……は?シュヴァ…閃光のが、俺のこと話してたのか?」
アイザックは、眼をぱちぱちさせる。
「そうよ。そんなに意外なことなのね」
ファルーアが突くと、アイザックははっとして背筋を伸ばした。
「あー、ごほん。……べ、別に意外ではないぞ」
「ほっほ、そんなに嬉しいのか祝福よ。こりゃあ、肴に出来そうじゃ」
「じいさんは黙ってろよ!ご、ごほん。ごほん。……ほら、とりあえず治療だ!」
俺達はアイザックの意外な一面を見て、思わず笑った。
何だかんだ、仲良いんだな、こいつらって。
******
それからひと月は、あっという間だった。
ファルーアが歩けるようにディティアのスパルタなリハビリが行われ、俺達は各々依頼を熟して身体を鍛える。
それの繰り返しだというのに。
アドラノードの情報は日に日に増えて、今や王都でも聞かない日は無かった。
腐った龍だとか、焼き払われた荒野だとか、そんな話を肴に王都はお祭り状態。
たぶん、ほかの王都、帝都でもそうだろう。
……そんな中で会議が近くなると、式典の話も一気に広まって、王都全体がそわそわし始めた。
商人達も増えて、一般国民街にまで彼方此方で露店が見られるようになり、そこでは自慢の商品達が並ぶ。
その空気に呑まれ、俺達も毎日、何て言うか緊張が高まっていく。
ファルーアもその頃にはすっかり回復して、一緒に依頼を熟していたんだ。
……そして。
式典の日が、やってきた。
ぎりぎり!本日分の投稿です。
皆様のおかげでここまで走ることが出来ました。
感謝感激雨あられ、
いつも本当にありがとうございます!




